バッドエンド・ブレイカー

ヘロー天気

プロローグ



 ――幼少の頃、人の死を言い当てる不吉な子とか、霊感があるとか言われていた。


「あれ? ばあちゃん、車にひかれたんじゃなかったの?」

「まあ、なんて事いうのこの子は!」


 また母に叱られる。夏休み、家族で田舎のばあちゃん家に来てから、母はずっと機嫌が悪い。

 昨日、ばあちゃんと田んぼの横を通る道を歩いていたら、バスが突っ込んできた。そこから先の記憶が無いのだが、今さっき仏壇が置いてある部屋で目が覚めた。

 人の話し声が聞こえる居間にやって来たら、家族や親戚の人達とお喋りしながらお茶を飲んでるばあちゃんを見つけたので、思わず声を掛けたのだ。

 ばあちゃんは、プリプリ怒っている母を宥めながら問いかけてきた。


「おばあちゃん、車にひかれたんか?」

「うん」


 昨日の出来事を話すと、母や親戚の人達がざわざわと戸惑うように顔を見合わせている。いつもニコニコしているじいちゃんの、真剣な顔がちょっと怖い。

 ばあちゃんも真面目な顔になると、ゆっくりした口調でこう言ってきた。


「よう聞きや? ケイちゃんの中には石神様があるんや」

「いしがみさま?」


「石神様の響く所でなら、ケイちゃんの記憶を持って行ける。よう、覚えときや?」

「? いみわかんない」


 腕組みをしながら首を傾げてみせると、ばあちゃんはいつものニコニコ顔になる。


「わからんでええ」


 そう言って頭を撫でてくれた。それから数日後、近くでバスが田んぼに突っ込む事故があった。その日は家族揃ってばあちゃん家に居たので、ばあちゃんも自分も無事である。

 あの時、昨日の出来事だと思っていたバスの転落事故は、実は三日後に起きる出来事だったのだ。


 当時は一度見たはずのテレビ番組がもう一度流れたり、捕まえておいた虫が居なくなっていたり、食べたはずのお菓子が丸々残っていたりと、不思議な事が立て続けに起きたように感じていた。

 日付と記憶が一致せず少々混乱もしたが、子供の適応力なのか、しばらくすれば忘れてしまった。



 やがて月日は流れ、都会の高校に通う事が決まった俺は、家を出て一人暮らしの生活を始めた。

 時々不意に思い出しては、あれは何だったんだろう? と物思いに耽っていた『石神様』の事を、強く意識し始めたのは、その頃からだった――



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