第50話

(まぁやっぱり……あの蛇女だよな……)


 ソフィアのために何かしてあげたいと思うのであれば、あの蛇女に一矢報いるのが一番だと思う。散々とソフィアの事を苦しめた元凶があの蛇女なわけだし。


 でもアイシャと戦ったとしても私には勝ち目は薄い。その理由はアイシャの魔法特性にある。


 アイシャは“石の蛇姫”という異名の通り、彼女は土属性の魔法のスペシャリストだ。そしてその中でも特に……アイシャにしか使う事が出来ない石化魔法が非常に凶悪だった。


 それの何が凶悪かと言うと、アイツは自分の身体を超硬度な石に変える事が出来るんだ。つまりアイツには剣や銃撃などの物理攻撃は一切通らない。物理攻撃よりももっと威力のある魔法攻撃じゃないとアイシャの硬い身体にダメージを通す事は出来ない。


 そして前々から言ってるように、生前の私は剣士だ。もちろん魔法も覚えてはいるけど……でも私の覚えている魔法はどれも攻撃技ではなく戦闘補助魔法バフ弱体魔法デバフばかりだ。


 だから例えばだけど、私が弱体魔法でアイシャを徹底的に弱らせようとしても、結局全身を硬化して守備に回られてしまったら私には勝ち目がない。せめて私にも攻撃系の魔法が使えれば話は変わってくるんだけど……。


(……あ、そういえば)


 少し時間が経ってから私は目を開けた。そうえばこのヤウスに着いたらまずは自分の状態を確認しようと思っていたんだ。


 マリーナが帰ってくるのはまだ先だろうし、今の内に自分の使える魔法を確認してみる事にした。という事で私は部屋の窓を開けて外に向かって魔法を一つずつ唱えていってみた。


強毒魔法デッドリィ・ポイズン……範囲麻痺魔法パラライズ・ミスト……視力簒奪魔法ダーク・アイズ……」


 私は生前によく使用していた魔法を一つずつ唱えていってみた。するとどれも不発する事はなくちゃんと発動する事が出来た。


 という事はやっぱり生前に覚えていた魔法は今の私も全部使えるようだ。うん、まぁこれだけでもわかっていれば……。


「……ん? いや待てよ……そういえば……」


 しかしその時、私はとある事に気が付いた。


 今の今まですっかりと忘れていたんだけど……そういえば生前の私が最後に覚えた魔法は攻撃系の魔法だった。忘れてしまっていた理由は結局生きている内に一度も使用せずに死んでしまったからだ。


 そしてその攻撃魔法というのはちょっと特殊な魔法で……この魔法を発動させるためには“とある条件”が必要になる魔法だった。


 でもその条件さえ満たす事が出来れば、どんな相手にでも強烈な一撃を食らわす事が出来る最強の攻撃魔法だった。


 そしてこの魔法こそが勇者を確実に屠るために私が覚えた唯一にして最強の攻撃魔法なのであった。


(まぁでも結局……生前の私はその魔法を一度も使わずに死んでしまったんだけどね……)


 その魔法を最後まで使わなかった理由は最後は剣士として勇者達と純粋に戦いたかったとか、まぁそんなちっぽけな理由だ。別に大それた理由ではない。


(でも、もし……もしもこの攻撃魔法を今の私でも使えるのなら……)


 その時、ふと私は自分のボロボロになっている左腕を見てみた。自分の発生させた毒で赤黒く爛れてしまった腕だ。そしてこの腕になら……私の攻撃魔法の“発動条件”は満たせている。


(試してみる価値はあるか……)


 もしかしたら自分の腕が使いものにならなくなる可能性もあるけど……でもマリーナが回復魔法を使えるのを私は確認している。だから何かあったとしても最悪の自体にはならないだろうと楽観的な気持ちで試してみる事にした。


 という事で私はボロボロになっている自分の腕に目掛けて……生前の私が最後に覚えた攻撃魔法を唱えてみた。


「ヴェ……ム……イ……クト……」


―― ボワッ……!


 私がそう唱えると、ボロボロになっていた左腕の周りから禍々しい煙のようなモノがモクモクと発生しだした。明らかにヤバそうな雰囲気が私にもヒシヒシと伝わってきたその瞬間……!


―― グシャッ……!


「っ!? ぐ……が……っ!!」


 私の腕の“内部”から激しく潰れた音がした。それは間違いなく私の腕が完全に壊れた音だった。私はその潰れた腕の激痛に酷く悶えそうになったけど、それでも私は必死になって我慢した。


(ぐ……あっ! ぐ……で、でも……!)


 でもこの激痛はまさしく私の攻撃魔法が成功している証だった。という事で生前の私が最後に覚えた“最強の攻撃魔法”を今の私でもちゃんと使う事が出来たのであった。

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