◇


 翌日の昼休み。由佳と志帆は、学校の中庭にあるベンチに、並んで腰掛けていた。


「えっ、じゃあ、結局告白しなかったの?」

「ちょっと、声大きい」


 瞳を皿みたいに丸くした志帆の声は、思いのほか大きくて。由佳はキョロキョロと辺りを見回した。幸い、誰もいなかった。


「うん。話したいことがある、なんて神妙な顔で言うもんだからさあ、何かな? と思ったら、妹の誕生日にあげるプレゼントを一緒に考えてほしい、ってそんな話だったの」

「え、本当に? じゃあ、由佳がなんのために和人を誘ったのか、わかっていないってことじゃない?」

「そーそー。鈍感っていうかさあ。それでなんか気勢をそがれちゃって、言えなかったというかなんというか」


 彼に妹がいるのは本当だ。そこは嘘ではなかった。


「ねえ、志帆。志帆ってお菓子作りが趣味だったよね?」

「そうだけど……どうして? あっ、もしかして」

「そう。和人に、プレゼント用にお菓子を作ってあげようかなって」

「いいね! いいね! 私がいろいろ教えてあげるよ」


 こうして、その週の土日から、由佳のお菓子作りの特訓が始まった。由佳は不器用なのでだいぶ苦戦しながらも、段々うまくなっていくのだった。



 志帆はよく、「由佳は私が持っていないものを全部持っているから羨ましい」と言っていたのだが、自分に言わせるとむしろ逆だ、と由佳は思っていた。志帆は、由佳にないものをたくさん持っていた。

 料理が上手。お菓子作りが上手。服の着こなしのセンスがいい、等々。そして何より女の子らしい。それこそ、枚挙のいとまがないほどに、由佳にはない女らしさを持っていた。

 だから由佳は恐れていた。

 いつの日か、志帆が和人のことを好きになるんじゃないのかと。

 親友が恋のライバルになることを、由佳は何よりも恐れていたのだ。

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