第三話「好きになれない理由」

「どうしてリリア様のことを嫌うの?」

 リリアと別れた後、私はエリナに尋ねた。

「嫌うに決まってるじゃない。原作改変するアンチだし。最低よ」

「私だって、原作ファンからすればアンチだよ?」

「……なんですって?」

「だって原作の話と内容変えようとしてるもん」

 そう言うとエリナは黙ってしまった。けれどもすぐに言葉を紡ぎ出す。

「……でも、ユイカはアタシのために物語を変えようとしてくれてるんでしょ?それなら――」

「推しを幸せにするために、そしてみんなにも幸せになって貰うために原作のストーリーを改変してまで奔走してるリリア様と何が違うの?」

「それは……」

「リリア様の中にいる子は、偽善者じゃなくて本当に優しい子なんだよ。だから――」

「やめて!」

 エリナが叫ぶ。

「……嫌なのよ。アイツを見てると自分が惨めでしょうがなくなるの」

「そっか。その気持ちはわかるよ」

 私だってそうだから。純粋だった心を周囲の悪意によって汚されて生きてきた。だから身近に心が清らかな人がいると嫉妬で腹が立ってしまう。

「ああいうタイプ、羨ましくて、妬ましくて、大っ嫌い」

「綺麗な面ばかり見せられていると、嫌になっちゃうよね」

「そうなの。でも周りはアタシの気持ちをちっともわかってくれないのよ」

「みんなだって良い面悪い面持ってるのにね」

 表に出さないだけで悪意を持っている人は結構いるはずだ。その癖自身は悪意の無い人間を好む傾向にある。なんて自分勝手な話だろう。

「……これだけは言える。課金アイテムを使う前からアンタがアタシに味方してくれたのは嬉しかった。男だったら恋人候補に入れてあげてた位よ」

「ごめんね~女で」

「その言い方ムカつく」

「……ごめんなさい」

「アンタだから許すわ」

 私じゃなかったら許さないんだね。

 その言葉は呑み込んでおいた。

「そうだ、今度王宮で開催される夜会で着るドレスは決まってる?」

「決まってなかったらなんだって言うのよ。そもそも庶民だから持ってないし」

「じゃあ私の家に来る?良ければ一着貸すよ」

「嫌よ。着るなら新品が良いわ」

 我が儘な部分は健在だ。それならばと提案する。

「じゃあ仕立てて貰おうか。私の分の代わりに」

「それを先に言いなさいよ!ちょうど気になってるデザインがあったのよね!!」

 すっかり新しいドレスが手に入るつもりでいる。我が儘だけど年相応でちょっと可愛い。

 微笑みを浮かべていると、エリナは眉をひそめた。

「なによそんなニヤニヤして、気色悪い」

「いやぁ、可愛いなって」

「アンタに言われても嬉しくないわよ!」

 その言葉とは裏腹に口許は緩んでいる。やはり相手に関係なく褒められるのは嬉しいようだ。

「おや、カルロ嬢とティーナ嬢。怪我は大丈夫なのかい?」

 ガリブラム伯爵子息が話しかけてきた。彼は私達の一つ先輩になる。

 私は笑顔で答えた。

「はい。ティーナさんが魔法で治してくれたお陰です」

「やめてくださいカルロ様。大したことじゃありませんから……」

 リリアに対するのとは打って変わって、ティーナは謙遜する。エリナは謙遜する演技も完璧だ。この子絶対女優向きだと思う。後々劇団員とか推薦しようかな。まぁ、今の性格じゃすぐ追い出されそうだけど。

「ところでなんの話をしていたのかな?」

「夜会のドレスについてです!アルバー様はどのようなものが好みですか!?」

 エリナは男性相手となると積極的になる。何人もの男性に囲まれる一人の女性、いわゆる逆ハーレムを目指しているのは原作小説で把握済だ。

 ついでに言ってしまうとガリブラム伯爵子息を含む攻略対象達は課金アイテムの効果で好意を植え付けられているだけで本心はティーナに対して恋愛感情を一切持っていないことも知っている。

 いつかは言わないといけない日が来るのだろうが、今は黙っておいてあげよう。ガリブラム伯爵子息達のプライドだってあるし。

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