第16話 古史古伝

 電柱シティーのバリアには反応がない。すぐさまヒジュを追って来ると慌てたが、シリウスたちは静かにしている。


 ロッジに治五郎さんが訪ねて来た。朝食を食べている最中の早い時間だ。

「やあ、諸君、おはよう」

治五郎さんは飛田組の若い衆に木箱に入った荷物を持たせていた。


「これは、石版から写したり、口伝により書留めた古代からの遺産だよ。飛田組の秘伝文書だ。読める者は私だけだ。ところが、ボルクは少し目を通すだけであの奇妙な図形を文字と判断した。ボルク、ガイヤたち、君たちなら読み解けるんじゃないかと託すことにしたよ」


「うへー、こんなにいっぱいあるのか?」

カストルが箱の蓋を開けてうんざりした顔だ。ボルクは目を輝かせている。

「皆んなで読めば、三日もかからないと思うよ。治五郎さん、僕らデータ交換したから、みんな読もうと思えば読めるんだ」

治五郎さんは、ボルクの答えに満足して、ガイヤたちの護衛に若い衆をログハウスの外に配置して帰って行った。


「あー、結構いかがわしい文書も含まれている。とくにこの『タケウチモンジョ』は読まなくてもいいんだ。こっちの口伝を書き起こした方を優先して。ウエツフミ、富士宮下文書、神伝上代天皇記で、異星人が介入したと思われる箇所や、いかにも人為的に歴史が塗り替えられた箇所、意味が通らない箇所を抜き出すんだ」

「なら二人ひと組で記録しながら読むといいね」

「役所管轄のそらまめたちは得意だからいいよね、私は見ただけで無理だわ」

ミーシャが鼻に皺を寄せた。

「だって臭いもの」

「香を焚き染めてあるんだよ。僕にはいい匂いなんだけど、だったらミーシャもチップスも牧草地に行けば」

「やった〜! リンダも行こうよ、羊の世話も欠かせないんだ」


「私は文書を読むの。ヒジュは?」

 ヒジュは実体に戻り、石造のような表情がかすかに緩んだ。

リンダはヒジュが好きなのか、ずっとヒジュにくっついている。ライラはなぜかそんなリンダにイライラする。


「凄いねタケウチモンジョって、古事記より古い時代だよ。宇宙創生期みたいだよ」

「カストル、さっき言ったよね、それは今は読まなくていいんだ、もしかしたら昭和初期に書かれたかも知れない。偽物だと言われている。それより、こっちの『正統タケウチモンジョ』だ。あとは青森や岩手など東北で保存されていた文書が見つかってる。研究者によって、同じ記実が重複している物は興味深いよね『うつろ舟』などの記述だ」


「地球が高度文明を築いたあと、何度か核兵器によって滅ぼされているって仮説は事実だな。日本も沖縄の海底遺跡や与那国の海底遺跡のペトログリフから、超古代文明があったとする方が自然だね」と、本を伏せてデータを流してよこした。


「文明を滅ぼしたのがシリウスたちだとして、今まさに、火星でその準備をはじめているってことだね」

 そらまめが天井を見上げた。そらまめの頭の中には宇宙が投影されているのかも知れない。


「古文書は偽物だとは断定できないよ。共通点がたくさんある。多少手を加えたとして、ボルク、ストーリーの組み立てはできるかい」

「地球が出来てから。二十億年位前に人類が二万年位かけて文明を築いた、文明は空から降ってきた火の矢によって火山活動を誘発して滅びた。それから十億年は再び大地を取り戻す時間だ。地球外生命体がやって来て、世界に痕跡を残している。人類が発生して村を形成した頃が五億年から二億年前だ、その辺りでまた文明が破壊されてる。日本の超古代人が出て来るのがその頃だが、それを最後に日本は火器兵器からは狙われていないようだ。世界の文明は津波や地震や火器兵器によって滅亡した痕跡が残されている」

「公式文書とはかなりずれてるね。ヒジュ、シリウスたちの仕業かな」ボルクは概要を話し、自分の口から出た内容に信じられないと、顔を曇らせた。

「だってさあ、日本だけが破壊を免れたことになってるよ」

「おそらくそうだな、日本は神々がいたんだからな。ほら、天孫降臨から人の領域だ。ただこの、シリウスと言うのはシリウス系と言う意味で高度な宇宙人ってことだけどね」


ヒジュはシリウスと呼ばれることを拒んでいるようだ。


「ねえ、モヘンジョダロの資料なんだけど、耐水構造の壁、水栓トイレだったり、下水道が完備されていたらしいよ」

 リンダが長いまつ毛をバサバサ瞬いている。

「治五郎さんは火星を脱出するとして、地球に帰る気はないの」

ミーシャがライラに目を向けた。


「火星に来てわかったんだ。地球はもう長いことない。今ある文明はまたすぐに滅びてしまうってことなんだ。治五郎さんも当然知っている。それを回避するために火星に移住を始めたのさ」

「でもさ、もし火星を明け渡したら、それって異星人たちの思惑通りだろ、火星のシリウスたちが使っているドームみたいに地下都市を作れば、地球の危機も乗り越えられないかい」

きんときが地下都市への入り口の画像を映した。

「だって、この地下ドームも飛田組が建てたんだよ」


「そうだ、きんとき、だから俺も地球に行きたくなって来た」

カストルはテーブルの上に組んだ手を見つめている。

「僕も地球に行ってみたい。ずっとじゃなくていいんだ、もし地球に絶望したら、また火星でもケフェウスでも探せばいい」

 ボルクも地球行きに賛成している。リンダとミーシャ、チップスは楽しそうな匂いがすればすぐになびいてしまう。


「古代の地球には高度な文明が確かにあって、飛行技術も発達していた。せっかく文明を築いても異星人達に侵略されているんだ」

「ボルク、高度な生命体と、人類が戦うつもりなのか」

「日本はもしかしたら、勝ったんだと思う。例えば法隆寺の昆虫型の異星人は、寺で修行をしていただろ」

「そんな文章なんかないよ」

「だけど、木像が残っているじゃないか? 人類の方が優れていたのかも知れないんだ、その証拠に。日本では石版も、木片も焼けないで残っている」

「あっごめん、私ついて行けないけど、日本は本当に文明が破壊されなかったの」

「自然災害はあったさ、あと第二次世界大戦の長崎と広島の原爆は近代だし、文明は持ち堪えた。大きな震災はえーと、東北の地震と津波だけど、ハープって言う地震兵器の噂は消えてない。シリウス系の仕業だと治五郎さんは言っている」


「猿田彦命は古代イスラエル人だと言う人もいるらしいけど、アマテラスも異星人じゃないかな?」

ヒジュが話を外らした。シリウスの名が出ることに怯えているみたいだ。ライラはヒジュを横目で捉えていた。


「なら、僕が昨日読んだ本からわかったことだけど、アマテラスは地球人だ、ただし、呪術を使うんだ、つまり超能力者だ。それで倭には異星人が来訪しても、家来になっている。支配階級にはなっていないんだ」

「何だかわくわくする話だね。ボルクは地球をガイヤが救える算段があるってわけだ」

「たぶん、法隆寺の僧侶の方が宇宙の真理がわかっていて、異星人が教えを乞うたんじゃないかな、家来になるってつまり弟子になったんだ」

「もっと調べれば、きっと方法が見つかる」

「じゃあ、私たちも乗った!」

リンダはヒジュの首を抱えた。

ヒジュがリンダの腕の下から、親指を立てている。


「よし、ガイヤたちは地球に行きたいんだな。だけど、今の地球は異星人が手を出さなくても滅びてしまうんだ。火山活動が活発化している、海面上昇も加速している。そらまめよ、君たちの研究はどうなんだ」

「地球はすでにいつポールシフトが起こってもおかしくないよ」

「南極と北極がひっくり返るんでしょ、死んじゃうわ」

「いや、多分ゆっくり回るんだ。甚大な被害はあるけど、人類の時間軸で考えているからだよ」

そらまめは『宇宙時間で考えればわかるんだ』と言ったきり心を閉ざした。

「そらまめってガイヤみたい、宇宙時間の計算してるのかしら」

「そらまめは天才なんだ。だからガイヤと合流したんだよ」

カストルがそらまめをベッドに運んだ。

「そらまめに計算して貰うんだ。俺たちは治五郎さんを抱き込んで、ドームごと地球に行く方法を探るんだ」

ガイヤの意見は一致した

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