どうしようもない世界に舞い降りた天使たち
山城京(yamasiro kei)
第1話
待ち人が来るまでの間、ぼうっとブラインドの間から差し込む夕日に目をやっていた。
こうした景色を見ていると、やはりというか、どうしても思い出してしまうものがある。
いつの頃からか、毎日のように見るようになっていた、夢。
夕日の差し込む電車の中で、やけに大人びた少女と会話する夢。
「……私が間違っていました」
そう、始まりはいつもこうだ……。
私達以外、誰もいない電車の中で、少女は自らの過ちを告白するようにポツリ、ポツリと語りだした。
「繰り返し求められる選択の中で、私は常に間違った選択肢を選んでしまった」
少女はうつむき、こう続ける。
「取り返しのつかない結果に行き着いて、初めてあなたが正しかったことを知りました」
――そんなことないよ。
そう言おうとしたが、事態はあまりに深刻で、彼女の言う通り取り返しがつかなかった。
「今更図々しいですが、どうかお願いです。これは、最後のチャンスなんです」
少女は顔を上げ、私に懇願する。
「きっとあなたは、ここでの会話を忘れてしまう。それでも構いません。私という鎖がなくなれば、恐らくあなたは同じ時、同じ状況で、私とは別の選択をする」
電車が減速を始めた。目的地に辿り着こうとしているのだろう。
「その選択は、きっと未来をより良いものに変えてくれるはずです。あなたにならできると信じています」
ふと、脳裏を「彼女達」と過ごしたかけがえのない日々がよぎった。
「そういえば、昔あなたは大人が負うべき責任と義務について話してくれましたね」
そのどれもが青く光り輝いた日々で、
「あの時の私には理解できませんでしたが、今なら少しだけ、わかる気がします」
その青春と呼ぶべき1ページには、
「私は、大人であろうとした子供でした」
欠けてはならないものがある。
「それでも、言わせてください。大事なのは、こうあってほしいという思いです。思いは力となり、やがて世界を変える大きな希望となる」
それはきっと、
「あなたに、私の全てを捧げます。どうか、どうか彼女達を救ってください」
彼女達の笑顔だ。
「それがきっと……」
私は、彼女に何か声をかけようとして、結局何も言えなかった。
「――てください、起きてください」
「……?」
まず目に入ってきたのは艷やかな黒髪を流した少女、というにはいささか大人びた女の子だった。
年の頃は外見からは判別がつかないが、170に迫る長身と、それに見合う身体の発育を見るに、10代後半だろうことはわかった。
それから次に、頑丈そうな木製の机が映る。その上に置かれた高そうな調度品の数々。そして、私が座っている、やけに座り心地のよいソファ。
「ああ、だんだん思い出してきた……」
どうやら、夕日を眺めている間に居眠りをしてしまったようだ。
「長距離の移動でしたからね、疲れてしまったんでしょう。何度もお声がけしたのに、なかなか起きなかったんですよ?」
「そうだったんだ、ごめんね。ところで、私達って以前どこかで会ったことがあったっけ?」
言いながら、彼女の容貌が夢の中の少女と似ているのだということに気づいた。しかし、
「いえ、初対面のはずですけど……あ、ひょっとしたら、書類のどこかに私の顔写真が載っていたとかですかね?」
「ああ、いや、私の勘違いだったみたいだ。君があんまり美人だったから、ついついそんなことを言っちゃったよ」
「ふふ、なんです、それ? 新手のナンパですか?」
「実はそうかもしれない」
「ダメですよ、職員が学生に手を出すなんて。行政官だって、来て早々に査問会行きにはなりたくないでしょう?」
「あはは、それは勘弁願いたいね。ところで、行政官って?」
「ああ、説明が遅れました。っと、その前に、まずは自己紹介ですね」
そう言って、彼女は一枚の名刺を差し出してきた。名刺には、
『エピフィルム 連邦生徒会 生徒会長
「はじめまして、月金マリアです。名刺にあるように、連邦生徒会の生徒会長をしています」
「よろしく、私は――」
言いながら、私も名刺を取り出そうとしたのだが、どうにも出てこない。
「あれ? どこいっちゃったかな? 名刺名刺……」
「ふふ、大丈夫ですよ。
「そうだったね」
「僭越ですが、こちらの方で取り急ぎの名刺と、エピフィルムでの身分を証明するIDカードを作成しておきました。ここでは、IDカードを失くしてしまうと買い物も困難になるので失くさないようお願いしますね?」
「それは大変だ。気をつけるよ」
「ここの住民の多くは、首から下げるか、衣服にピンで留めています。それから、名刺についてはデザインが気に入らなければ後で作り直していただいて構いませんので。どうぞご査収ください」
「ありがとう」
受け取ったIDカードと名刺には、長方形の黒を背景に、一本の青いラインがデザインされたロゴが描かれていた。ロゴの隅に、小さく「独立行政組織レド」とも書いてある。
「これからあなたには、独立行政組織レドの行政官として働いていただきます」
「具体的にはどういうお仕事をすればいいのかな?」
「その前に、行政官の職場を紹介させてください。どうぞこちらに」
そう言って、マリアは私を部屋に2つある内の奥側のエレベーターへと案内した。
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