『箱庭』持ち少女の、幸運な日々。

天宮カイネ

第1話 『箱庭』生活の始まり




『君には"箱庭"をあげよう』


 そんな神様の言葉を最後に、私は転生したーーーゲーム的な異世界へと。

 なんでもこの世界『エレフセリア』は、ステータスがあり、魔法があり、魔物がいて、冒険者がいるような世界なのだとか。なお、文明レベルは中世西洋くらいで、王侯貴族が存在するらしい。面倒くさそう…。




「ここが、『箱庭』…?」


 私が目覚めたのは、こじんまりとした部屋の、ベッドの上だった。そこでさっそく違和感に気づく。今の、まさに鈴を転がしたような綺麗な声はなんだ、と。

 部屋の隅に姿見があったので、ベッドから降りてその前に行く。そして姿見に映し出された自分の容姿を見て、絶句した。


 まず目に入ったのは、腰辺りまであるストレートの金髪。それと、人形の如く整った顔だった。大きな瞳は真紅で……あとは、額に同色の宝石っぽいものが埋まっていた。あ、これ私もしかしなくとも人間族じゃないな?


「…ステータスオープン」


 キーワードを唱えると、目の前にステータスウインドウが開いた。


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名前:ヘルミーナ

種族:宝石精霊族カーバンクル

性別:女性

外見年齢:15歳(実年齢:0歳)


基礎Lv:1

保有魔力:15000/15000


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 これ、絶対に狙われたりする種族では?種族の欄をタップすると、種族についての詳細が見ることができた。


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『宝石精霊族(カーバンクル)』

・宝石や鉱石を司る精霊族。額に瞳と同色の宝玉を持ち、宝石や鉱石を自身の魔力で自在に作り出せるのが特徴。

・その稀有な能力や、"幸運を呼ぶ"との噂などから、主に欲深い人間族などに狙われ乱獲され、数を減らした種族。現在では各国で保護活動が行われているが、未だ個体数は少ない。

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「これアカンやつや」


 思わず似非関西弁が飛び出してしまった。いかんいかん、せっかく美少女(人外)に転生したのだから、もう少しお淑やかに振る舞わねば。


「とにかく、まずは現状を把握しないと…」


 神様からもらった『箱庭』。仕様が分かれば良いんだけど…と思いつつ辺りを見回していたら、再びウインドウが開いた。


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『ヘルミーナの"箱庭"』

・創造神からヘルミーナへと贈られた箱庭。ヘルミーナが許可した者しか出入りできない。

・『箱庭レベル』を上げることにより、箱庭の拡張や設備の増設をすることができる。

・『箱庭ポイント』を貯めることにより、作物の種や各種道具と交換することができる。


箱庭Lv:1

箱庭Pt:100

設備:マイホーム(Lv:1)、倉庫(Lv:1)、作業小屋(Lv:1)、畑(Lv:1)

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 …なるほど。まるでゲームのようだけど、分かりやすくて良いね。"レベル上げ"という目標があればモチベーションも上がるというものだ。

 マイホームの外に出て、小さな畑やこじんまりとした倉庫、作業小屋を確認する。なお倉庫には野菜などの種が仕舞われていて、作業小屋には鍛冶場らしき設備があった。…もしや、今後は道具作りまでする必要があるのだろうか。


「まあ、あるんだろうなあ…ぼちぼち頑張ろう」


 とりあえず今は、畑に種を蒔いて水やりをしよう。どうやら水やりは魔法でおこなう必要があるらしいので、未知の技術、魔法にチャレンジしてみようと思う。


「魔法はイメージが大事……《シャワー》」


 畑に降り注ぐ小雨をイメージして唱えると、イメージ通りの現象が起こった。うわ、魔法使っちゃったよ私。ヤバイこれ楽しいな。そっとテンションを上げつつ、私は今しがた種を蒔いたばかりの畑を魔法で《鑑定》してみた。


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『畑:じゃがいも』

状態:良好

収穫まで:5分

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「待った、収穫時間もゲーム感覚なの?」


 いや便利だけどさあ、これ、現実になるとかなりシュールだね。試しにその場で待ってみると、5分後にわさっと葉っぱが生えた。


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『畑:じゃがいも』

状態:収穫可能

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 やっぱりシュールだ。…とりあえず収穫しよう、と葉っぱに触れると、シュンッと全ての葉っぱが消えた。何事!?


「…あ、今ので収穫できたんだ」


 インベントリ異空間収納に、『じゃがいも』と『じゃがいもの種』が10個ずつ入っていた。じゃがいもの種1個からこれらが出来るというのは、有り難いけれど…やっぱりシュールだよね。まあいずれ慣れると思うけど。


「次は何を植えようかな……とうもろこし?そんなのあるんだ。植えてみよっと」


 倉庫から見つけてきた『とうもろこしの種』を畑に蒔いて、水やりをする。


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『畑:とうもろこし』

状態:良好

収穫まで:8分

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 あ、微妙に収穫時間が違う。作物によって違うのかな、そこもゲームみたいだ。

 8分後、とうもろこしを一瞬で収穫したあとは、『イチゴの種』を蒔いてみた。すると収穫時間は10分となっていたので、とりあえず放置して次に気になっていたことをすることにした。


「『箱庭ポイント』か。何と交換できるんだろう?」


 箱庭を意識すると、ウインドウが開いたのだけど…そのウインドウはいくつかタブ分けされていて、最初に開いたのは『種』のタブだった。他のタブは、


『調味料』

『雑貨』

『魔道具』

『家具・木材』

『衣服・布・糸』

『武器・鉱石』

『スキル』

『箱庭レベルアップ』

『売却』


 となっている。あ、箱庭レベルはここで上げられるのね。しかし、『種』タブだけでも膨大な数があるな…。


「ていうかスキルと交換できるの?」


 でもお高いんでしょう?…《剣術》スキルで200Ptか。微妙なラインだな。現在の箱庭ポイントが100だけど、これポイントの貯め方は……あ、『売却』タブで収穫した作物が売れるんだ。試しにとうもろこしを5個ほど売ってみよう。


「10Ptか…1個辺り2Ptなのね。これ、もしかしなくとも作物売るのは効率が悪そうだなあ」


 そんなことをボヤいたところで、ふと思い出した。私、種族特性で"宝石や鉱石を自身の魔力で自在に作り出せる"んだよな、と。…普通に考えて、宝石とか鉱石の方が良い値で売れそうじゃない?


「試してみよう。…どのくらい魔力を使うか分からないから、念のためにベッドの上で」


 床ペロはしたくないからね。という訳で、マイホームの寝室に戻ってきた私は、ベッドに座って手の平を上に向けた。そこに魔力を凝縮させるようにイメージしつつ、作り出したい宝石もイメージする。


「小さめのルビー、えーと形は楕円形で…、わ!?」


 何かーーおそらく魔力ーーが身体からごっそり抜けた感覚がした、と思ったら、手の平の上にイメージ通りの紅い宝石が載っていた。


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『幸運のルビー(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くルビー。

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 以上が《鑑定》結果だ。"幸運を招く"って、ただの噂じゃなかったのね…。

 ちなみにステータスを見てみたら、


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名前:ヘルミーナ

種族:宝石精霊族カーバンクル

性別:女性

外見年齢:15歳(実年齢:0歳)


基礎Lv:1

保有魔力:4950/15000


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 なんと魔力が約1万ほど減っていた。『幸運のルビー(小)』でこれなら、(大)とかはまだ作れないんだろうな…試さなくて良かった。

 さて、このルビーを『売却』タブで売ってみよ……は?


「10000Pt…だと…?」


 …これは、毎日寝る前にルビー(小)を作って売るのを日課にするしかないのでは?消費するのは私の魔力だけだし、コスパ(?)最強じゃないの。


「…ふぅ、とりあえずちょっと落ち着こう。まずはイチゴを収穫して、次の作物を植えないと」


 再び畑に戻ってきた私は、イチゴを収穫したあと『米』を植えた。正確には『米の種』だったけど。稲じゃないの?と疑問に思いつつ収穫時間の10分を待ってみたら、わさっと生えたのは稲だった。けど、収穫したら『米』と『米の種』が収穫できていた。…脱穀は必要ないのね。しかも収穫できた米の量は1升分だった。多いな?多い分には構わないけれども。

 でも米が手に入ったので、そろそろ何か料理を作ろうかな。マイホームに戻り、キッチンへ。


「最低限のフライパンや鍋、菜箸、包丁とかはある…けど」


 私、炊飯器がないとご飯炊けないよ?……あ、そうだ。


「困った時の神頼み…ならぬ、箱庭ポイント頼み!」


 確か…あった、『魔道具』タブ。ここに炊飯器がありますように…!


「えーと……あった!『炊飯器』、500Pt!って地味に高いな?交換するけど。あとは『調味料』タブで…『醤油』と『塩』、『砂糖』、『料理酒』、『バター』を各20Ptで交換して、と」


 今日は、とうもろこしご飯を炊きます。




 飯テロキャンセル。とうもろこしご飯、美味しかったなあ。

 さて、お腹も膨れたことだし、そろそろ箱庭レベルを上げたい。具体的には、畑と倉庫を拡張したい。

 ということで、箱庭ポイントのウインドウを開いて、『箱庭レベルアップ』のタブを開く。


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『箱庭Lv:2』…1000Pt

〈解放設備〉

 マイホーム(Lv:2)…1000Pt

 倉庫(Lv:2)…300Pt

 作業小屋(Lv:2)…500Pt

 畑(Lv:2〜4)…各100Pt

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「おお、レベル上げられるじゃないの。まずは『箱庭Lv:2』を交換して、それから設備を解放していくんだね」


 合計1600Ptで『箱庭Lv:2』と倉庫と畑を交換した。これで畑は4つになったから、色々な作物を植えられるね。あと箱庭自体と倉庫の中も微妙に拡がった。

 残りの箱庭ポイントは7910Pt。これでちょっと、交換したいスキルがある。さっきチラッと見た『スキル』タブで……あった。


《魔法効率化》…1000Pt

《魔力回復力上昇》…1000Pt

《魔力制御力上昇》…1000Pt

《瞑想》…500Pt


 これら、魔法補助関係のスキルを交換しようと思う。今後は魔法を多用するだろうし。なお上3つはその名の通りの効果で、《瞑想》は"魔力の自然回復を早める"スキルだ。

 さらば3500Pt。これで残りの箱庭ポイントは4410Ptになった。


 さて、増設した畑に新たな作物の種を蒔こうか。ということでまた畑にやって来ました。

 1つは『米の種』を蒔くことに決めているけど、あと3つは何にしよう?


「んー…もう1つは果物にして、あと2つを野菜にしようかな」


 果物は…『赤ブドウの種』にして、野菜は『にんじんの種』と『キャベツの種』にしよう。それぞれの種を畑に蒔いて、水やりをする。


ーーーーーーーーーーーーーーー

『畑:米』

状態:良好

収穫まで:10分


『畑:赤ブドウ』

状態:良好

収穫まで:10分


『畑:にんじん』

状態:良好

収穫まで:5分


『畑:キャベツ』

状態:良好

収穫まで:5分

ーーーーーーーーーーーーーーー


 以上が現在の畑の状態だ。10分経ったら畑を見に来よう。それまではマイホームで《瞑想》して魔力の回復に務めることにする。

 リビングのソファーに座り、《瞑想》を始める。すると、身体の奥底からじんわりと温かなものが湧いてきて、身体中に広がってゆくのが分かった。数分後、なんとなく「ここまでかな」という感覚に従って《瞑想》を解いてから、ステータスを開いてみる。


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名前:ヘルミーナ

種族:宝石精霊族カーバンクル

性別:女性

外見年齢:15歳(実年齢:0歳)


基礎Lv:1

保有魔力:20000/20000


『所持スキル(アクティブ)』

《水魔法》Lv:1 《瞑想》Lv:1


『所持スキル(パッシブ)』

《魔法効率化》Lv:1 《魔力回復力上昇》Lv:1 《魔力制御力上昇》Lv:1

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 なんか色々増えてるな。保有魔力も5000ほど増えているし、いつの間にか《水魔法》を覚えているし。

 こうなってきたら、いっそ基礎レベルも上げたいんだけど……箱庭ポイント交換に『武器・鉱石』のタブがあるのを鑑みるに、おそらく魔物を倒さないと基礎レベルは上がらないのだろう。それはまだ怖い…けど、この世界の食用肉って魔物肉なんだよね。野菜と米と果物だけでしばらくは生きていけそうだけど、いずれは肉を狩りたい。


「そのためには…保有魔力を上げて、魔法の腕を磨かないとね」


 あとは武術系のスキルと武器を交換して、そちらも鍛えておかないと。うん、これがとりあえずの目標かな。



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