第5話

 星野美咲は、映画の撮影現場で藤原祐司と再び共演していた。カメラが回るたびに、彼女は役に没頭し、その輝きを放っていた。しかし、撮影が一段落した後、出演者とスタッフが打ち上げのために寄った飲食店で藤原は美咲にそっと近づき、彼女に交際を提案した。


「美咲さん、一度、デートしてみませんか?」藤原の声には真剣な感情がこもっていた。


 美咲はその真剣な様子に「藤原さん、嬉しいけど・・・・・ちょっと考えさせてください」と答えた。


 翌日、メディアは美咲と藤原の熱愛を大々的に報じた。飲食店で美咲と藤原が密会しているように見える写真を撮られ、さまざまな憶測が飛び交っていた。


 美咲は報道を見て、深いため息をついた。「こんなはずじゃなかったのに」彼女の心は重かった。短い期間で異なる異性との関係を報じられたため自身のキャリアへの影響を懸念していた。


 一方、拓海は自宅で報道を目にし、自分と藤原を比較し、自己嫌悪に陥っていた。

 

 パパラッチに写真を取られた日、拓海は美咲に交際を提案することを考えていた。何も解かっていなかったと、今になってそのことを恥じる。芸能界のことも自身がどれだけきらびやかな存在と比較されることになるのかも。「僕なんかより、藤原さんの方が美咲さんにずっとふさわしい」彼の心は痛みで満たされていた。


 深夜、拓海は重い心で美咲に電話をかけた。「美咲さん、僕のせいであなたが困ることはしたくないんです。だから、距離を置いた方がいいと思います」


 美咲は電話の向こうで言葉を失い、彼の決断に心を痛めた。「拓海さん、でも……」


「ごめんなさい、美咲さん。あなたと過ごした日々は楽しかったです」拓海は涙を流しながら、電話を切った。



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