第14話 チルタ
骨休めして二日後。
またわざわざ迎えに来てくれた二人と一緒に鑓水ダンジョンに移動した。
「まずは、長壁さん。これを貸すよ。多分君なら使えるだろう」
「これは?」
「
長壁さんに手渡したのは複雑な装飾を施した柄の30センチほどの片刃の短刀だ。
俺の持っている4本目の武器だが。
「これは師匠と同じ武器ですか?こんないいものをお借りしていいんでしょうか?」
「まあ、いい得物をもつのが強くなる一番の早道だからな」
困ったような遠慮するような表情を浮かべつつ長壁さんが言うが、嬉しそうな雰囲気は隠せてないぞ。
なんだかんだで強い装備や能力は助けになる。それに頼りすぎるとダメだが。
ただ……武器に選んでもらえるかは別問題だ。
武器に宿る魂が使い手を選ぶとき、その強さ弱さとかはあまり関係が無い……らしい。
その基準で言うなら駆け出しのころの俺は天目に選んでもらえたはずはない。
別の基準があるようだが、その詳しいことは分からない。十分な経験を積んだ時であっても俺に従ってくれなかった武器も多い。
結局のところ、相性みたいなものなんだろうと思っている。
長壁さんもそれは分かってるんだろう。
緊張の面持ちで黒い革の鞘から短刀を抜くと、青い刀身が現れて周りが少し気温が下がった。
暫くの間があって、鉢巻を巻いて白地に複雑な文様を入れた民族衣装を着た短めの黒髪の18歳くらいの女の子が姿を現した。
久しぶりに会うな。
その子が鋭い目つきで俺を睨んで、それから長壁さんを一瞥する。
「あの……よろしくお願いします!」
頭を下げたまま長壁さんが手を差し出す。
横目で長壁さんを見たチルタが長壁さんの手に握手するように手を重ねた。
チルタが長壁さんに顔を寄せて何か言って長壁さんが言葉を返す。
何を言っているのかは聞こえなかった。
チルタが長壁さんの差し出した手にもう一度触れてそのまま姿が消えた。
「どうだった?」
「受け入れてくれたみたいです……」
長壁さんが言う……それは何よりだな。
「振ってみていいですか?」
「注意して振ってくれ」
長壁さんが頷いて、逆手に持った短刀を振りぬいた。同時に冷気が噴き出して白い斬撃が空中に弧を描く。
余波のように飛んだ氷の塊が壁を大きく穿った。
「これは……」
「相変わらずだな」
チルタと言う名前はなんでも粗削りくらいの意味らしい。
名前の通り強力だが、範囲攻撃になる上に威力が調整しにくいので、お蔵入りになっていた。
それに兎にも角にも言うことを聞いてくれない。
いざ戦闘になった時にイメージ通りに使えるかどうかわからないのは余りにも不安だ。
どういう経緯で彼女の魂が刀に宿ったのか知らないが……まあ俺と相性が悪かったのかもしれない。
ならなんで俺を選んでくれたのかは分からないが。
「あの……草ヶ部様。私には何かないのでしょうか?」
「貸してあげたいところだが……申し訳ないが蘭城さんには使えないだろ」
長壁さんの能力は普通の武器でダンジョンのモンスターを倒せるという能力だ。
俺の武器を従えるの言う能力もこの系統の属する。
「それはそうですけど……でも草ヶ部様から何か頂きたいです」
蘭城さんが不満気に言う。
蘭城さんの能力は剣と盾を作り出す能力。身体能力の強化と斬撃を遠くまで飛ばせるというなかなか便利な装備だ。
ただ、既にある武器を使う能力とは違うから、彼女にはチルタは使えない。
「ありがとうございます!師匠!」
いつも通り元気いっぱいな感じで長壁さんが言って、蘭城さんジト目で長壁さんを睨んだ。
「ところでこれは師匠は使わなかったんですか?」
「4本同時は流石に無理だった。あと少し使い勝手が悪いんだ。だから使いこなせなければ無理はするな」
「いえ!師匠からお借りしたものですから。必ず使いこなして見せます!チルちゃんも協力してくれるって言ってました」
長壁さんが言うが……チルちゃん呼びで良いのか。俺とは最初のコンタクト以外はほとんど話もしてくれなかったというのに。
一体何が違うんだ……まあ相性が良さそうなのはいいことだが。
「しばらくはそれを使いこなす練習をしてくれ。この階層ならモンスターも出てこないだろう。ある程度使いこなせたら実戦で試してみよう」
「はい、師匠!」
「で、蘭城さんは配信するなら俺が付き添うよ」
「ありがとうございます!」
◆
鑓水の5階層に降りた。
蘭城さんがドローンを飛ばして配信用らしきサングラスのようなヘッドセットを付ける。
「では、草ヶ部様。すこし自分で戦ってみますので」
「ああ、腕のほどを見せてくれ」
「はい!」
「俺は何かあったらフォローするってことでいいかい?」
「草ヶ部様に見守ってもらえるなら勇気百倍ですわ!」
蘭城さんが言って手をかざすと剣と盾が空中に浮かんで、蘭城さんの手に収まった。
鑓水のダンジョンのことは詳しくは知らないが、この階層ならさほど強力なモンスターは出てこないはずだ。
人も少ないし、練習にはちょうどいい。
鑓水のダンジョンはさほど深くはないらしいが、最下層まで下りたことはない。
というより、
俺たちにとってダンジョン攻略はあくまで仕事であって、余計なことをしている余裕はない。
「お久しぶりです、皆さん。前回の配信ではご心配をおかけしました」
剣と盾を持った蘭城さんがドローンに向かって話しかける。
「今日は無理せずに……」
蘭城さんが言ったところで地響きのような爆発音が上から響いてきた。
◆
続きは明日の朝と昼に3連投で更新します。
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