第28話
私はそのアイシャの様子を見て直感で判断した。この街道を使って逃げた所でいつかアイシャに捕まる。
(それなら……)
私は危険だと判断したらすぐに戻る場所を決めていた。だから私は街道に向かって駆け抜けるのではなく、元来た森の中へと向かって走りだした。
そんな私の様子を見てアイシャはきょとんとした顔をしていた。
「ふぅん、そっちに行くの?」
アイシャは私の走る姿を見てそう言った。私は強化魔法を施している最中だけど、それでも全速力は出さずにそれなりの早さで走った。アイシャに少しでも私の事を弱い存在だと思わせるためだ。
「まぁ、頑張ってねー」
私は走りながらアイシャの方をチラっと見たが、アイシャは私に向かって手をヒラヒラと振りながらそう言っていた。
どうやら先ほどの言葉通り、アイシャはこちらを追って来る様子はまだ無かった。それに私達が子供だから本気で追おうとはしていないようだ。
(私はその隙を狙うしかない)
私はそう思いながら森の中へと入っていった。
◇◇◇◇
森の中に入ってからは全速力で駆けだしていた。抱きかかえていた女の子は森に入る頃には気を失っていた。おそらく痛みや恐怖などの様々な事が要因だったのだろう。
でも今は急いでたから気を失って貰っていた方が助かった。
(そういえば……血の匂いがって言ってたな)
森の中を走っている時に、私はアイシャの言葉を思い出した。確かにアイツは確かに嗅覚がかなり凄い魔族だった。だから血の匂いを感じ取れると言ったのもあながち間違いじゃないとは思う。
そして私は少女の足を見る。靴から血がポタポタと落ちてしまい、靴も血で滲んでしまってズタボロ状態となっている。
(私に回復が使えたら……)
そんな事を思ったんだけど、でも使えないものは仕方ない。私は一旦止まってから、今日の朝に切り取ったローブの切れ端を取り出して、それを女の子の足にグルグル巻きにして緊急的に止血を行った。そして血で汚れてしまっている靴は適当に後ろの方へ投げ捨てた。
(あとはすぐにでも人のいる街に行って、回復魔法かポーションを手に入れたいけど……)
でもここから川沿いのルートを走った所で、ナインを抜けるのにはどれくらい時間がかかるかわからない。もう今すぐにでもアイシャがこちらに迫ってきてる可能性だって全然あるわけだし。
とりあえず私はアイシャに匂いがバレてしまわないようにするためにとある魔法を唱えた。
(
私の覚えている
アイシャは嗅覚が非常に優れている魔族なので、この激臭を嗅いでしまったら半日は自分の嗅覚が壊れた状態になるはずだ。
そしておそらくアイシャはこの場所までは血の匂いを頼りにして来るはずだから、この場所に有毒ガスを発生させておけば上手く引っかかるだろう。
それで匂いを頼りに探す事が出来なくなれば、私達はきっとゴア地方に逃げたと思うはずだから、当然アイシャもそっちに向かうはずだ。
だから私はその逆……つまりは“精霊の湖”まで戻る事にする。
そこで日が沈むのを待ち、深夜を過ぎたら一気に川沿いに向かって駆け抜けよう。もちろん今は争い中だから深夜に逃げている時に魔族に見つかる可能性はあるのだけど……でも
だから基本的にラミア族は夜間に行動はあまりしないのである。いや、それにしても……。
(まさか生前に魔王軍で働いていた知識がこんな所で役立つとはね……)
私はそんな事を思いながら自虐的に笑ってしまった。まぁでも、私にとって思い出したくもない日々だったけど、それでも役に立つ知識があるのであればこれからも活用していこう。
(……とにかく、早く精霊の湖に行こう)
とりあえず私は生前の事を思い出すのをやめて、全速力で元来た道を辿って精霊の湖へと戻っていった。
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