究極のデジタル音痴は今日も不本意ながらゲームを壊す
小龍ろん
Legend of Arcadia - Odyssey
1. 何もしてないのに壊れるのは体質のせい
みなさんはこのフレーズをご存じだろうか。
『何もしていないのに壊れた』
どこかで聞いたことがあるかもしれない。そう、機械音痴な人間が最新機器を扱ったときに頻出する言葉である。
多くの場合、本当に何もしていないことは稀だ。原因あっての結果である。
例えば、機器をアップデートしている最中に無理やり電源を切ったりだとか。本来想定していないパーツを無理矢理突っ込んだとか。往々にして、そういう人は何かやらかしている。
だが、あえて言おう。
俺は本当に何もしてない! 何もしてないのに勝手に壊れるんだ!
いや、本当だ。本当なんだ。
俺がそう主張すると、多くの人は何か原因があるはずだと言う。それはおそらく正しい。いや、俺が何かやらかしたという意味ではないぞ。原因があるのだとすれば、それは俺の“体質”にある。
うちの家系では時々、機械類との相性が極めて悪いという体質の人間が現れるらしい。例えば、俺の爺さんもなんかがそうだ。で、そんな家系でも類を見ないほど機械類と相性が悪いのが俺らしい。
実を言えば、単純な機械はわりと平気だ。爺さんはよく時計を壊すが、俺は別にそんなことはない。が、高度な電子機械になると駄目だ。俺が使うと、途端にポンコツになるのは何故なのか。
現代において、この体質はかなり厄介だ。生活を支える様々な家電製品がまともに動作しなくなるんだからな。幸いなことに、まったく動かないってことはないんだが……猫みたいに気まぐれになって、あまり当てにできない。
困るのがゲーム。特にオンラインで他のユーザーと繋がるタイプのゲームは鬼門だ。
かつて、こんなことがあった。
「
「うん!」
少年時代の俺は、仲の良い友人から『
それ以前にも仮想世界で自由に動き回れるという触れ込みのソフトウェアはあるにはあった。だが、全身をすっぽりと覆うような大型のデバイスが必要で、いまいち普及しなかったようだ。
しかし、アルサーの入力端末はシンプルなヘッドギアタイプだ。従来とは比較にならないほどの小型化に成功した結果、省スペースだけでなくコストカットにも成功したらしい。結果、仮想世界に興味はあるもののデバイスの価格に尻込みしていたユーザーを取り込み、空前の大ヒットとなった。
当時は大人も子供も大勢の人間がアルサーに夢中だった。その頃はまだ、自分の体質についてあまり自覚がなかったので、特に何も考えず誘いを受けてしまったのだ。それが悲劇の始まりだった。
「おお、すっげぇ! ここがアルカディア……俺たちが冒険する世界なんだ!」
「あはは、綺麗だね!」
ゲームにログインした俺たちは、舞い降りた世界に目を輝かせた。今と比べるとグラフィックもそこまでではなかったはずだが、それでも感動したものだ。見て、触って、歩き回れる。まるで異世界を訪れたかのような感覚だった。とてもワクワクしたことを覚えている。
だが、楽しかったのはそこまでだった。
「あれ? お前の装備、おかしくない? 何か凄く強そう」
「え、そうなの?」
まず、初期武器からしておかしかった。その名も“全てを破壊する最凶の魔剣”だ。レベルによる装備制限があるはずなのに、何故か俺はレベル1で装備できた。
不思議な現象はそれだけにとどまらない。次の異変は最初のモンスターを倒したときに起きた。倒したら消滅するはずのモンスターがぶるぶる震えながら、何事か叫びはじめたのだ。
「うぐぐぐ……どうやって、私がこのエリアの支配者だと見破ったのだ! こ、こんなはずでは……」
どうやら正体を隠したエリアボスだったらしい。本来は特殊な条件を満たすことで、エリアボスの正体を暴くのだとか。その上で、真の姿を現したボスを倒さなければならないらしい。後々語られた制作秘話でそんなことを聞いた。だが、何故か倒せたのだ。当然、特に何もしていない。
一番ひどかったのは、初めての大規模イベントに参加したときのこと。プレイヤーたちはとある王国の助っ人として魔物の軍団と戦うというシナリオだった。だが、その途中で先頭に立って戦っていた姫騎士が亡くなるというイベントが発生する。このイベントは避けることは出来ない。つまり、姫騎士の死は覆せない……はずだった。
「ごめん……なさい。私は……ここまで……」
「くっ……姫! 姫ぇ!」
敵の凶刃に倒れる姫。運命を嘆く伴の騎士。ゲームに不慣れだった俺は思った。何故、回復薬を使わないんだろうと。
「回復薬ありますよ」
「おい、やめとけって。こういうイベントだと、回復とかはできないんだよ」
「え、そうなの? でも……」
俺が使った回復薬は、何故か死の淵にあった姫騎士の傷を癒やしてしまった。
「……あ、あれ。私は……生きてる?」
「おお、姫が! 姫が息を吹き返したぞ!」
結果、姫騎士は死の定めから逃れた。これに関しては何もやっていないとは言い切れない。だが、普通なら死亡イベント中に回復薬を使ったとしても無効化されるはずだ。つまり俺は全く悪くない。
ちなみに、姫騎士が死ぬというシナリオはあまり受けが良くなかったらしく、彼女が生きているという状態が正史となってゲームは続いた。だが、もともと死ぬことを前提にシナリオが作られていたので、ときどき死んだことになっていたりとなかなかハチャメチャだったらしい。
何故伝聞系かと言えば、その頃には、俺はゲームを引退していたからだ。というか、そのイベントの直後に辞めた。
理由は単純。誘ってくれた友人にこう言われたからだ。
「ショウとゲームすると、おかしなことばっかり起きるな」
別に嫌みとかではなくて、ただ単純な感想だったのだと思う。だが、当時の俺にはなかなかショックだった。それ以来アルサーを辞めてしまったのだ。
アイツはごめんと泣きそうな顔で何度も謝ってくれたが……俺も頑なに復帰しようにしなかったから、結局は疎遠になってしまった。今思えば悪いことをしたな。
まあ、そんなことがあったので、デジタルゲームは俺のトラウマだ。以来、関わらないようにして生きてきた。
ゲームなんてやらなくても人生はどうとでもなる。スポーツや格闘技に打ち込むきっかけになったし、おかげで体は丈夫だ。悪いことばかりではない。
だが、本当にそれでいいのか。トラウマを抱えたままというのも、すっきりしない。
いや、本音を語ろう。俺はゲームがやりたいんだ。みんなでワイワイ楽しそうにやっているのを興味ないふりでやり過ごすのは悲しすぎるだろ!
大丈夫。俺もすでに二十五だ。機械との付き合い方もだいぶ慣れてきた。今ならば、ゲームを壊すことなく遊ぶことができるはずだ。
というわけで、俺は再び、VRMMOにチャレンジしてみることにした。始めるのはタイミングよく発表された『Legend of Arcadia -
「待ってろよ、アルカディア!」
俺はコイツでトラウマを克服してやる!
もうデジタル音痴とは言わせないぜ!
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カクヨムコン向けの新作です!
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