第四話「新品ドレスと前世の話」
「ティーナっ」
学生寮にて、私はティーナもといエリナの部屋をノックする。
少しして扉が開かれた。
「はーい!……って、なんだアンタか」
訪問者が私とわかって明らかに不機嫌な彼女。これは殿方を待ってた感じかな。
「わざわざ休日に何の用よ」
「はいこれ、できたよ。おまちかねのドレス」
そう言って箱を差し出た瞬間、彼女の目つきが変わった。
「早く寄越しなさいよ!」
彼女はそれを奪い取るとそのまま扉を閉めてしまった。
やっぱりそうだよね……
一人溜め息をつく。私は一体何を期待していたんだろうか。
諦めて帰ろうとした瞬間再び扉が開かれる。
「えっ?」
驚く私にエリナは言った。
「どうせ暇でしょ?寄っていきなさいよ」
「いいの?」
その言葉に彼女は僅かに目を泳がせた。もしかすると後先考えずに誘ったのかもしれない。
「あーほら、着てみてサイズが合わなかったら困るじゃない」
「……それもそっか」
エリナの要望で念入りにサイズ合わせをしたからそれは本来あり得ない。けれども私は彼女が見つけ出した口実に敢えて乗ることにした。
だって、こうなるのは少しだけ私が望んでいたことだから。
「お邪魔しまーす」
彼女の部屋は一人なのにも関わらず、意外にもきちんと整えられていた。周囲に悪印象を与えないためだろうと邪推してみる。けれどもよくよく考えれば自分のありのままより他人からの印象を大切にしているということだ。自室なのに窮屈に感じてはいないだろうかとむしろ心配になった。
そう思ったのも束の間、よくよく見るとベッドに妙な膨らみがある。予期せぬ来客になにかを慌てて隠したのかもしれない。一瞬好奇心から捲ってみようという考えが浮かんだがやめておいた。
「うん、なんか安心した」
「なんでよ!?」
「いやね、エリナからしたら突然周りの環境が変わったわけじゃない?だから本心では窮屈してるんじゃないかと思って」
「そんなことないわよ。毎日イケメンと喋れて楽しいし」
「それなら良かった」
「……それに、素直になれる相手もいるから」
「えっ誰!?」
「アンタなんかに教えるわけないじゃない」
「ですよねー……」
わかってたけどちょっと寂しい。
「……コレ、着てみるわね。後ろ向いて。絶対振り返らないでよ」
「はーい」
エリナに呼ばれるのを待つ間、私は自分の前世を振り返ってみた。
出来損ないで親に叱られてばかりだった幼少期。友人だと思っていた人達に実は遊ばれていた小中学生時代。部活の後輩に舐められていた高校時代。思い返すのは嫌なことばかり。それでも私は希望を信じて生きてきた。だけど――
「ユイカ?ユイカ!」
エリナの声で我に返る。
「んっ、なに?」
振り返って尋ねると、彼女は怪訝そうな顔をしていた。
「アンタなに考えてたの」
「その、私の前世について」
「……そういえば前世の話、したことなかったわね」
エリナはドレス姿のままベッドに腰掛けると、私に視線を向けた。
「でも、どうせアンタはアタシの前世、言わなくても知ってるんでしょ?」
「うん……私の前世、話した方がいい?」
「要らない、興味ない」
即答だった。返しとしては残酷だけれど、私とってはありがたい言葉だった。
「前世は前世、今は今。せっかく転生したんだからこの世界を楽しむべきよ」
「そうだね……」
「そんなことより、どう?似合ってるでしょ?」
エリナは立ち上がり、その場で一回転して見せた。リボンとレースがたくさんあしらわれたバラのように華やかな紅色のドレス。
私は何も言わない代わりに親指を立てて見せた。
グッドサイン。エリナは鼻息を荒くして言う。
「でしょ!アタシったら何着ても似合うんだから!!」
楽しそうな彼女に心の声で呼び掛ける。
エリナ、私はただ、あなたを救いたい。たとえ恩を仇で返されても構わないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます