23話へんじょの鏡

 ボルクは鉱石を探している。海底神殿の石材はどこから運ばれたのか? 伝説や古史古伝に記述はないか、楔文字やカタカムナ文字、海外の古代文明の記録まで探っても手がかりが見いだせない。ゆずもきんときも、ボルクを手伝っている。


「ボルク、君は何者なの?」

ボルクは宮内庁のホームページから、見たことかない裏ページにアクセスしている。

「ボルク、これって‥‥‥」

「あのね、僕も地球に来てから治五郎さんに聞いたんだけど、皇族の血を受け継いでいるらしいんだ」

「なんだって?」

「治五郎さんが育てている裏の天皇だって言うんだよ。そんなのは僕には関係ないけどね、ただ、天皇家にまつわる極秘文書は読めるらしい。読む特権が与えられたんだ」

「ボルクが天皇?」

「違うよ、天皇陛下に何かあった場合、直系の者が即座に入れ替わるんだ。例えば、地球が反転して、皇族みながいなくなるようなこともあるでしょう」

「だとしたら、何人もスペアがいるってこと」

「多分ね、僕だけだって言うけど、天皇家と同じで、変わりはいるさ、僕の家系は戸籍もないんだって、治五郎さんは八咫烏のメンバーで、火星移住計画に僕の家系の細胞を持ち込み、血筋を保護したんだ。そもそもそれが目的だった。天皇家の三代後からこれまで続いて来たらしい」

「三代後って、つまり神武天皇から三代後ってことなの? 君の家系も由緒ある家、国の宝ってことになるね」

「歴史の闇に消されて来た名もなき家だよ」

「天皇家って守らなきゃいけないの」

「神の血筋だからね、僕が調べた情報を繋がぎ合わせると、つまり異星人だよ、特殊能力があるんだ」

「ボルクにもあるってこと?」

「それを調べているんだ」

 ゆず、きんとき、そらまめは、手を止めて高速で動き初めた。それぞれのデーターを遡っているようだ。


「ちょっと、みんなどうしちゃたの」

「地球滅亡の危機を救うのは君なんじゃないか」そらまめがまた猛然と文書を調べ始めた。


 電柱シティは火星にいる時よりも随分暮らしやすくなっていた。野菜や肉も買い出しに行けば手に入る。しかし、古代文明の手がかりは海底神殿だけだ。


「おかしいって、石を切り出した場所もないなんて」

カストルが出来上がった神殿の図面を広げている。

「別になんの不思議もないよ。二万年あれば、0から文明を始めても、高度文明まで復活できる」

「つまり一度滅びた後ってこと?」

リンダが机に尻だけ乗せた。

「リンダ、行儀悪いよ、それより、文明は発生から衰退を繰り返しているってことだよ、ボルクはそう言いたいんだろ」

「まあね、だけど、復活にかかる年数は早まっているんだ」

「作ったり、破壊したり、子供のオモチャじゃあるまいし、シリウスってのは寿命がそんなに長いのか?」

 ヒジュが心なしか青ざめている。

「幽体なんだから、精神世界に生きている。寿命なんかないんだ」

「ボルク、シリウスは地球を精神世界の星にするってこと?」

「リンダ、分かってないわね。地球人たちもそのレベルなら理解しているでしょ、次元上昇するんだ」

 チップスが珍しく口を挟んだ。

「古代にやった形跡があるからね、エンジンや燃料もないのに、空を飛び回っていた文明があっただろ?」

カストルが黄金のスペースシャトルを実体として、画面から取り出してくれた。


「へ?」

リンダばかりじゃない、ガイヤ全員の手が止まった。ボルクがモニターの前に立った。

「コロンビアの首都ボゴタにある、国立銀行付属黄金博物館に展示されている黄金のスペースシャトルだよ」

「オーパーツとして有名だよね」

「これは手のひらに乗る大きさで、ペンダントなどの装飾品だったと言われているんだ、だけど、木とか薄くて軽い金属とかで実物が空を行き交っていた時代があったんだ」


「古代に空を飛び回っていたのか、ナスカから近いよね」

「ヒジュ、時代も同じ位だよ」

「だったらさ、日本の巨石文明もそのあたりなの?」

「記録はないけど、宇宙から来た神々と戦った記録があるんだ、それが銅鏡なんだけど、赤い石さえ見つかれば、証明する手段が見つかる」


「ボルク、すごいよ」

「ライラ、おだてないで、古史古伝に書かれていただけさ」

「さすが、超高速コンピュータだ」

「皆んなと比べたら僕のはポンコツだよ。容量オーバーにならないようにしないと」

「よし、明日からは全員で赤い鉱物を探そう」

「あー、あー!あああぁー」

「ボルク、どうした!」

叫び声を上げたボルクが前のめりになって、床に頭を打ち付けた。カストルがイスを飛び越えて、ボルクを支えた。

「ボルク、大丈夫か!」

「なんで気づかないんだろう。ヒントだらけだったんだ」


 ガイヤたちがボルクを取り囲んだ。

「えーと、あの、つまり」

「ボルク、順番なんかとうでもいいよ、分かることだけ話してみな」

「カストル、みんな、僕が探している鉱物はへんじょの鏡を作るためなんだ」

「うん、うん、そうだ」カストルが即座に合わせた。

「モヘンジョダロの遺跡は知ってるだろ」

そらまめが頷き、軽く説明する。

「インダス文明だ。紀元前千二百年から千六百年頃にに核戦争により、文明が途絶えたとされる地域だ」

「ヘェー核戦争、そんな昔に?」


「遺跡からたくさんの物が出土している。銅鏡もある。あの街は、ガラスの街とか、呼ばれていたんだ」

「古代にかい?」

「うん、神の怒りによって滅んだと伝承がある」

「つまり、ボルクの新たな仮説は、日本ではなく、インダス文明の地から日本に運ばれて来たと言う事だね」

「可能性はあるんだ。つまりいくら日本を探しても、へんじょの鏡は見つからない。ただ、かの地で見つかった鉱物が、トリニタイトなんだ。赤いのもある」

そらまめが赤いトリニタイトの画像に切り替えた。

「これだ」

「あったよ、ボルクこれがトリニタイトだ。核爆発の跡から見つかっているけど、モヘンジョダロの遺跡からも見つかっている」

 そらまめがモニターに映し出した画像にガイヤたちは息を呑んだ。

「モヘンジョダロは『死の丘』って意味なんだよ、近くに『ガラスになった街』と呼ばれている場所がある」

「仏教では、遍照金剛って経文にあるけど、大日如来のことなんだ」

「そらまめ、これって繋がったんじゃない?」

「ライラ、赤いトリニタイト探してよ。多分磨くんだ。人力でレンズを磨くみたいに」

「収集家がいるみたい」

「僕はヒジュと精神を集中する訓練をするよ」

「待って、まだみんな理解してないわ」

ミーシャがボルクの口を押さえた。


「モヘンジョダロの遺跡は、地中深く埋もれていて、現在発掘調査されているところは、地表部分だけで、地中にその四倍が隠されているんだって、つまり、大きなビルディングが埋まっているんだ。そしてモヘンジョダロとへんじょの鏡って、今頃気がついた。そこに、大日如来の鏡ってことは、もとは太陽神、仏教とエジプト文明や黄河文明も繋がるよね。ラーの鏡はへんじょの鏡のことなんだ」

「まるで未来都市と古代都市の融合だわ」

「明日から赤いトリニタイトと、未知の鉱物。探してみよう」


ガイヤたちはそれぞれ調べたいことがあった。

「ボルク、精神統一って、次元上昇するつもりかい? 」

「ヘンジョの鏡は多分すごい集中力がないと操れないと思うよ」

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