開拓島〜最強の不老不死になって、誰の指図も受けずに自由に生きます!〜

@Riiiisa816

第1話 残業と夜カフェ

20XX年12月24日(金)、日本。時刻は20時を回ろうとしていた。


街では家族、恋人、友人などとイルミネーションや少し贅沢なディナーを楽しんだりと、いつもよりも煌びやかで幸せそうな雰囲気だ。

そう、クリスマスイブである。


そんな世間の楽し気な様子とは裏腹に、鮫島あすかは残業をしていた。


「あぁぁぁ、今日こそ定時で上がろうって思ってたのにぃ…。だいたい、なんで私がこの仕事をしてるのよ!

河合さんの仕事でしょうが!終わらせられないなら最初から引き受けるんじゃないわよ!!」


オフィスに誰もいないことをいい事に文句を言いまくる。


「はぁ、ほんっと嫌になる。はっきりと断れない私もダメなんだけどさぁ…。うぅ、生きるの下手すぎる。自覚ありすぎる」


鮫島あすか(28)は昔から人に頼まれたり命令されると、快諾もしないが、はっきりと拒否もしないので、なんとなく強引にまるめこまれて、いつも貧乏くじを引くような人生を送ってきている。

人目を気にしすぎているというか、事なかれ主義というか…。

しかも割と仕事が出来るせいで、結局上手くこなしてしまうのだ。


ただ、ひとつはっきりと言えるのは、この女、決して人が良いわけではない。

快く引き受けているわけではなく、ほんとーに、嫌々、心の中では思う存分に相手へ文句を言いながら面倒事を引き受け(させられ)ているのである。



そんな彼女の性格を、会社の人間だって数年も共に働けばしっかりと気付いているわけで……


彼女と同じ部署の後輩で入社3年目の河合沙織という女性社員がいる。

彼女はいわゆるこの会社のアイドル的存在で、同期の男性社員28歳(ちなみに元カレ)によると

『顔よし、性格よし、気遣いも出来て上司からも気に入られている』

だそうだ。

ちなみに元カレと別れたのは、河合さんが入社してからというもの、隙あらばの彼女を褒めちぎり、私と比較しては小ばかにし始めたので

「あ、こいつの本性これか。」

と早めに気づき、ソッコーで別れた。そこだけは河合さんに感謝している。


さて、話がそれてしまったが、今日の残業はこの河合さんが、自ら手を挙げて受けた課長からの急ぎの仕事を全くもって定時までに仕上げられなかった事が原因である。

しかも定時10分前になって、急にそれを騒ぎ出したのだ。

しかし、今日はクリスマスイブ。みんな何かしら予定を入れている人が多く、そうでなくても、他人の尻拭いでイブに残業なんてまっぴらごめんだろう。


そこで周りの手助けを期待できない空気を感じた河合さんは、自分を気に入っているであろう課長に泣きついた。

いわく、急いでいた課長のために自ら仕事を請け負い、頑張ったが終わらなかった。今日はクリスマスイブで女友達と予定がある。久しぶりに会う親友なので、どうしても行きたい…などなど、可愛い顔でお目目うるうるさせながら上司の同情を引きまくった。


デートではなく、女友達との約束とわざわざ明言するあたりに、小賢しさを感じるのはこちらの心が汚れているからだろうか…


と、まぁそうなると一番に目をつけられるのはもちろん私である。


一応、コンプライアンスの厳しい世の中だ。

「鮫島君、今日はこの後なにか大事な予定はあったりするのかな?」

などと、それとなく「大事な」の部分を強調されながら声をかけられ

「いやぁ、まぁ、そのぉ」

などと言っている間にいつのまにか仕事を押し付けられて現在に至る。

一応、河合さんからは帰り際にお目目うるうる謝罪をされたが、心の中で毒づいておいた。



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「お、終わったぁー」


なんとか引き継いだ仕事を終わらせ、これでやっと帰れると会社を出た。

時刻は21時。


会社を出て最寄り駅までのいつもの道なのだが、なんとなく街の雰囲気や綺麗なイルミネーションに引っ張られ、残業でささくれ立っていた心が少し癒される。

ふと思い立って、一駅分歩きたくなり街路樹のささやかなイルミネーションを楽しみながらのんびりと帰ることにした。


「まだ営業中のケーキ屋さんないかなー?あったら、せっかくだし買って帰りたいな」


なんて思いながら歩いていると、脇道の方にある看板がふと目に入った。

【夜カフェ XXXXXXXX 営業中】

店名の部分が知らない言語で書いてあるようで読めない。が、何故か惹かれた。


「夜カフェってことは多分ケーキ系も置いてそうだよね。こんな所にお店あったんだぁ」


と言いながら、外観も可愛くて雰囲気も良さげなお店の扉を迷うことなく開けた。


すると一瞬だけ、眩暈のようななんとも不思議な感覚に包まれたような気がして辺りを見回すが、そこはおそらく今自身で入ってきたであろうカフェの中だった。

気のせいだったのだろうか?と入り口付近で立ち止まっていると


「いらっしゃい」

と、声をかけられた。


そこにいたのは、この世のものとは思えないほど美しい女性…いや長髪の男性?がカウンターに腰かけていた。

私はあまりの美しさに一瞬息をするのも忘れて、思わず見とれてしまっていた。


おそらくこのカフェの店主なのであろうその人は私の様子にくすりと笑い再度声をかけてくれた。


「いらっしゃいお嬢さん。さぁカウンター席にどうぞ」


私は、はっとして

「す、すみません。不躾に見つめてしまって…あの、あまりにも綺麗な方だったのでビックリしてしまって…」


「そう?ありがとう」とまたくすりと笑った。


マイペースそうな人だなぁなんて思いながら、案内されたカウンター席へと座った。

店内はこじんまりとしていて、とても居心地がいい。というかなんか空気がいい気がする。

ちなみにお客さんは私だけのようだ。

こんな綺麗な人が経営してるカフェなんて瞬く間にSNSなどで話題になりそうなのになと不思議に思っていると


「はい、これメニューね。分からないことがあれば遠慮なく聞いてね」


と、何やら1センチほどもありそうな本の様なものを渡された。


(えっと、メニュー分厚くない...?)

と思ったが表紙にあたる部分に確かにメニューと書いてあり、その下に看板にも書いてあったのと似たような見慣れない文字が書いてあった。


メニューの分厚さにちょっと違和感を覚えながらも、そっと開き、そこに書いてある文字を見て私は固まった。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

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 ・お好きなケーキ1つ

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なお、本日に限りクリスマスプレゼントとして

願ったタイミングで不老不死になれる特典付き☆

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・

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