90. 必勝法を見つけた
「では、二回目の挑戦です!」
あれほどの大惨事をまるでなかったことのように、ニコニコ笑顔でゲーム再開を通告する西原さん。やっぱり、この人、まともじゃないぞ。まあ、このゲームの関係者だと思えば、非常に納得できるが。
サンドワームに飲まれたところで、ステージがリセットされたのか、大火災のあとはすでにない。ムカデも大人しくケースに収まっている状態のようだ。
「最初のオーダーは……またもムカデの素揚げです!」
まぁ、どの道、ヤツらとの戦いは避けられないようだが。
「お兄さん、しっかりしてよね! ホントに頼むよ! アレに関しては撮れ高とかどうでもいいから!」
まさかウェルンの口から、撮れ高を軽んじる発言が出るとは。本当に追い詰められているらしい。
だが、しっかりしろと言われてもな。あれは俺の不手際とかの問題ではないだろ。なんで、サソリが動き出す可能性を残した!
何の策もなくケースを開ければ、さっきの二の舞になるのは必定。西原さんは、レアイベントとか言っていたが、そんな言葉に騙されたりはしないぞ。
素早く蓋を開け、一匹を引っ掴んで即座に閉める。案の定、ケースの中ではサソリたちが蠢いていたが、今回は逃げ出す隙を与えなかった。
「ええい、暴れるな!」
「なかなかいきのいいサソリですね! やはり麻痺が解けているようです!」
引っ掴んだソイツも、当然のように動いている。まあ、それも折り込み済みだ。わかっていれば驚きはない。そのまま油の煮えたぎった鍋にぶち込む!
高温の油に焼かれたサソリはすぐに大人しく……ならない!?
「おっとぉ! 素材のサソリが油に耐えました! どうやら炎耐性のある特殊個体だったようです!」
「なんで料理の素材にそんなヤツ混ぜた!?」
「このように、いろいろなハプニングが起こるのが、ヴォーパルクックの魅力なんですよ~」
いや、そこを誇っちゃ駄目だろ!
どう考えても売れない原因にしかなってないぞ!
鍋からサソリが跳ね飛んだ。俺を敵と見なしたのか、ハサミを振り回して威嚇してくる。まるでRPGみたいなことになってるんだが。これ、調理ゲームじゃなかったのか。
「砂漠サソリの毒は強力ですよ~。尻尾の毒針で刺されると、コックが食材に早変わりです! ショウさんは、武器なしでどこまで立ち向かえるのか!」
やっぱり刺されたら死ぬのかよ!
いやまあ、絶対そうだと思ってたけどな!
ここまでカオスなゲームなら遠慮はいらんだろ。食らえ、俺の必殺チョップ!
「なんと! 手刀でサソリを真っ二つです! さらに、追い打ちをかける!」
一撃で手を止めるのは素人のやることだ。しっかり叩き潰して、確実に息の根を止める。なんか、ミンチみたいになったが、これは必要なことだ。
元サソリを団子状にして再び油の中へ。さすがにこの状態で動き出すことはなく、数秒後にはからっと揚がったサソリ団子ができあがった。
それを皿に乗せ、納品ボックスに入れればオーダー完了……のはずが、まさかの受け取り拒否。キッチンにブザー音が響き、納品したはずの料理が突き返された。
「なんで!?」
「オーダーは素揚げでしたから、団子は注文外なんですね~。そこはしっかり判定しますよ、ペロリン様はグルメなので」
「腹に入れば同じだろうが!?」
「料理を作るゲームで身も蓋もないこと言わないでくださいね~」
西原さんの言ってることは正論なんだろうが、このゲームで言われるとイラッとするな。だったら、サソリに変な小細工をするなよと言いたい。
え、これ、作り直さないと駄目なのか?
火に強い特殊個体とか言っていたが、俺が引っ掴んだサソリは全部そうなりそうな予感がする。となると、念入りに潰さなくてはならないので結局団子に……最初から詰んでないか!?
ええい、付き合ってられるか!
「選り好みするんじゃない! 好き嫌いすると大きくなれないぞ!」
俺は突き返されたサソリ団子を引っ掴んで、駆け出す。向かう先はもちろん、サンドワームの部隊長だ。
「どこに行くんですか、ショウさん! キッチンからは出られ……出られた!?」
ここに来てようやく、西原さんが慌てたような声を上げる。どうやら、キッチンの外に飛び出すことはできない仕様だったらしい。でも、できた。できたので、仕方がない。
「ギャロゥゥウウウ!」
怒ったペロリン様が俺を飲み込もうと、大口を開いて迫ってくる。なんという好機。さあ、召し上がれ!
「ほら! サソリ団子一丁!」
皿を投げつけつつ回避。見事にオーダー完了だ。
とはいえ、これはまだ一品目。ステージクリアのためには、まだまだ納品が必要だ。
「ウェルン、適当な料理を作って投げてくれ! いや、別に素材のままでいいか。そこのサボテンでいい!」
「了解!」
虫嫌いのウェルンも、さっさと終わらせたいのか協力的だ。サボテンステーキ用と思われる輪切りのサボテンをブーメランのように投げてくる。俺はそれをキャッチし、タイミングを見て、ペロリン様の口に投げ込む。あとは、その繰り返しだ。
食欲は無限でも、胃の容量は有限。ついにはペロリン様も倒れ、ステージクリアとなった。
「ウェルン。俺はこのゲームの必勝法を見つけてしまったかもしれん」
「お兄さんにしかできない気もするけど……でも、そうだね! やれるところまでやってみよう!」
こうして、俺たちは“腹に入ればみな同じ”作戦を決行。次々にステージをクリア。RTAもかくやという快進撃で、ついには美食の魔王を討伐することに成功したのだった。
そういや、これ案件動画だっけ……?
ま、まぁ、動画の調整は制作会社がやってくれるだろう。最後は西原さんもノリノリだったしな。ともかく、俺たちは悪くない。このゲームをやったことがある人なら、そう思ってくれるはずだ。
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