傍観者-プレイヤー-

YoShiKa

■ひとつめ はじまり■

1.傍観者

「お前が決めろ。


 目深まで被っていたフードを無造作に脱いだその人は、私に向かってゆっくりとそう問いかけた。


「お前が決めろ」


 それは単純な二択だった。

 だけど、だからこそ選びにくい。

 挙句、続けざまに急かされて、少し焦ってしまう。

 口振りは静かだが、低い声は苛立ちを含んでいるようにも感じられた。


「――オイ。……戦うのか、戦わないのか。どっちだッ!」


 今度は少し語気を荒げられてしまって、私は慌てて答えた。


「た、戦ってください!」


 剣を構えたフードの青年は私に背を向けた。そして、青年が構えた剣の先が相手に──私をここまで案内してくれた仮面の人へと向けられる。


 あ、と思ったときにはもう遅かった。


 たったひと瞬きのこと。

 斜めに振り下ろされた直後には、赤色が視界に舞った。





 ◆ ◆ ◆




 そのフリーゲームには、バッドエンドしかない――らしい。


 攻略サイトをいくつか覗いてみたが、"いくつかのバッドエンドが見つかっている"という情報しか手に入らなかった。

 バッドエンドしか、ない。それが気になった。


 私は基本的には飽き性で、あまりゲームにもどっぷりハマるというタイプではない。だから、いわばニワカだ。浅く浅くのタイプ。

 勉強や部活も、中の中で十分。定期テストだって平均点前後にいれば、それで良かった。何なら、先生にさえ目をつけられなかったら、それでいいかなって生き方だ。

 人生、可もなく不可もなく。それでいい気がしてる。大学は、さすがにお金の掛かり方が違うから、少しは考えて選んだけど。かといって今はフリーターをしている。新卒カードは見事に無駄撃ちしてしまった。


 とにかく、フリーゲームはお金もかからない。

 クリアできなかったとしても、それはそれ。別に悔しくもないし、もったいないわけでもない。

 お金を払ってゲットしたゲームでも、積みゲーの糧にしちゃうせいだけど。

 今はどれくらいあるんだろう、あとで数えてみようかな。いや、面倒だな。


 とにかく――軽い気持ちだった。


 少なくとも、本気でバッドエンド以外を見つけてやろうとか、攻略を進めてやろうとか。ましてや、クリアしてやろうなんて気はなかった。


 バッドエンドだったとしても、攻略サイトにないバージョンでも見つけたらラッキーかな?くらいの、その程度の、軽い気持ちだ。

 そう、すごく軽い気持ちでゲームを起動した。



 「――ようこそ、傍観者プレイヤー」



 声がした。スピーカーから――ではない。

 しかし、背後を振り返っても、カーテンが引かれたままの窓と何の変哲もない壁があるだけだ。

 視線を戻してみるものの、画面にはタイトルすら出ていない。まさか、操作の方法も出ないのか。どんな不親切設計だ。


 そんなことを考えていると、先ほど声で聞いた文言が画面に白文字でゆっくりと表示された。


 ――傍観者 -プレイヤー-



 傍観者と書いて、プレイヤー。見ているだけならプレイヤーでも何でもないと思うけど。変なタイトルだなと思ってカーソルを動かしたが、何も反応しなかった。どのキーを押しても、特にこれといって動きはない。

 一向に進む気配がない黒い画面を前に、クソゲー以前の問題じゃないかとイラついてしまう。


 そのときだった。



「――ようこそ。何か聞きたいことはあるかい?」



 今度は、はっきりと真後ろから声が聞こえた。

 椅子から立ち上がって振り返ったときには、窓どころか壁さえない。

 少し冷たい風が頬をなぞって通り抜け、髪を揺らしてくる。


「え……?」


 自分の部屋にいたはずの私は、全く知らない場所に立っていた。

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