第15話

 はい、すぐ、あの子に会えました!


(まさかデリオン殿下が、嫌いな私を真夏のお茶会に招待するなんて……何事?)



 


 その魔の招待状が届くまえ。前世の真夏の暑さを感じさせない、ママが作った魔導具を首に下げて。書庫で読書、領地のジャガイモ農家へのお手伝い、トラ丸と庭でお昼寝――私は快適な生活を送っていた。


 今日も、トラ丸を頭に乗っけ厨房を覗く。


「カルロ、ポテトチップ作ろう」

「またですか? 昼食を食べたばかりです」


《ケチな男だな》

《トラ丸、そう言わない》


 気にせず普通にトラ丸と話す私に、お母様に念話を教えてくれた。トラ丸――聖獣は魔法大国クエルノにしかおらず、稀に"聖獣の卵"を友好の証として贈られるらしい。


 聖獣の卵は王城の中にある〈神の木〉と呼ばれる、蜜リンゴの木にだけに集まるらしい。


 その蜜リンゴの木は大昔、姫に好意を持った神が、プレゼントとして送ったものと言われている。聖獣の生態はまだ解明されていないが、魔力の高い者にしか卵は反応しないのだとか。

 

 そして、聖獣と会話ができる者は数人しかいない。

 お母様が読みなさいと、子供でもわかる聖獣の本をくれた。



「カルロ、お願い。ポテトチップが食べたいです」


「仕方ないです、少し待っていてください」

「やった! 何か手伝う?」

「……蔵にある、ジャガイモを食べたい分、洗ってきてください」

「はーい!」


 トラ丸と庭にある野菜蔵でジャガイモ3つとり、洗って持っていく。この蔵も魔道具で中にある野菜が腐りにくい――お母様の魔道具は凄すぎだ。


《マリ、ポテトチップもいいがフライドポテトも捨てがたい》


《それは明日だよ。今日はポテチの気分》

《クク、マリは農家まで手伝いに行くほど、ジャガイモが好きだな》

《好きだよ。一袋買えば、いろんな料理ができたからね》

《……そうか》


「ジャガイモ、洗ってきたよ」

「しばらく、待っていてください」


 しばらく待って、カルロが作ってくれたポテトチップを、庭のテラスで冷やした紅茶といただく。サクサクなポテチ。お嬢様っていい――自分でご飯作らなくても出てくるし、洗濯も掃除も最低限でいい。


 サクサク、サクサク


「はぁ~美味しい、太りそう……」

「マリーナお嬢様は少し痩せ過ぎですので、それくらいがいいと思います。ごゆっくり」


「カルロ、ありがとう」


 カルロが休憩に戻り、トラ丸とポテチをサクサクかじる。


《揚げたての、ポテトチップは美味いな》

《ねぇ、美味しいよね》


《……トラ丸はおかしい。普通の聖獣は主人の魔力をもらうから……人間と同じ物を食べない!》


 空からジロウの声、お母様が帰ってらした。


「お母様、おかえりなさい」

「ただいまマリーナ。あなたまた、それを食べているの」


 サクサク、サクサク。お母様もポテトチップに手を伸ばす。


「んん、ポテチ美味しい」

「お母様も座って、食べよう」


「ええ、お呼ばれします」


 仕事帰り、いつもは執務室にこもってしまう、お母様とお茶をする時間も増えた。両親の仕事が休みの日はお父様もいる。


「そうだわ、マリーナに招待状よ」

「え? 私に招待状?(嫌な予感しかしない)」


 トラ丸とジロウも招待状が気になるのか、寄ってくる。私はお母様から、水色の封書を受け取った。


《この匂い、アイツだな》

《アイツの匂いがする》


 ――アイツ?


「マリーナ、あなた――国王主催、真夏のお茶会にデリオン殿下から招待を受けました」


「こ、国王主催のお茶会? デリオン殿下からの招待状!?」


 ゲッ、デリオン殿下とまた会わないといけないのぉ!

 

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