第52話

「そういえば、君のご家族はどうしたんだい?」

「あ、えっと……実は私もソフィアと同じで……」

「あぁ、そうなんだね……」


 私がそう言うとマリーナは申し訳なさそうな顔をしながら私の事を見てきた。


「君はこの後はどうするか決めているのかい? もし行く当てが無いようなら私の屋敷に住むといいよ。その方がソフィもその方が喜ぶだろうし」

「ありがとうございます。でも……少しだけ考えさせてもらえませんか?」


 マリーナのその提案はとてもありがたいものだったが、でも私はその提案に躊躇した。何故なら私にはやらなければならない事があるからだ。だからここにずっと留まり続けているわけにはいかないんだ。


「あぁ、もちろん全然構わないけど……という事は何処か行く当てがあるってことかい?」

「え? あぁいや、そういうわけではないんですけど……あ、でも、両親が生まれ育った村にいつか行こうと思ってます。そこに家族のお墓を立ててあげたいんです」


 私はとっさにそんな事を言った。


 実は私の両親が生まれ育った村はゴア地方に“あった”小さな村だ。私の両親は結婚してからその生まれ育った村から離れてナイン地方の村に移り住んだんだ。


 そして生前の私は勇者達と一緒にその小さな村に行く機会があったんだけど……まぁでもその時の話は今とは全く関係のない話だからここでは割愛する。


「そうか、ステラは立派だね、きっと天国にいるご家族も喜んでいるだろうね」

「はい、そうだったら良いんですけど……」


(……ごめんなさい)


 私はマリーナに嘘をついた事を心の中で謝った。だって私がやりたい事は家族の墓をたてる事ではなく、かたき討ちなのだから。私はマリーナに心配をかけたくなかったのでとっさに嘘をついただけだった。


「それで? その村ってのはどこら辺にあるんだい?」

「えっ!? え、えーっと……たしかここから北西に向かった所にあるんですけど……」


 私はその村がある場所の説明まで考えてなかった。とりあえずここから北西の方角にあるのは確かだけど……


「北西ってことは……あぁ、ゼベクの方かな? あれ、でもあそこらへんに村なんてあったっけ?」

「ゼ、ゼベク!? そ、そうです! ゼベクの先にあります!」

「え? あ、あぁ、そうなのかい?」


 “ゼベク”という地名に私が食い気味にそう答えてしまったので、マリーナはとても驚いたような表情を浮かべていた。でもゼベクという地名に私は反応しないわけにはいかなかった。


(そ、そうか……ヤウスがあるんだから“魔法都市ゼベク”もあるに決まってるじゃないか!)


 このゴア地方には大きく分けて3つの主要都市が存在している。


 1つ目は魔族との戦闘拠点にもなっている“防衛都市ヤウス”


 2つ目は最先端の科学技術が結集している“機械都市エンデュミオン”


 3つ目は魔法の道に進もうとする者が集ってくる“魔法都市ゼベク”


 以上の三都市がこのゴア地方にある主要都市だ。


 その中でも魔法都市ゼベクは私にとって一番の思い入れがある地だった。何故なら生前の私はその魔法都市ゼベクを拠点にして沢山の魔法を取得していったからだ。だから私はゼベクには4~5年近くも滞在していた事になる。


(もし今の私も拠点を作るのなら、一番知っている都市にした方が良いだろうな)


 それにゼベクにはゴア地方で一番大きな軍施設もある。だからもしかしたらそこに行けば魔王軍についての情報を調べられるかもしれない。まぁ私が欲しい魔王軍の情報なんて家族の仇ガルドについてしかないんだけど。


「だ、大丈夫かい? 何だか興奮しているようだけど……?」

「えっ!? あ、す、すいません、取り乱しちゃいました……ちなみにゼベクってここから遠いですかね?」

「うーん、いやそこまで遠くはないよ。ここからなら定期便の馬車も通ってるしさ」

「あ、そうなんですね。それなら良かったです」

「あぁ、でも今すぐに行こうってわけじゃないんだろ? それならしばらくの間はここでゆっくりしていきなよ。ここを自分の家だと思ってくれて構わないからさ」

「は、はい、本当にありがとうございます!」


 そう言ってマリーナは私に微笑みかけてくれた。やっぱりソフィアが言っていた通りマリーナはとても優しい女性だった。


 うん、きっとこの人なら……ソフィアの事をこれからも優しく守ってくれるはずだ。


「う、うぅん……」

「っ!? ソ、ソフィ!」


 そしてその時、ちょうどソフィアが目を覚ましたのだった。

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