番外編 エピソード1 頑固者の花が開いた日。

【中川一雄(ナカガワカズオ) 72歳】


庭に植えられたチューリップが満開になった。土から芽が顔をだし、日の光と対面したばかりの頃は柵が自分の存在を主張し、なにかが伸びてきていることなど気付かないほどだった。


等間隔に植えられた球根が満開となった今、自分の庭であるはずがどこか違う公園にでも来たような光景が広がっている。


長年連れ添った妻が亡くなった。

今思うと、《連れ添った》ではなく、《連れ添ってくれていた》のだった。

自分の命の花が満開を過ぎ、自然にかえる時期がやって来たことを知ってもなお、その後の私のことを考えてこの花を植えていたのだろうことに先日気付くことができた。


「おじいちゃん!」


玄関から孫たちの声が聞こえてきた。定期的に息子夫婦が元気な孫たちをつれて遊びに来るようになった。


「いらっしゃい。」

こんな言葉を、こんな穏やかに自分が発する日が来ることなど想像もしていなかった。


「この間教えたヒーローの名前覚えてる?」

おしゃれなのか、今の時代のありとあらゆる名前が覚えられなくて困る。自分も、息子も通ったヒーローものに熱中する時期を今は孫たちが通っている。


「ちょっと待っときなさい。」

戸棚から袋を取り出した。

「これだろ。」

書店の袋の中には、カラー写真が綺麗に印刷された本が2冊入っていた。


ワッ!と孫たちが笑顔になる。


先日近くの書店に行き、ヒーロー達が写っている児童書を購入したのだ。中々名前が思い出せず、見つけられなかったが若い男性の店員にぎこちなく尋ねてたどり着いたのだ。以前の自分であれば、店員を頼ることなどなかっただろう。


孫たちが一生懸命名前を覚えてもらおうと、指差しながら説明をしてくれる。まだまだ頭を休ませるわけにはいかないようだ。



「おじいちゃん!笑ってないで覚えてよ!」

「まぁまぁ。分かった分かった。1人ずつ教えてくれよ。」



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