姉ちゃんは借金のカタに
@mooning
第1話 姉ちゃんは連れられて行った•••
僕、
しがない町工場をしている。
人の良い両親と気の強い女子高生の姉•
そして僕の四人家族だ。
この不景気の影響を受けて
部品を作っているウチの工場は
銀行からの融資を受ける事が
出来なくなってしまった。
従業員は家族だけだが、このままでは
工場が閉鎖になってしまうと
思っていた時、救いの手が差し伸べられた。
実業家の
年齢は40近いそうだが精悍な顔付きと
逞しい体をしている。
無利子返済期限無しの融資という
破格の内容だがその代わりに
姉ちゃんに自分の仕事の手伝いをさせると
いうのが交換条件だった。
姉ちゃんは覚悟を決めていた。
「私が行けば工場は助かるから
•••行ってくるよ。」
「姉ちゃん•••」
まだ中学生の自分の無力さが
本当に悔しかった•••
両親は永山さんに頭を下げて
車に乗る姉ちゃんを見送った。
それから1週間が経ちDVDが送られてきた。
姉ちゃんの近況が録画されているそうだ。
僕は覚悟を決めてDVDを再生した。
両親も一緒に観ている。
【一日目】というタイトルと共に
車の後部座席に座る姉ちゃんと
永山さんが映っていた。
「何か勘違いしてるみたいだけど
君の思っているような事には
ならないと思うよ。」
「わ、私が思っているような事って?」
「何かイヤらしい事考えてるよね?」
「そ、そのつもりじゃないんですか?」
「何もしないから大丈夫だって。
と言ってもこの状況だとそう思うよな•••
まぁ
【ぱわぁ亭】に車やってくれ!
オヤジさんと後ろの車にも
連絡しといてくれや!」
「へい!」
「はい、承知しました。」
永山さんが護衛兼運転手の
秘書の
どちらも男性だ。
場面が切り替わり商店街の中を歩く
姉ちゃん達が映る。
そのまま焼肉屋の前に着くと
中から年配の男性が出て来る。
「
いらっしゃい待ってたよ!」
「オヤジさん最近あんまり来られんで
ごめんなさい。」
「何言ってんだい!
こんなに偉くなってもウチに
来てくれるなんて
嬉しいじゃないか!」
「自分は
なっちゃいませんやな。
今日もお世話になりますよ。」
「さぁ入って入って!」
「お邪魔します。
やぁ
「鉄っちゃんいらっしゃい!
活躍は聞いてるよ!
立派になったのに高級焼肉じゃなく
ウチに来てくれるなんてねぇ。」
年配の女性がそう話す。
確かに高級とは思えない焼肉屋さんだ。
「会合だの商談だので世間で言う
高級焼肉にも行きますが
サシばっかりで自分は好きじゃ
ありませんなぁ。
やっぱり【ぱわぁ亭】ですよ。」
「嬉しいねぇ。
奥の部屋取ってるよ。
さぁ入って。」
「ありがとうございます。
女将さん今日のお客の会計は
全部こっちに回して下さいや。」
そして角田さんに
「角。
近くにいる奴は【ぱわぁ亭】に
「もう連絡は回してますから
すぐに集まって来ますよ。」
「流石だな。
さぁ明子ちゃんも入って。」
「はい•••」
そして奥の部屋で話が始まった。
「明子ちゃんは俺の仕事を手伝うってのは
嘘だと思ってるだろ?」
「はい•••
それは表向きの理由でその•••
だ、抱かれるんだと•••」
「まぁ普通はそう思うよな•••
ただ俺がそのつもりなら
君の両親は融資を受けるつもりは
無かった筈だよ。
君の両親はお人好しだけど
馬鹿じゃないから。
【最初は娘を犠牲にしてまで
工場を守る気は無い】って
言ってたからね。」
僕が両親の顔を見ると
【当たり前だ。】
という顔をしていた。
「明子ちゃんは独学で経営の勉強をして
家族で工場を回していたってね?
かなり見所が有ると思ってさ
まぁスカウトってやつだよ。
多少強引だったけどね。」
「そ、そうなんですか•••」
「いきなりは信じられんだろうけど
これから宜しくね。」
「は、はい•••
宜しくお願いします•••」
そう言って姉ちゃんが頭を下げる。
「まぁまずは食おうや。
とにかく飯食わんとな。」
そうして肉が次々出て来る。
「さぁ皆もジャンジャンやってくれ!」
「「「「「ご馳走になります!!!!!」」」」」
宴会が始まった。
「飛!
運転代行呼ぶから飲んで構わんぞ!」
「大将•••
勘弁して下さいよ•••
この前もそれで飲んで帰ってカミさんに
滅茶苦茶に怒られたんですから•••
【仕事をちゃんとやれ!】って•••」
「なぁにこれも仕事よ。
「本当ですかぁ?
それじゃあ•••」
「結局飲むんだな君は•••」
「良いじゃねぇか!
大将が言ってるんだからよ!
角!
お前も飲めよ!」
「私は別に•••」
「角。
お前も飲めよ。
今日の仕事はもう終わりだ。
切り替えていけや。」
「そ、そうですか•••
大将が言うなら•••」
「皆も好きに飲んでくれや!
お客さん達も家族•友人•恋人
好きに呼んで良いですから!」
「いよぉ太っ腹!」
「大統領!」
「ゴチになりまぁす!」
店は大盛り上がりだ。
「永山さん。
知らない人まで呼んで良いんですか?
その•••」
「
まぁこいつらは酒は飲んでも
ちゃんと仕事はするから大丈夫よ。
変な奴はすぐ分かるから。」
「そ、そうですか•••」
「ほらほら食べて食べて。
この店も明子ちゃんの家の
工場と同じだよ。
大きくはないけど良い仕事をする
安くて美味い良い店だよ。
さっき言ってた高級焼肉も
ヒドい
使っている事にあぐらをかいて
見映えだけのゴリゴリした肉を
出してくる所も有るからね。
ここは何を食べても美味い
最高の店さ。」
「鉄っちゃん嬉しい事言ってくれるねぇ。
はいよホルモン盛り合わせ。」
「ありがとうオヤジさん。
ほらここはホルモンも美味いんだ。
ブランド牛じゃなくても美味い肉は
沢山有るんだよ。
そしてオヤジさんの丁寧な仕事で
最高に美味くなる。
君の家と同じだよ。
町工場でも高い技術を持っている所は
沢山有るんだ。
ただ経営がちょっと苦手なんだよね。
だからそういう所には経営のプロを
向かわせるんだ。
明子ちゃん
これから立て直すから任せてよ。
もう既に凄腕の経営コンサルタントが
向かう事になってるから。」
「経営コンサルタントですか•••?」
「その人は実績の有る人だから
大丈夫だよ。
まぁ世の中無能な経営コンサルタントも
腐るほどいるから心配なのも
当然だけどね。
その人は現場の叩き上げで
今まで沢山の中小企業や零細企業を
立て直してきた人だから大丈夫。」
確かに姉ちゃんが出て行った次の日から
経営コンサルタントの大久保さん(男)が来て
色々と教えてくれている。
まだ一週間だけど、これから変わっていくと
実感している。
そんな事を考えていると映像の中は
夕方になっていた。
「大将!
お待たせしました!」
「来られてラッキーです!」
「腹ペコペコっす!」
「ヒャッハー!肉だ肉だ!」
「グヘヘヘヘ!」
「イヤッフー!ハッハー!」
賑やかな人達が現れた。
「おう!
お疲れさん!
ジャンジャンやってくれや!
家族でも恋人でも呼びたい人間は
呼んで構わんぞ!」
「もう呼んでまーす!」
「嫁さんも子供連れて向かってます!」
「ウチも両親が来ます!
大将に挨拶したいそうです!」
「挨拶?
堅苦しいのは勘弁してくれや。」
「自分がいつもお世話になってますから
どうしてもお礼がしたいそうです。」
「まぁその位ならな•••
気楽に飯食ってくれよ。」
「俺達はいただいてまーす!」
「イヤァオ!」
「ウィーーー!」
映像の中は大騒ぎになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます