第一話:新学期
「わー、やったぁ! 見て見て!」
高校三年生、最後のクラス替え。
学校の昇降口から入ってすぐのただ広い壁に貼り出されたクラス表を見て、周りは一喜一憂している中、わたしの親友も例外なく盛り上がっていた。
「ほらつみきちゃん! あれ見てよ!」
さっきから、そう興奮気味にわたしの腕を引っ張るのは、わたしの親友の、ののかだ。わたしはののかに急かされるがままに、クラス表へ視線をやると、三年H組の欄にはわたしの名前『
「わたしたちまたまた同じクラス! これはもう、運命だよね!」
「運命だなんて大袈裟な…」
まあたしかに、わたしたち二人は幼稚園からの幼なじみだが、一度もクラスが別々になったことはない。
――ずっと同じ、いっしょだった。
「……あらあら。また同じなんですねぇ、お二人さんは」
背後からそんな間の抜けた声がし、振り返れば、そこには
「はぁ〜、いいですねぇ。わたしも先輩たちと同じ学年だったら、同じクラスになるチャンスがありましたのに〜」
「……お前はいつもわたしらのところへ来るが、ちゃんと同学年に友だちはいるのか?」
「なぁんですか! その憐れみの目は! 仲良くさせていただいてる方は、ちゃんといますよ! ちゃんと! アタシは先輩たちに対する挨拶を怠らない、優等生なんですっ!」
頬をふくらませて主張するみかを適当にあしらっていると、予鈴のチャイムが校内に鳴り響いた。
はしゃいでいた生徒たちは、各々割り振られた新しいクラスの教室へと移動しはじめる。
「そろそろ行かなきゃだね」と、ののかが言い、わたしたちも新しい教室へと向かうことに。
「放課後、先輩たちの教室行きますから。いっしょに帰りましょうねー!」
手を振るみかに、わたしたちも笑顔で振り返した。
新しいクラスでは、ちらほらと新しい顔が見えた。
挨拶の前に、まずは自分の席探しだ。黒板には、すでに席順が書かれている。どうやら廊下側から、苗字の五十音順で席が割り振られているようだった。わたしたちは、それに従い、席を探す。
「わたし、つみきちゃんの後ろだねっ」
ののかは一番窓側の、一番後ろの席に着きながら言う。わたしは「そうね」と返しながら、ののかの前の席に着いた。
「ののかと席か近いのは、何気に初めてかな」
「そうだね。だいたい、わたしたちの間に誰かいたもんね」
わたしは単純に、こんな近くの席になれたことがうれしかった。
「あー。でも、わたしが後ろの席だったら、居眠りするののかを起こせたのに」
「ううっ、居眠りなんかしないよ〜! 今年から真面目に授業受けるんだから!」
「――今まで真面目じゃなかったんだ?」
最後にそう言ったのはわたしではない――わたしたちは、当たり前のように会話に入ってきた奴へ視線を動かした。
見れば、一人の男子生徒が笑みを浮かべて立っていた。
「あぁごめんね。俺、
そう言って、沼倉はののかの隣りの席へ座った。
「これからよろしく。ええと……」
おそらく、沼倉は名前を呼ぼうとしてわからず、戸惑っているのだろう。わたしたちは顔を見合わせて、一度頷いてから、
「わたし、花森つみき」
「わたしはね、松澤ののか!」
と自己紹介して、それから三人で、「よろしく」と言い合った。そんなタイミングで先生が教室へやってきたので、わたしたちは慌てて前を向いた。
新学期は担任の先生とクラスメイトが変わったくらいで、特に何事もなく時間が過ぎていった。
放課後になり、ののかと廊下へ出ると、仁王立ちでみかが待ち構えていた。
結構先生の話も短かったし、ほかのクラスと比べて、ホームルームの終わりは早かったほうだとは思うのだけれど、それでも、もうすでにみかはいた。
「……さすがに早すぎないか?」
「ダッシュで階段駆け上がってきましたからね!」
よく見れば、みかの顔はどこか疲れきっていて、肩で息をしている状態だった。
……本当に、ほかに友達はいるのだろうか。
「みかちゃん、いっしょに帰ろっか〜。……あ、そうそう」
ののかはわたしたちに一度背を向け、
「沼倉くん、ばいばーい」
と、手を振って戻ってきた。わたしも軽く、彼に手を振っておいた。
それから、わたしたちはいつものように三人仲良く、帰り道をゆくのだった。
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