第9話:



 深夜に帰って来たコウ少年から、潟辺達の様子を聞いて情報共有をした翌朝。


「おはよー」

「おはようございます」


 食堂に下りてきたケイは、彩辻さんやコウ少年と合流すると、それに美奈子も加わって皆で朝食をとっていた。そこへ、美奈子の母親が顔を出して徐に訊ねる。


「美奈ちゃん、庭の垣根のところに人がいるけど、あれお客さん?」

「え?」


 万常次の宿泊客はここに居る顔で全員の筈だと、美奈子は庭の様子を見に席を立つ。嫌な予感がしたケイも食事の手を止めて後に続く。当然のようにコウ少年もついて来た。

 彩辻さんはどうしようか迷っていたようだが、コウ少年に食堂に残るよう告げられたので留まっている。


 そうして庭の様子を調べてみると、案の定そこに居たのは潟辺達だった。


「ええー? またぁ?」

「……言って来ようか?」


 困惑と憤慨の交じった声で呻く美奈子にケイが訊ねると、美奈子は少し考えて首を振る。


「うーん、流石に何度も曽野見さんに頼るのは悪いし、今回は警察呼ぶよ」


 美奈子はそう言って電話を置いてある玄関の受け付けに向かった。その間に、コウ少年がケイにヒソヒソ声で「ちょっとさぐってくる」と伝えて庭に出た。


「大丈夫か?」

「まかせて」


 心配するケイに、コウ少年は手振りとウインクで問題無いと告げて潟辺達のグループに歩み寄る。線路側の垣根を跨ぐように屯しているその場所は、初日の不法侵入で集まっていた場所だ。


 一塊になって何やら話し込んでいる潟辺達に、とてとてと近付いていったコウ少年は、「なにしてるのー?」と声を掛けて、子供特融の『なになぜアタック』を仕掛けた。


 子供の相手には慣れていないのか、潟辺を始め彼等グループメンバーの誰もが困ったように顔を見合わせ、エヘラ笑いをしては仲間の誰かが追い返す事を期待している。

 そんな雰囲気が感じとれた。


 しばらく彼等の周りをうろちょろして見せたコウ少年がトテテと戻って来る。読心で探った潟辺達の事情は次の通り。



 昨夜、深酒をして寝坊した潟辺達は、昨日カメラを設置するつもりだったベストポジションを他のグループに占領されてしまい、今日も狙っていた場所を取られた。

 なので第二案だったこの家の敷地に再度侵入。撮影場所は庭の外に設定しているので、今だけ凌げれば問題無い――



「――って感じだったよ。ゆうべ夜遅くまでホテルの部屋で宴会してたのはボクも確認済み」

「なるほど……あの騒ぎも元々は場所取りの延長だったか」


 潟辺達は度々他のグループと揉めるので悪目立ちしているが、その割に場所取りで負け続けているようだ。ほぼ潟辺のワンマングループなので、仲間との連携など無いのだろう。



 そうこうしている内に通報を受けた警察が到着。もう顔も覚えた馴染みの駐在さんがやって来た。


「まーた君らか~」


 ベテラン年配の駐在さんは困ったような苦笑を浮かべながら、潟辺グループに万常次の庭から立ち退くよう警告する。


「外だろ、ここ。庭に入ってないだろ」

「垣根の外! 垣根の外!」


「ダメダメ、何言ってるの。こんなところに脚立置いたら駄目だよ」


 垣根に添うように脚立台を立てている潟辺達は、垣根の外側だから私有地には触れていない等と主張しているが、民家の目と鼻の先に足場を組んでの撮影活動などされては迷惑だ。

 そもそもがここも公共の場になるので、勝手に物を設置したりしてはいけない。


 駐在さんから「違法だよ」と告げられた潟辺は、ぶちぶち言いながら場所を変えるべく脚立台を撤去し始めた。


 しかし、警察が居なくなればまた入り込むつもりでいると、潟辺達の内心を読み取ったコウ少年がこっそり教えてくれる。   



「さて、どうしようか」


 美奈子はホテルのヘルプの他に、民宿の仕事関連で回らなければいけない店がある。彩辻さんとコウ少年は商店街での取材や、お堂巡りも控えている。

 ケイがここでずっと見張っているという手もあるが――


「それだとケイの負担が大き過ぎるね」

「まあ俺は別に構わないんだけど、美奈子さんは気にするだろうしなぁ」


 潟辺達のヘイトが自分ケイに向き過ぎるのも良くない気がすると、ケイは一周目の終わりの火事を思い浮かべて眉を顰める。


 あれが本当に潟辺のグループメンバーによる付け火だったとして、彼等がそんな行動に出たのは、潟辺との間に余程の事があったのだろうとも推察できる。


「じゃあ恨みを向けられにくい人材をとうにゅうしよう」

「人材?」


「ちょっと目立つかもしれないけど」


 コウ少年はそう言って周囲を見渡しながら玄関に向かうと、人目の付かない土間のところで空中に手を翳した。次の瞬間、メイドさんが現れた。


「!???」


 ケイは思わず二度見する。見間違いではない。まごう事なきメイドさんだ。

 三度見目でしっかりとその姿を捉える。少し変わったデザインのメイド服を纏った、腰まで伸びる金髪ウエーブの外国人女性。モデルのように整った容姿のメイドさんだと認識できた。


「えぇ……?」


 あまりに唐突過ぎて流石のケイもリアクションが取れないでいるが、コウ少年は構わずメイドさんの説明に入る。悉くマイペースである。


「彼女はエイネリアっていうんだ。こっちでいうアンドロイドみたいな魔導人形だよ」

「……ここに来てがっつりファンタジーに振り切ったな」


 コウ少年自身が『少年型召喚獣』とかいう人外だったので今更ではあるものの、『遡り能力』が唯一の非日常要素であるケイにとって、コウ少年は非日常が服を着て歩いているようなもの。

 もはや存在自体がフィクションの域にある。そんなコウ少年お勧めの対処法。


「たぶん、カタベ達は外国のお姉さんに見張られたらなにもできないと思う」

「ああ……盗撮くらいはしそうだけど、交渉とかはやれそうに思えないな」


 確かに、とケイはコウ少年の意図を読んで同意した。潟辺達に限らず、外人コンプレックス気味な一般日本人には案山子効果としても効きそうである。


 一応、美奈子を始め万常次家の人には話を通しておこうと皆で食堂に集まり、美奈子の両親を呼んでエイネリアという名の魔導人形らしいメイドさんを紹介した。

 勿論、魔導人形という部分は伏せる。


 コウ少年の身内が訪ねてきたという体にした上で、庭の見張りに就く事に許可を求める。


「ふわー、メイドさんだー」

「ふぉぉ、メイドさんだぁ」


 美奈子と彩辻さんが同じ反応をしている。美奈子の家族も凄く珍しそうにしていた。

 見張りと言っても基本、庭に立っているだけなので、危険が無いならばとエイネリアの監視活動は許可を得られた。



「じゃあボクたちはお堂巡りと取材にいこう」

「そうだな」


 その後は、前回と同じように昼頃まで仙洞谷町の彼方此方に佇む小さなお堂を巡りつつ、商店街に並び始めた屋台を取材する彩辻さんのお仕事を手伝った。


「はぁ~ん、コウ君とケイ君がいると滅茶苦茶捗るわぁ~」

「お疲れ様です」

「よかったね」


 彩辻さんにとってはお堂巡りも屋台のインタビューも初見の取材になるが、ケイと、ケイの記憶を共有するコウ少年は二度目なので、安全確実に適切なサポートを行える。


 道案内からスケジュール管理に至るまで終始リードして仕事を手伝った。彩辻さんからは、凄く良い記事になりそうだと、とても感謝された。


 平穏な雰囲気のまま万常次に戻って昼食を取る。庭の様子をみたところ、エイネリアが何事もなく佇んでいた。潟辺達は撮影台の構築強行は断念したようだ。


 報告を受けたコウ少年によると、潟辺グループは一度近くまで来たらしいが、エイネリアがじっと見詰めていたら引き返していったらしい。


「狙い通りだな」

「だね」


 彩辻さんは記事の執筆に入り、コウ少年は町の探索に出掛けるという。ケイは上手く事が運んでいる今のうちに、石神様に念じておこうと駅に続く小道へ向かった。


 前回の今頃の時間は、彩辻さんとコウ少年が商店街の屋台の取材などを終えて万常次に帰って来た頃で、入れ替わりに潟辺がカメラ片手に出掛けていた。


(確か、駅の近くを散歩する住人が怒鳴られたりしてるって、彩辻さんが厳しい顔してたな)


 そんな事を思い出しながら分かれ道のところまでやって来たケイは、道端に立つ道祖神に秘められている石神様に念じた。


 石神様が響いたのを確認して一息吐く。


(次に何かあったらここからやり直しだ。流石にもう死に戻るような事は起きないと思うけど)


 今回の旅のトラブルはあまり複雑に入り組んだ事情などは無さそうだし、コウ少年という規格外に有能な味方がいる。

 対処力が高過ぎてトラブルの方が足りないくらいだ。と、冗談じみた考えが浮かんで自然と笑みが零れた。



 少し肩の力を抜いて周囲を見渡したケイは、駅近くの線路沿いにずらっと並んでいる撮影班の集団を見つけたので、そこに潟辺グループの姿を探した。


(ここからは見えないな。線路の向こう側にいるのかも)


 トラブルの元凶とは確実に距離が取れている。

 この後も万常次に絡む事がなければ、一周目のような火事も起きず、静かな――とは言い難いが、廃線イベントで今だけ賑わう田舎町の、よい旅の思い出で締め括れる筈だ。


(出会いがちょっと強烈だったけど)


 現実に、この現代世界で本物の魔法を使う人外の存在に出会うとは、想像もしなかった。


 ケイがコウ少年の事を考えながら町の遠景を眺めていると、畑の畦道を抜けて線路沿いの道へと駆けて行く地元の子供達を見掛けた。


 屋台で買ったのか、糸で繋がれたふわふわ浮かぶ楕円型のメタリックカラーなビニール風船を凧のように引いて走っている子供が一人目立っている。


(ん?)


 よく見ると、そんな子供達の中にコウ少年が交じっていた。


「コウ君、馴染んでるなぁ」


 中身はともかく、見た目は肌艶も潤しい美少年。物怖じしない子供なら言わずもがな、人見知りする子供が相手でも読心能力で心の隙間にするりと滑り込める意思疎通の超越者。


 子供同士のネットワークでしか得られないであろう情報も、ああやって自然に集められる。まさに諜報のプロフェッショナルだと、ケイは心の中で賛辞を贈った。

 すると、遠くにいるコウ少年が一瞬ちらりとこちらを見てピースした。


(ええ……もしかして、この距離から読み取った?)


 周りの子供達は、コウ少年の謎のピースに不思議そうに首を傾けていたが、取り敢えず真似る事にしたらしい何人かが虚空にピースしていた。風船の子も、カニポーズを取っている。

 小さい子供同士のコミュニケーションは、大体そんなノリで円滑に回るものである。


(マネっこ行進か)


 しばらく子供達とコウ少年の様子を見守るケイ。線路が走る土手を潜るように水路のようなトンネルがあり、子供達はそこを潜って移動している。

 普段は水も流れていないので、良い遊び場になっているようだ。


 長い柵で囲われた線路の向かい側へ渡るには、駅の近くか町の端の方、入り口になる国道との境目辺りまで行かないと踏切が無い。


 地元民でも子供達くらいしか使えない近道。非公式な抜け道らしい。コウ少年と子供達の集団は、土手の向こう側に回って姿が見えなくなった。


(そろそろ戻るかな)


 ケイはもう一度、駅と線路周辺の撮り鉄撮影班を見渡してから、民宿・万常次への帰路につく。美奈子がホテルのヘルプに向かう時間が近付いている。今日も送るつもりでいた。




 住宅街の通りまで戻って来ると、万常次の玄関脇辺りに少し人垣が出来ていた。一瞬、前回の潟辺が泊まりに来た時の事を思い出すが、集まっているのは近所の人達のようだ。

 ケイが何事かと思いつつ近付くと、美奈子が気付いて声を掛ける。


「あ、ケイ君。お帰りなさい」

「ただいま。どうしたんです? これ」


「あれ。エイネリアさん。本物のメイドさんが珍しいって」


 庭の監視で佇んでいるエイネリアを見た近所のおばちゃんが友人に広めて、更にその友人からご近所さんに広まって見物に来る人が引っ切り無しに訪れているらしい。


「あー……まあ、確かに。独特のオーラがあるし、聞けば見物に来たくもなる……のかな?」

「メイドさんかぁ……」


「美奈子さんもメイドのコスチュームにしてみる?」

「ん~~~~~~~~~~~」


 冗談で話を振ってみたら結構本気で悩んでいるようだった。




 その後、部屋で適当に寛いで過ごしたケイは、美奈子がホテルのヘルプに出掛ける時間になったので玄関に向かう。


 二階の窓から庭の様子を窺うと、エイネリアと向かい合っているコウ少年の姿が見えた。どうやら彼も帰って来たらしい。


 一階に下りたところで、丁度コウ少年が庭から戻って来た。


「おかえり」

「ただいま。ちょっとトラブル発生」


 顔を合わせるなりそんな事を告げたコウ少年に、ケイは何事かと問う。


「カタベグループとはまたべつの狂暴なグループと揉めたんだ」

「狂暴なグループ?」


 コウ少年の話によると、地元の子供達と仲良くなって彼等の定番の探検コースを廻っていたのだが、線路の下を潜った先、土手の向こう側で撮影をしていた集団が子供達を怒鳴りつけた。

 怖がって泣く子も出たらしく、コウ少年はその集団に「迷惑になっている」と注意を促したそうだ。そうしたら集団の中でも性質の悪いグループが手を出して来たらしい。


「もしかして、子ども相手に暴力振るって来たのか?」

「うん。背中蹴られたから、殴りかえしてきたよ」


「コウ君、中々アグレッシブだな。つか怪我は? 他の子達は大丈夫だった?」

「だいじょーぶ。ボクは不死身だし、他の子はちゃんと離れた場所に居させたから」


 暴力沙汰には巻き込ませていないという。それでもショックを受けた子は居たので、コウ少年は彼等のケアをするべく、エイネリアに相談していたそうな。

 実はエイネリアは、託児所で保母さんのような仕事に就いていたのだとか。


 ケイがコウ少年と階段下でそんな話をしていたところへ、出掛ける準備を済ませた美奈子がやって来て、どこから聞いていたのか話の輪に入る。


「その人達の事、駐在さんに報せておかないと」


 撮影の邪魔だと追い払う行為も問題だったが、暴力まで振るったとなれば、それはもう警察案件だと憤る美奈子に、コウ少年は地元の子供達には手を出されてないので大丈夫と宥めるが――


「コウ君は手を出されたんでしょ? 外から来た子だからって放っておいていいわけないわ」


 そう言われたコウ少年は少し目を丸くすると、幼児らしからぬ優し気な笑みを浮かべて言った。


「美奈子は優しいね」

「んな……っ!」


 急に名前呼びでそんな事を言われた美奈子は、頬を赤らめてしどろもどろになる。

 コウ少年の様子を見るに、美奈子の内心から何か読み取って思うところがあったのだろうと、ケイは察した。


(正義感とか憤りじゃ無く、真っ直ぐな気持ちとか慈愛的な真心とか感じたのかな)



 さておき、今回の事態。潟辺グループと距離を置けた反動なのか、前回は接触しなかった別の悪質グループと邂逅する事になった。

 ケイは、このトラブルが万常次の安全を脅かすような要素になりうるのか考察する。


(大事にならなければ問題無いか)


 あくまでコウ少年が対処した一時的なトラブルであり、これ以降も関わる事が無ければ、今後の予定にも影響は少ないと判断する。


(コウ君は殴り返したって言ってたけど……)


 子供相手に暴力を振るった挙句、反撃されたからと泊まっている場所を探し出して報復に来る等という事は、流石に考え難い。


 人外が正体であるコウ少年の『殴り返した』がどのくらいの範囲だったのかを想像すると、若干気にはなるが。




 その後、コウ少年は彩辻さんの記事作りを手伝いに二階の部屋へ戻り、ケイは美奈子をホテルまで送り届けた。


 夕食を済ませると、今日も三人で商店街の銭湯に向かう。


「わぁ、夜店みたいになってる」

「昼間だとこの雰囲気は出せないよね」


 彩辻さんが「これは良いネタになる」と、取材した記事に屋台が並んだ夜の商店街の様子も加える案を検討している。


 実際お祭りの日は商店街の通りが屋台で埋まるそうなので、山間の小さな田舎町ながら規模が大きく感じるお祭りのある町として、仙洞谷町を紹介する記事としては良い宣伝にもなるだろう。



 そんなこんなと銭湯に到着。昨日よりも少し人が増えていたが、ゆったりした浴場で湯を堪能したケイ達は、今日も同じタイミングで上がって万常次への帰路につく。


 そして、やはり三人で並んで歩いていると若夫婦に間違えられる。りんご飴の屋台のおじさんから「旦那さん、坊ちゃんと奥さんにどうだい」とか声を掛けられるのだ。

 綿飴の屋台や、トウモロコシ焼きの屋台からも「兄ちゃん、やり手の嫁さん貰って羨ましいなぁ。一本どう?」など。


 彩辻さんは町の取材をしている間に一部で子連れの若い女性ジャーナリストと認識されており、共に行動しているケイは必然的にその旦那さんと誤認されてしまっているようだ。


 その都度やんわり訂正しているのだが、効果はあまり感じられない。


「なんだろう? そこまでしっくり見えるんだろうか」

「まあねぇ、こういうのはその場の雰囲気もあるから……」

「わりとてきとーみたいだよ?」


 当の本人達は、特に気まずくなるでもなく、照れるでもなく。町の人達の誤認ぶりを冷静に分析していた。


 死に戻り能力の副次効果弊害で鋼のメンタルと化しているケイに、酸いも甘いも嚙み分ける熟練ジャーナリストにして世界の理を超える人達・・と親しい彩辻さん。それに人外のコウ少年である。


 冷やかしにあっても動じる要素が全くなかった。


 そんな余裕のある毅然とした姿がまた、『若いけど深い絆で結ばれた家族』感を出していて誤解を加速させているのだが、一人を除いてそこには気付いていなかったりする。



(こういうのもいいなぁ)


 ケイはケイで、今の刺激的かつ穏やかな状況を結構楽しんでいた。

 旅先での出会い。知らない町で、出会ったばかりの人達と喜びを共有する。一人旅の醍醐味を十分に味わえるひと時。


 本来、死に戻り能力が発揮される事態など、そうそうに遭遇するモノではない。普段はもっと地味で、事件も出会いも何事も無く、淡々と終わる静かな旅が当たり前なのだ。

 今回は出会いの方が強烈過ぎて、対処すべき事件の方が霞んでいるくらいだが。


(偶にはこういう特殊過ぎるイベントが起きる旅も悪くないかな)


 ――等と考えたのがフラグになったのか、賑やかな商店街の通りを抜けて、静かな住宅街に入る道に差し掛かった時、数人のグループに囲まれた。


 正面に三人ほど、横並びで通せんぼしたかと思うと、背後から四人くらいがバタバタと足音を鳴らして塀の陰から飛び出してきたのだ。


「え? なに?」

「あ、昼間の狂暴なグループだ」


 彩辻さんが何事かと警戒し、コウ少年は相手の正体を指摘する。


「昼間のって、子供に暴力振るったっていう?」

「そう。何か悪だくみしてるっぽい」


 彼等から何か読み取ったコウ少年が、ケイにそう耳打ちした。



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