ファンサ!

葦久

第一章:芸能界は難しい

アイドルになってしまいました。

 家の中で引きこもって好きなアイドルの動画を見て、笑ってる。私はいつも、そんな引きこもり人生をしていた。はっきり言って、人生に楽しいことなんてなくて、面白くなくて、ただただつまんなかったけど。でも、今はね...。


「みんなー!」

「イェーイ!」

「それじゃ、いっくよー!」

 

 わたし「寺田 希(てらだ のぞみ)」あらため、「瀬戸 尊(せと みこと)」は本日を持ってアイドルになりました。


 こうなった理由は、一週間前のこと。

 最近人気になった曲『マリオネット』を歌ったアイドル、『七瀬 華(ななせ はな)』のLive(ライブ)を見に行った。正直、興味がなかったというのが本音だが、基本のアイドル情報は、ハークしておいて損はないと思って、”あの時”行ったのが私の人生を一変する始まりだった。


 「はぁ、やっぱり予想道理のへなちょこ女だわ。アイドルの『ア』の字も知らず、曲の作り方をちょっとかじったくらいで、自分の作った曲がバズったことでいい気になってるド素人ね。来るだけ損だったわ。」

 

 というように、私は、『ド』がつくほどの毒舌女なのである。しかも、アイドルオタクの引きこもり勢ネガティブ×クソ陰キャなのだから、こんな事言われたら『てめぇに言われたくねぇは、ドブス』と言い返されるのが落ちだった。しかし、この女が、ただの陰キャオタク勢だと見限っていてはいけない。この女は、神に愛されていたのか、顔は『広瀬すず』や『大和撫子』と並ぶほどに別嬪(べっぴん)なのだった。つまり、言われるとしたら『てめぇに言われたくねぇわ、ゴミはゴミらしく廃棄処分でもされてろカス』だろうか。まぁ、そんなことよりも私はこのように興味もないアイドルのLiveでも、足を運んでわざわざ見に行き、そして行ってはブツブツとそのアイドルの陰口を言って帰るというのがこれまでの日常だった。そのため、今回もそのようにして帰る”はずだった”。


 「もういいや、かぁえろ。」


 タッタッタ。

 ドンッ!


「うわっ!」

「だ、大丈夫?」

「はい、まぁなんとか。」

「ごめんね、私が前見ていなくて。」

「いえいえ、うつむきながら歩いている私が悪かったためあなたは何も...」

「ん?」

 

 その時、謎の美人な女性が私の顎を持ってハナチュー寸前くらいの近さで私の顔を顔見した。いや、観察していたと言う方が正しいだろうか。ともかく、彼女は私を見ていた。


「な、何でしょう?」

「あなた、いいわね。ちょっとついてきてくれない?」

「は、はい?」

 

 そして、彼女は私に有無(うむ)を言わさずに、タクシーの中に放り投げた。そう、投げ入れた。タクシーが進むこと三十分ほど、謎の女性は、誰かと電話をしているし運転手の方は謎の威圧感があるしでタクシーの中で私は一秒たりとも気を緩められなかった。


「着いたわ。さあ、来て。」

「え?な、なぁぬ、おぉ!」

 

 そして私は(謎の声を出しながら)、目の前の光景に驚いた。それは、私のような下民が入ることは絶対になかった場所、つまりスタジオだった。何がなんだかわからずに、目を回してあたふたしていると、女性が人の好い笑みを浮かべて、どこかへ連れてってくれた。


「ココが、これからあなたが働く場所よ。早めに慣れておかないとね。」

「う...」

「どうしたの?芸能界に入るのは嫌?」

「(いや、そりゃ誰だって表面は綺羅びやかでも裏面がドロドロとしている殺し合いの世界に入りたいなんて思いませんけども)そうじゃなくて、何故私が天界の人間になるという話になっているんですか?」

「天界って。大げさね、あなた。でも理由は簡単よ。あなたには素質があると思ったから。ただそれだけ。OK?」

「そ...へ?」


 ハムルターの食べるピーナッツサイズの脳みそしか持っていないこの私には、彼女の言っている意味が理解できなかった。

(素質がある?どういうこと?え、私今日死ぬのかな。後で、お姉ちゃんのサンドバッグにされるのかな。いや、でもそれは昨日されたか。じゃ何故に?急展開すぎんか?)

 

 ヤバいフラグを立てながら、マンガやアニメの世界でしか見ない急展開の理由を考えた。こんなことになるということはバッドエンドが近づくという予想をしてしまうのは、これまでの私の人生からだったらしょうがないことだった。

 うちに帰ると、まずやらなくてはならない”ミッション”(主に宿題など)をやり束縛系男子の彼氏の愚痴を姉に聞かされた後、サンドバッグにされ、その後スマホのメールを見ると学校のクソ陽キャ女子への対応をし、その後に友達の完璧な彼氏自慢を聞いてからベッドの中で布団にくるまりながらアイドルの動画を暗記するという生活をしてきたのだから。


「え、嫌でもそんな、え?」

「まぁ。いいから。まずは、現場を見ないとね。」

「はっはい!」

 

 何がなんだかもうよくわからなかったが、とにかくもう逃げ場はないのだなと悟った私は、もうどうにでもなれという思いで彼女について行った。しかしそこは、とても美しく、キラキラとした世界だった。こんな夢のような場所を見たら、”芸能界は闇深い”だとか”みんなに妬まれて地獄でしかない、まじで病む”だとかいう考えは、全て洗い流してこの世界に憧れてしまうというのが私の今の正直な思いだった。だが、そんな『脳みそお花畑』な考えは、すぐに現実という名の地獄で塗り替えられた。


「お前さぁ、本気でやってんの?時間ねえっつってんだろ?」

「(あぁ、これだから男は嫌だ。自分のことしか脳のない下等生物(かとうせいぶつ)の権化(ごんげ)め。)アノ、そんなに怒んなくてもよろしいんじゃないですか?ほら、この人だって誤っていることだし...ね?」

「い、いえ。本当に私が悪かったんです。もっとはやく始めるはずのリハーサルを五分も送らせてしまったんですから。怒ら荒れて当然...痛っ。」

「ほら、こいつも言ってんだろ?ちゃんと仕事できねぇやつは、お仕置きされねぇといけないんだよ。ハッハッハ!」

「ぐち、ぐち、ぐち、ぐち言ってんじゃねぇよカス。」

「あ?聞こえねぇんだけど?」

「あ、そっすか。なら、今すぐ耳鼻科に言ってくださぁい。と、言うか。この人謝ってますよね?五分?それくらい許せませんか?」

(あれ?私何いってんだ?芸能界、いや社会人の中で五分はやばいミスだろ。なのに...)

「お前に関係ねぇだろ!」

(怒りが収まんない!)

 ゴフッ!

「うるせぇんだよ...あれ?ん?...う、うわぁあぁぁ!」

 

 すると目の前には、鼻からダラダラと鼻血を流している男性がいた。いや、私が顔面ストライクを決めてしまったのが悪かったんだが。


「ディ、ディレクター!」

「ディ、え?えぇ~...」

(あ、終わった、私の人生。”グッパイMy Life”.私は、これから、サングラスと黒いタキシードを着たガタイのいい男性に殴られて人生の終演を迎えるんだね。)

「あらら、やっちゃったわね。」


 その後、彼女と一緒に迷惑をかけた人たちに謝っていった。あの怒られていた人は、AD(アシスタントディレクター)らしく、まだ新人なのに、そこらへんでサボってリハーサルを遅らせたことからあの状況になたらしい。今考えたら、いやあのときにその情報を教えられていたら、明らかにそのADさんが悪いと思って、何もせずにすんだだろう。

 しかし、だからといってこの状況になる理由がわからなかった。


「?」

「改めて,今日からあなたはアイドルになるの。」

(”Why not?”(何故に?)え、土下座が足りませんでしたか、そうなんですか、そうなんですね?)


 意味がわからず、私は、頭の中で自問自答した。何故、人に迷惑をかけ、そして、リハーサルが送れさせてしまったら『よし。アイドルになろう!』という考えに至るのだろうか。その理由がわからず自分のできる限りの能力で頭をフル回転させた。


「すいません、何故そうなったんですか?理由を聞いてもよろしいですか?」

「あなた、みんなに迷惑かけちゃったでしょ?しかもディレクターまで殴っちゃって。もう大惨事だったじゃない?」

「Yes.」

「だからね、あなたがアイドルになりたくないとかいう拒否権はなくなったの。簡単に言うと、損害賠償金を仕事して払えって意味ね。」

「(うわぁ、だいぶダークネスな人だぁ。)それで、主に何をすれば?」

「No.1よ。」

「ほへ?」

「アイドル、いや芸能異界のNo.1を取るの。めざせ、No.1のアイドルよ。」

 

 そして、彼女は、サラッと「『No.1』になれよ?」宣言をし、今に至ります。

 『なったばかりのときは、はっきり言って、やはり地獄でした。でも、暇にならないしつまらなくない。前よりかはとても充実してます。』

 なんていう夢物語はなかった。いや、最初は正しかったかもしれない。そう、”かもしれない”のだ。しかし、私は地雷を踏んでしまった。

「To be continued...」

 

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