借金の形に深層でドラゴンと戦っていたブルーカラーのオッサン、何の因果かニンジャマスターと呼ばれ美少女配信者の師匠になってしまう~俺のチャンネルなんてものは無いが、他人のは定期的にバズっているらしい~
ユキミヤリンドウ/夏風ユキト
借金苦でダンジョンに潜っていたら
第1話 ブルーカラーのある日の戦い
唐突ですがひっそり書き溜めてた新作を投稿します。
書き溜めが尽きるまでは連投します。
◆
目の前にいるドラゴンが咆哮を上げた。
恐竜のような口が開いて並んだ牙がむき出しになる。洞窟のような巨大な口から炎が迸った。
ダンジョンの青黒い岩肌のような高い天井から地面を火炎放射器のような焔の帯が舐めて行く。薄暗いダンジョンの回廊が赤く照らされた。
だがドラゴン最大の隙はここだ。焔を吐いている間はほぼ完全に動きが止まる。
サイドに回り込んで野太い首に向けて長い野太刀、天都を振り下ろした。
風を纏った刃がドラゴンの首を切り落とす。噴き出してきた焔を風で逸らした。
ドラゴンの体が硬直して首が地面に転がる。
「熱い……地獄か」
ブレスの熱で体全身を覆う耐熱服の中はサウナのように熱い。
一息入れたいところだが、そうもいかない。
見ているとドラゴンの形が崩れていって後には赤い球体が残された。
レッドドラゴンのドロップアイテム、火竜の火種。
生命力の塊であり、強力な治癒薬となる。
ただ、死んでから1秒ごとにその力は弱っていく。急がなくては。
球体を保存箱に入れて背中に背負う。
今は八王子の32階層。今回はレッドドラゴンが見当たらなくて思ったより深くまで来てしまった。
戻るまで20分くらいか
「回収した。今から上がる」
メッセンジャーにボイスを吹き込んで全力で今来た道を駆け戻った。
◆
15階層で遠くから悲鳴のようなものが聞こえた。モンスターの声かと思ったが、女の声だ。
インフルエンサーとか配信者とかいう連中がダンジョンに入っているのは知ってるが、お遊びで配信するには深すぎるし、俺の同業が苦戦するには浅すぎる。
腕時計を見る。13分12秒経過。
少しは余裕があるか。
深層の黒に近い青とはちがって深緑に近い青色の通路を走って声の方をたどると、女が一人地面に倒れ伏していた。
弓道を思わせる白黒の袴姿の女だ。傍らには得物っぽい剣と盾が転がっている。
あんな格好の同業はいないな。
その子の後ろには配信者が使っている撮影用ドローン。
その前にはソードフィッシュ。空中を飛び回る魚のようなモンスターだ。
鋭い牙と強烈な体当たり、鎧のような鱗を持ちそれなりに手ごわい。
あくまでそれなりに、だが。
ソードフィッシュが牙をむきだして女にとびかかろうとするが。
「行け、小鴉丸」
『主殿、承りましたー!行ってきまーす!』
腰に挿した小太刀を抜いて投げた。
いつも通り元気な声を残して小太刀が空中を飛ぶ。そのまままっすぐソードフィッシュに突き刺さった。
血が飛び散って女が悲鳴を上げる。
「
『痴れ者め……急に鞘から抜くでない、眩しいじゃろうが。しかも……なんじゃ、まだ働かせる気か』
けだるげな声が頭に響いたが無視する。
赤い刀身の両刃の剣を抜いて踏み込む勢いのままにソードフィッシュを切りつけた。
傷口から火が噴き出して魚を包み込む。
火に包まれた体が地面に落ちてそのまま焼け焦げて動かなくなった。。
肉が焼ける嫌な臭いがフード越しに鼻を衝く。片付いたか。
小鴉丸を拾って鞘に戻して、しりもちをついている女を引き起こした。
「大丈夫か?」
「あの……はい」
「さっさと帰れ。帰り道は片づけておいてやる」
配信者だかインフルエンサーだか何だか知らんが、ソードフィッシュに殺されかけるような奴が居ていい場所じゃない、という言葉は飲み込む。
走りだそうとしたときに袖を捕まれた。
「あの……お名前は」
その女が袖をつかんだまま言う。
こんなことをしている間にも時間は過ぎ、火竜の火種の価値は落ちる。
「お名前を!どうか!」
振りほどこうとしたが、袖を握ったまま強い口調でその女が繰り返した。
「
その女が手を離した。2分ロスした。
余計なことをしてしまった。遅れを取り戻さなくては。
◆
「遅い!」
ダンジョンを登り切って外に出たところで怒鳴り声が飛んできた。
夜の闇に白い車のヘッドライトが眩しい。
「1秒遅れたらその分それで助けられる人間が減るんだぞ、バカが。それに俺の評判に傷がつく。なぜ遅れた」
俺より若い25歳。
高級そうなスーツと靴と整った顔でいかにもエリートビジネスマンって感じだ。アカデミアなる会社のCEOでもある。
後ろには黒塗りの高級SUV。そして相変わらずの高圧的な口調だ。
「あと2分は短くできただろうに、一体何をしていた。ダンジョン内にカフェでもあってのんびりお茶でもしていたのか?」
「そんなこと話してる時間も無駄だろ」
そういうと小津枝が舌打ちして箱を受け取りもう一人に渡す。
それから汚れたものでも触ったように手をハンカチで葺いた。
「遅れたペナルティだ。今回の報酬は50%カットする」
「おい……ちょっと待て」
「なんだ?文句があるのか?」
小津枝が念を押すように言った
……言い返そうと思ったが状況が悪くなるだけだ。不満の言葉を辛うじて飲み込む。
「金はいつも通り払っておく。ご苦労」
そう言って小津枝が黒塗りの高級車の方に歩き去っていった。
エンジン音を立てて車が走り去っていって、ダンジョンの入り口の前に一人取り残された。
50%カットか……あんなことやるんじゃなかった。
それに、薄汚れたものを拭うような仕草を思い出す……汚れ仕事なのは分かっているが、ああいう風にやられるのは傷つくな。
◆
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