うそひろいのまほう
端庫菜わか
彼女は魔女だと言う
叶えられない願いはない、と簡単に言ってしまう女の子がいた。
もちろんそんなことは絶対にない。
人の願いの大半は、叶えられずに終わるものだ。たとえ、とてもかんたんな願いだったとしても。
小学四年生の彼女の名前はタマコといって、よく嘘をつく子と噂の少女だった。
彼女は目に付いたものを気まぐれに指差して、
「魔法使いはいるよ。隣に住んでるの」
「あの噴水から聞こえる歌がきれいなの」
「ここから見えるあの川の、魚は空を飛べるんだ」
と、こんな調子で本当に起こるはずのないことばかり言って周りを困らせる子だ。
わたしはというとタマコの隣の席に座る、平凡な女の子。
ちなみに、タマコの家の隣はわたしの家だ。わたしはちょうどさいきんこの町に住みはじめたばかりで、引越しの挨拶に彼女の家を訪ねると、タマコは女の子のぬいぐるみを抱きかかえて優しそうなお父さんにくっついていた。
「ご挨拶しなさい。ほら」
頭を撫でられると、タマコは一歩だけ出てきて、おおきな目でわたしをみつめたまま首をちょっとすくめた。お辞儀のつもりだったらしい。わたしもそれを真似てお辞儀する。ニコッと笑って見せると、警戒心が強そうな彼女はまんまるな瞳でわたしのことを観察している。
「めぐるっていいます」
仲良くしてね、と控えめに声をかけてみる。
「…………」
ターマコ、とお父さんに背中をつつかれて、ふうと軽く息を吐くと結ばれた唇に薄く笑みを含んで囁いた。
「……タマコ。里見珠子。ぼくは魔女だけど、よろしくね。めぐる」
「へ?」
間抜けなほどの素っ頓狂な声が出る。このひとつまみのミントのような嘘が、わたしとタマコの出会いだったのだ。
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