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由佳は、一言で言えば天真爛漫な女の子。
どちらかと言えばボーイッシュなタイプで、染めているみたいに明るい茶髪を、いつも短く切ってそろえていた。
元々物怖じしない性格なのもあって、転校生でありながらクラスに馴染むのは早かった。美人で、頭が良くて、かっこよかった。志帆は彼女とは真逆で、大人しくて、何かにつけて要領が良くなかったので、たびたび由佳に助けられていた。
もし、隣に由佳が引っ越してこなかったら、友だちになってくれなかったら、志帆は小学生時代にもっと苦労していただろう。小学校三年生のとき、志帆はクラスですでに浮いていたから。友だちが全然いなかったから。
明るい由佳を通じて、志帆は段々と友だちが増えていった。彼女を間に挟んでの繋がりではあったけれども、交友関係は確かに広がっていったのだった。
だから、志帆は由佳が大好きだった。
高校に進学するとき、志望先が同じ学校だと知ったとき、志帆は本当に嬉しいと思ったものだった。
◆
「もう、信じられない!」
高二の昼休み。志帆が、教室の窓から身を乗り出して校庭を見下ろしていると、隣に由佳がやってくる。何やらご立腹な様子だ。
「どうしたの?」
「ちょっと志帆! ねえ、聞いてくれる?」
そうして始まった由佳の愚痴は、まあなんとも他愛のないもので。
やれ、彼が好きなアイドルグループがあって、メンバーの中で彼が推している子の写真を見せてもらったけれども、あんまり可愛くなかったとかで。そのことを正直に伝えたら反発されて喧嘩になった、とか。
やれ、この間夜に電話をくれるというので家で待っていたら、いつまで経っても電話がこないのでこちらから掛けたら、「忘れていた」などとあっけらかんと返されたんだ、とか。
「うーん。よくわからない」
正直、志帆はこう返すほかなかった。
「えー、嘘だー。ひどいと思わない?」
「ひどいと言えばひどいけど、そんなものだよ。高校生の男子なんてまだまだ子どもだし、忘れっぽいし、約束だってすっぽかす」
「なんだか、男の子に詳しいみたいだね?」
「そんなことないよ」
そう、そんなはずはなかった。志帆はこれまでまともな恋をしたことがないし、男の子にさして興味がなかった。
このときは、そう思っていた。
「それに、好きなものを貶められたら、誰だって怒るでしょ?」
「うん。そうなんだけどねー。なんかさ、そのアイドルの子が私とタイプが違う感じだったから、なんかムカムカしちゃって」
「嫉妬ってこと? しょうがないな……」
可愛いもんだね、と志帆は思う。
「謝ったほうがいいかなあ」
「そうだね。あー、そういえばさ、七月に入って始めの頃に、花火大会があるでしょう? あれに誘っちゃうってのはどうかな?」
「あの、河川敷であるやつ?」
「そうそう」
「でも、あれって、誘うこと自体に告白的な意味がこめられている、とかいわくつきのやつじゃん!」
「だからこそ、誘うんでしょ?」
えー、とかしばらくの間由佳は渋っていたが、結局のところ彼を誘うことに決めたらしい。
鬼怒川河川敷で行われる花火大会。この大会に誘うことは、そのまま『あなたのことが好きです』という意味であり、また、当日いい雰囲気になれた男女は、必ず交際に至る――というジンクスがある花火大会だった。
由佳が、拳を握って気合いを入れる。頬がにへら、とゆるんでいて、気持ちはすでに花火大会の日に飛んでいるようだった。
そんな由佳の後ろに広がっているのは、晴れやかな青空だ。
喧嘩するほど仲がいい。そんな感じの二人ではあるが、実のところまだ、付き合ってはいない。
和人はカッコいい男子だった。イケメンなだけではなく、困っている人がいるとさり気なく手伝ったり、いじめられている生徒がいると、率先して声を掛けたり、なんとなく見て見ぬふりをしてしまう局面でも、積極的に手を差し伸べられる人だった。
大人びている言動と、ちょっと童顔な見た目とのギャップが印象的で、学年の女子の多くが和人のことを気にしていた。
由佳も、そんな女子の一人だった。
最初こそ、彼女は彼に全然興味を持っていなくて、『あんな顔だけの偽善者、どこがいいんだか』なんてツンケンしていたのだが、高校二年になって、クラス替えで和人と一緒のクラスになるや否やコロッと態度が変わる。
簡単に言えば恋に落ちた。
何があったのかはわからない。接点が増えたことで、彼の良い部分がよく見えるようになったのかもしれないが。
一学期の中頃に、『私、和人のことが好きかも』と志帆に打ち明けてきた由佳の顔は紅潮していて、恋する乙女って感じで可愛かった。
『協力してくれる?』と上目遣いで言った由佳に、『当然じゃない』と志帆は二つ返事で答えた。
いろいろ、できることがあったから。
志帆は、和人と同じくサッカー部に所属していたから。
無論、マネージャーとしてではあったけれど。
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