第18話 3人の王子

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作者より

今回は人名がたくさん出てきます。

ご面倒でしたら飛ばしていただいても大丈夫です

2章の最後に簡単な人物紹介を入れる予定ですので

それまでお待ちいただけば、斜め読みでも話はつながります。


それでは、お楽しみください。時間が少しだけ巻き戻ります。

隠しタイトルは「驚愕のバネッサ」で~す。

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 もう3月も半ばになった。


 もう少ししたらショウ君が、デビュタントの挨拶と、王立学園入学への挨拶をかねて我が家にやってくることになってる。


 下位貴族の場合、デビュタント後に、すぐさま親貴族に挨拶するのが基本だ。しかし伯爵家クラスともなると、逆に子貴族や分家から一通りの挨拶を受ける義務があって、それをすませると、今度は新年の行事へと一気に流れ込む流れになるものだ。


 だから、伯爵クラスがへ挨拶をするのは1月の下旬となるのが普通だった。


 けれども3月にずれ込むのは珍しい。今回は、ガルフ伯爵から丁寧なお詫び状が届いている。


 やむを得ない事情があったのだ。


 なんと公爵家の娘・アテナイエー様がショウ君の家に同居してしまったのだ。


 ご本人と、そして、何よりも公爵様が「決闘に負けた結果としてショウ様の所有物になった」と主張していらっしゃるんだとか。


 ほとんど意味不明だし、そんな法律も慣習も何もないのだけど、公爵様の意向で同居しているというのは本当らしい。


 それではむやみに動けないのもわかる。いや、六侯爵家の末席であるカインザー家としては公爵家の意向が挟まっている以上「わかりました」と答えざるを得ない。 


 その間に、お父さまがあらゆる情報をかき集めてくれた。デビュタントにまつわる情報だ。


「信じられないわ」


 家令のユーリスが淡々と報告を終えての第一声は、こんな感じ漏らしてしまった。


「まあ、率直に言えばそうだね」


 お父さまも、すなおに同意してくださった。


 もちろん、長年、我が家に仕えてくれた家令のユーリスがまとめた話がウソなわけがない。リクツではそう思う。


 でも、こんなの信じられると思う?


 ショウ君がデビュタントで御三家の令嬢と深い仲になったですって?!


 耳を疑いたくもなる。でも、ユーリスがまとめ上げた侯爵家の情報網は確かだ。集めた話によると……


 今年のデビュタントはの事件が大集合してしまったらしい。


 デビュタントの前に贈ったプレゼントが気に入られ、シュメルガー家とスコット家のご令嬢は控え室にショウ君を招くほど気に入った。


 だから、というわけなのか、ショウ君がお城の大広間ホールにエスコートしたのはシュメルガー公爵家ご令嬢のメリディアーニ様だった。


 もう、その時点で会場にいた人達はザワついたんだけど、次に入場したのが、なんとガーネット公爵家ご令嬢のアテナイエー様が男装してスコット公爵家ご令嬢メロディアス様をエスコートするという組み合わせ。


 まさかの御三家令嬢のそろい踏み。


 ガーネット家のご令嬢のデビュタントは来年だから、これは「スコット家の意向」が入っているのは明白なこと。


 後で壇上からその光景を見つめる王様もポカンと口が開きっぱなしになったとか。


 もう、それだけでも「お腹いっぱい」のウワサが飛び交っちゃったんだけど、デビュタントのクライマックスであるダンスが始まるとさらにすごかった。


 異例のエスコートではあったけど、ある意味で常識通りにファーストワル ※はメリディアーニ様とショウ君が踊った。それを壁の花となってにこやかに見つめていたのがメロディアス様とアテナイエー様だった。公爵令嬢がファーストダンスで壁の花になるだなんて、ありえない。


 きっと、おそば付きの侍従達は、壁の花となったお嬢様の姿を遠くで覗きながら生きた心地がしなかったはずだ。


 王様の挨拶が入って、その後に始まるのがセカンドワルツ。


 王族もいっしょに踊るのが仕来りだから、踊れるのは伯爵以上の組み合わせであることは不文律だ。なお、王様は必ず王妃様と踊り、王族の方々はあらかじめ文官達が家格や「無難さ」を基準にして踊る相手を選んでいる。


 ここでメロディアス様とショウ君が踊った。公爵家令嬢が、セカンドワルツで初めてダンスするというのが、そもそも「事件」だし、今度はメリディアーニ様が壁の花となる異常事態。


 居合わせた貴族も、使えている人達も顔を引き攣らせてしまったらしい。


 それなのに、ニコニコと見つめるメリディアーニ様とアテナイエー様。


 その後、踊りが続く中をショウ君は主にメリディアーニ様とメロディアス様とにこやかに談笑して過ごした。それを一歩引いて見つめていたのはアテナイエー様という構図だ。


 フィナーレのラストワルツは、いつの間にか着替えて、見事なドレス姿を披露したアテナイエー様と踊った。


 そのダンスを見つめていたのはメリディアーニ様とメロディアス様だった。


 つまり、節目のダンスを御三家のご令嬢とそれぞれ踊ったという剛毅な男。それがショウ君。しかも身分は一介の伯爵家の息子でしかない。


 それだけでもザワつく話。しかし、本当の衝撃は、その直前に起きていた。


 列席していた、第2王子と第3王子が、マナー無視で競うようにメリディアーニ様とメロディアス様にダンスを申し込んだのだ。


 ありえないことだった。


 普通、ダンスを申し込まれた女性は、婚約者がいるか先約がある場合以外は断らないのがマナーとされている。でも、嫌な相手とは踊りたくないし、家の事情でお相手できない人もいるから、そういう相手が近づくと飲み物のグラスを特定の持ち方をすることになっている。あるいは、慎み深いレイディなら初めからそうやってグラスを持っているものなのだ。(もちろん、踊りたい相手や踊るべき相手が来たら、パッと持ち替える早業を見せるのも淑女の嗜みだ)


 その持ち方をしている女性をダンスに誘うのは、マナー違反どころではない行為となる。これは身分の低い家の女性を守るルールでもあるから、どれほどの高い身分の男性でも絶対にやってはいけない行為となる。


 ついうっかりとか、見えなかったという言い訳は一切通用しない。


 ワイングラスの柄の一番下に広がる部分を4本指で支える独特の持ち方だから絶対に見間違えないし、見間違えるようでは社交などできない。デビュタントに出る資格などないと叱られて当然のこと。


 すごく簡単に言えば「これがわからないような無頼漢バカは即刻退場」と言われてもおかしくないほどのことだ。 

 

 それなのに、二人のは、恥知らずにもグラスをしっかりと持った拒否持ちした令嬢に、それもダンスを申し込んだのだ。


 ゲヘル第二王子はメリディアーニ様に申し込んで断られた後、メロディアス様に申し込んで断られ、ゴンドラ第三王子は、逆にメロディアス様に申し込んで断られた後に、メリディアーニ様に申し込んで断られた。


 まるで庶民向けの小話劇コントでも見せられているようで、会場は忍びやかな冷笑に満ちたのだとか。


 無理もない。


 恥を知らないというのは怖いもの。本人達は恥ずかしがるどころか怒りだしてしまった。側近達が慌てて取り囲ん力尽くで連れ出さざるを得なかった。


 舞踏会の締めの挨拶は王妃様がなさるのが通例。でも現れた王妃様は挨拶もそこそこに「今日は最後まで立ち合うべき家族の体調が優れず、誠に申し訳ない」と謝ったのもデビュタントの歴史上初めてだった。

 

 文字通り、前代未聞の事件がいくつも起きてしまった。


『これはヤバい。いろいろとヤバい。お姉ちゃん的には、ヤキモチどころじゃなくて心配な領域ですよ』


 可愛いショウ君だもん。モテるのはわかるよ? 御三家のご令嬢に見初められるのは妬けちゃうけどわからなくはない。


『でも、こんなのありえないレベルだよ』


 王子の非礼な行いが一番ビックリだけど、ショウ君が御三家の令嬢をとっかえひっかえしたのもビックリ。


 これからのことをいろいろと考えなくちゃいけないらしい。


 実は、この事件を笑ってすませられない事情が、今の王国にはあるのだ。


 今現在で適齢期なはずの三人の王子の誰にもという異常事態だ。


 普通であれば、御三家ともに適齢のご令嬢がいらっしゃっるんだし、派閥争いも含めて「公爵家のどこが、どの王子と結びつくか」が焦点となるだろう。


 それなのに、御三家のご令嬢が選んだのは「伯爵家の長男」なのだ。しかも、男装してメロディアス様のエスコートをしたアテナイエー様はともかくとして、交際を公爵家の当主が認めているからこそ、デビュタントでの節目のダンス・パートナーができたというのは貴族の世界の常識だ。


 おそらく、第二王子も第三王子も、それを目の当たりにして焦った振る舞いの結果に違いない。だからと言ってやって良いことじゃないというのはあるんだけどね。


 もちろん、これから御三家それぞれの駆け引きもあるはず。


 こうなってしまうと、どこの家の令嬢であったとしても「どの王子と婚約するのか」と言う問題は火中の栗を拾うようなものになってしまった。


 王国全体から注目される「ツボ」なのだ。


「ここまで聞けば、お前にも先が見えるね?」


 一緒に話を聞く形を取ったお父さまは、難しい顔をしながら紅茶を一口飲んだ。


「はい。王子様が婚約する場合、御三家のお嬢様方が無理なら侯爵家が順当です。そして六侯爵家の本家筋である適齢の女で婚約をしてないのは、私だけということですね?」

「その通りだ。おそらく、王家と公爵家とのなんらかの駆け引きがあるとは思うが、当家に話が来るのは時間の問題だろう」

「私はどの方と?」


 自分としては望ましいことではないけど、侯爵家に生まれた娘として政略結婚は仕方ないとも思う。でも、女と生まれた以上、好きな人と添い遂げたいと思ってしまう。


 ショウ君の顔が浮かんだ。


『あぁ、もっと早く打ち明けておけば良かったかな』


 たまに…… このごろは、しょっちゅう私のお胸をジッと見てるし、小さい頃から私の後ばかりくっついて歩いてたし。決して嫌われてないとは思うけど、結婚ともなれば好きとか嫌いだという気持ちとは別の話になる。


『それに、公爵家のご令嬢は、いずれもあやめか燕子花かきつばただっていわれているもの。平凡な器量でしかない私を、今さら選ぶはずが無いよね』


 ショウ君に選んでもらえないなら誰と結婚してもいいよね?


 ちょっとだけ涙が出そうになったけど、ふっと、気付いた。


 お父さまの答えが返ってこない。


 目を上げると、お父さまは明らかに困惑なさっていらっしゃった。


「実はね、ここで困ったことがあるんだ」

「はい?」

「順番的に言えば、第一王子のゲール様だ。しかしながら、ご本人は全く結婚をする気が無いと公言なさっていらっしゃる。と言うよりも女性に興味を持ってない」

「やはり、それは事実なんですね」


 ウワサくらいは聞いたことがある。ゲール様は男性にしか興味をお持ちにならない。だから、と言うわけなのか見た目の可愛らしいお稚児さんをたくさん置いて、身の回りの世話をさせているらしい。


「となると、正妃を母上に持たれる第二王子のゲヘル様かと言えば、これについて重臣達の間で少々、心配…… というか異論があってだな」


 ゲヘル様のお生まれが、予定よりも一ヶ月早かったというのは貴族の間では有名な話だ。お生まれの際、決して未熟ではなくて、むしろ立派な赤子の姿でいらっしゃった。


 もしも計算通りなら、、王妃様は単独で別荘にご滞在なさっていらっしゃったはずだというのも、ヒソヒソと囁かれ続けている点だ。と言うよりも、そこが問題なのだ。


 オニキスの瞳は国王譲りと言われていても、夏の間、別荘にいたダンス教師もオニキスの瞳で、しかもゲヘル様と同じ栗色の髪であったと伝えられているのも事態を難しくしていた。


 当然のことながら、そんな言葉が囁かれている以上、このダンス教師が長生きできるはずもない。王子が3歳を迎える前に、なぜか家が火事となり巻き込まれて焼死している。


 真実はともかくとして、そういうウワサが流れるお子が世継ぎとなると、必ず継承問題が大事大問題になると言われている。


 ボソボソと、そういった事情をお父さまは改めて説明してくださった。


「となると、第三王子、というわけですか?」


 お年頃の女性同士の間でウワサになるときは、必ずこの結論になる。すなわち「第三王子が一番マシ」という結論だ。


 しかし、お父さまは深くため息を吐いて首をゆっくりと振った。


「普通ならな。だが、後ろ盾が弱すぎるんだ。第二側妃でいらっしゃるマリア様は、トライドン侯爵家の分家の出だ。他に王子がいらっしゃらないならともかく、あるいは第一王子であるなら話は違うのだが、これではどうにも説明が付かなくなる」

「つまり、第三王子が世継ぎになるのは困ったことになると?」


 静かに頷いてみせるお父さま。


「御三家のご当主は、ともかく第一王子を立太子にと主張しているが、独身では立太子にはできないのが慣例だ。肝心の第一王子が、せめて婚約にウンと言わん限りどうにもならん。幸い国王陛下はまだまだお若く、お健やかでいらっしゃる。王位継承権は明確に存在しているし、第三王子までいらっしゃる現状では、今すぐに決めなくてはならない緊急性もない」


 ますます、苦い顔になるお父さまだ。


「これで、お前が誰かの相手として決まって見ろ。事実上、その方が王太子と目されてしまう」

「ということは、私が結婚すると、相手が誰であっても王妃になってしまう可能性があるということでしょうか?」

「あぁ、クソみたいな事実だが、王子と結婚すれば、ほぼ確実にそうなる。未来の王妃様というわけだ」

 

 お父さまが貴族ならぬ言葉を口にしたのを気にする余裕などなかった。


 茫然となる。


 自分が王位継承権のトロフィーとなってしまっているという残酷な現実を理解してしまったのだ。


 お父さまは、まるで呟くように言葉を出した。


「私としても、カインザー家を守らねばならないのは理解できるね?」

「はい。お父さま。覚悟しておりますわ」


 どんな運命が待ち受けていても、侯爵家の娘として生まれた私の運命だもん。


 さよなら、ショウ君。次に来てくれた時が、お友達として会える最後になるね。


「バネッサ。君は、ショウ君の側妃となるんだ」

「ええええ!」


 どうしてそうなった?



※ファーストワルツ:通常は「ファーストダンス」と呼ばれるが、デビュタントだけはワルツを基本とする特別な3回のダンスがあり、特別にこう呼んでいる。合間には、普通の社交用ダンスも行われている。



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作者より


年末年始も頑張って執筆を続けて、あと2話で、王立学園編に突入予定です。


フォローしていただき、誠にありがとうございます。

しつこくてすみませんが

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ファンタジーカテの50位以内進出が念願です。みんな、助けて!

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お読みいただかなくても本編に影響はありません。


【デビュタントの舞踏会で気を付けなくちゃいけないマナーについて】


 婚約者がいる人は、ファースト、セカンド、そしてラストワルツをお相手と踊ることが誠実の証しとなる。そのために、デビュタントの舞踏会に年の違う婚約者を招くことは一般的に認められている。いわば「社交界への婚約のアピール」だからだ。


 これは、何も「恋仲」の話だけではなく、どの家とどの家が結びついたかを表明する場でもあるから、ダンスの相手については詳細に、しかも絶対に間違いが無いように、お付きの者は物陰から覗いてチェックしている。また、王宮で働く者にとって、誰と誰がどうしていたという話を、各家の情報担当に喋るのは、ちょうどいいお小遣い稼ぎとされている。


 婚約者がいない人は家柄や関係が無難な人がエスコートの相手となる。兄弟・姉妹か婚約者の決まった従兄。男性の場合、エスコートする相手がいない場合は「借り」を作るつもりで、一族の女性や親の知り合いの女性にお願いする。その際は、ドレス代を負担するのがマナー。実際問題として、特に下位貴族の場合、mそういうケースは少なくないが、早目に段取りを付けるのががマナーである。


 ただし、この場合は「この人は婚約者じゃないですよ~」とアピールをするためのマナーもある。女性はドレスの裏地に付ける刺繍も宝石も男性の髪の色や瞳の色に合わせたものはのが不文律。そういうカップルの女性には、たとえファーストダンスであっても、他の男性がダンスを申し込んでも失礼なことではない。この場合、取られるヤツが甲斐性無しと言われることになる。男性には、けっこうキツイルールなのである。


 逆に、婚約者がいる場合は、必ずエスコートの相手となり、たいていは相手の目の色に合わせた宝石を身につけるのがマナー(付けられる装飾品が限られている)。ただし、場合によってはドレスの裏地に使う刺繍の糸の色で合わせることもある。お金持ちの場合は、むしろお金のかかるこっちを使うことが多い。またファーストワルツは、絶対にエスコートされた婚約者と踊ることとされている。もしもエスコートの相手が婚約者以外だったら、それだけでも事件となる。下手をしたら家と家との戦争になってもおかしくないほどだと言われてる。


 さすがに、そこまでオカシナことをする人は実際にいないが、デビュタントだと男の子の精神年齢が幼すぎて、エスコートして入場した後に放置して、女の子が泣いてしまうということはたまにあるらしい。


 その場合は、男の子の親が血相を変えて相手の家に「ごめんなさい」をしに連れて行き、仲直りしてもらうのは、よくあること。


 基本的に付き合っている人以外と2回踊ることは禁止インモラルである。


 婚約者がいない場合は、ファーストダンスのお相手が「今、最も好ましく思っている人」という表明で、その後にある「王様の挨拶」がすんでからのセカンドワルツは、王族といっしょに踊るという格式があるため、見守る下級貴族からすると、踊っている二人は、いずれ伴侶となるのだろうと漠然と思うことになる。


 ファーストワルツを見送って、セカンドワルツでファーストダンスを踊るのは女性が、相手への一途な思いを表明したと見なされる。だから、特に好ましい相手がいない人は、最初に無難な誰かと踊っておくことが望ましい。


 ファーストワルツ、セカンドワルツ、ラストワルツが節目であり、ダンスそのものはずっと繰り返されている。社交の場であるから誰と踊っても問題とはされないが、婚約者が他の人と踊っていれば良い気持ちはしないのも当たり前。そこは、お互いの気持ちを考えながら配慮することが求められる。あくまでも、舞踏会デビュタントは紳士淑女の嗜みの場なのである。


 なお、バネッサ自身はエスコートを分家の従兄にしてもらった。もちろん、相手は婚約済みである。ショウ君には父親を通じて打診したせいで「ウチだと家格が低いから」と辞退されてしまったが、その裏側には王家の意向を忖度した部分がある。


 根本的な問題としてデビュタントの舞踏会は、特に男性の場合はパートナーを伴うことが「義務」である。パートナーを見つけられない場合は出席できないという過酷なルールがあるのだ。(たいていは、親がかりでも借りを作ってでも、必ずパートナーを見繕って出席するし、最悪の最悪は母親をパートナーとする)この国のお貴族様がボッチ体質だと、とても大変なのである。

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