第2話:飛飛(フェイ・フェイ)

大きな蔵の片付けと掃除は一大イベントだった。

埃まみれ、汗まみれで、愛彦はヘトヘトだった。

風呂でシャワーを浴びて、自分の部屋に戻ってベッドに横になったが持ち帰った

風呂敷包みが気になっていたので早速包みを解いてみることにした。


こういうのは期待だけが膨らんで案外、ろくなものが入ってなかったりすること

のほうが多いんだ・・・。

そう愛彦は思った。

でも、声のことが気にはなっていた。


風呂敷を恐る恐る解いてみると、平たい黒い箱が現れた。

よく見ると、箱の両サイドに見たこともない字で書かれた魔除けみたいな札が

貼られてあった。

まるで梵字のような文字だった。


なんとなく開けちゃまずいんじゃないかって愛彦は思ったが、好奇心のほうが

勝った。

札の封を切って中を恐る恐る開けてみると、手鏡らしきモノが一枚うつ伏せに

なって入っていた。

裏には不思議な模様で飾られていて色は朱色だった。


愛彦は手鏡を手に持ってくるくる回してみた。

なんの変哲もない鏡だった。

鏡の周りにも不思議な文字が書かれてあったが愛彦には読めなかった。


上から見ても下から見ても、回して見ても何もない鏡・・・。

ただ鏡の表面に箱に貼ってあったのと同じような札が一枚貼られてあった。

長い間に半分劣化した状態だったせいか札は力を入れなくても

あっけなくに剥がれた。


札が剥がれてからしばらく待ったがなにも起きない・・・。

愛彦は少し落胆した。

大げさな模様が刻まれてる割になんの変哲もない鏡だったようだ。


眺めていてもしょうがないので、そのまま箱に戻そうと思った時、鏡の表面が

急に光はじめた。

愛彦は驚いて鏡の光ってるほうを壁に向けた。

すると鏡はさらに激しい光を放射した。


部屋中が光に満ちあふれた。

あまりに眩しくて愛彦は目を開けることができなくなった。


(眩しい・・・)


それと同時に愛彦は、なぜか力が抜けて絨毯にへたれこんだ。


「どうしたんだ、急に体の力が抜けた・・・」


光は一瞬だった。

絨毯の上に落ちた鏡はもう元の鏡に戻っていた。


何が起きたかは愛彦には分からなかったが、でも何かが起きたに違いないと

愛彦は思った。


でも何が起きたか分からなかった。

今の光はなんだったんだ。

そう思って、もう一度鏡を見たらその鏡に誰かが映っていた。

愛彦は鏡の向こうを反射的に見た。


そこに真っ赤な衣をまとった女が、両手をついてこちらを見ていた。

漆黒の髪を・・上で結い上げていて残りの髪は下に垂れていた。

髪の両サイドに飾り物をつけていて、同じく両サイドに大きめのかんざしが

二本ずつ刺さっていた。


まるで日本の花魁さんのようだった。

いやどちらかと言うと中国のファンタジー映画なんかに出てくる女性

みたいな・・・。


赤い衣と衣装が透けていて、うっすらと素肌が見えていた。

おっぱいまで綺麗に透けて見えていたので愛彦は目のやり場に困った。


その子は、愛彦を見ると愛彦に近づいてこようとした。


愛彦は驚いて、後ずさりしようとしたが蛇に睨まれた蛙みたいに金縛り

みたいになって体が動かなくなってしまった。


(なんて綺麗な人なんだ・・・)


妖艶と言ったほうが正しかった。

考える間も無く愛彦は一瞬にして彼女に落ちていた。

彼女は男を一瞬で惹きつける不思議なオーラを放っていたのだ・・・。


「き、君・・・・なに?・・・誰?」


「私の名前は飛飛フェイ・フェイだよ・・・鏡の精だね」


その人は、その女は少し微笑みながら自分のことを「飛飛フェイ・フェイ・・・鏡の精」・・・そう言った。


つづく。

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