クールな鹿太郎のおとぼけ推理

@wan-1wan

プロローグ

「おはよう、気分はどう?今日はいい天気よ。早く起きて。」

眠い、体が重くて動かない、眠い、昨晩は何時に休んだんだっけ。眼は開いてるような気がするのに、何も見えない。カーテン越しだろうか、薄い幕を張ったような暖かい光が時折射し込んできて、脳を覚醒しようとしている。

スポットライトを当てられたように体のどこか一部分が暖かい。あ、手の温もりだ。誰かの優しい手が、左腕をゆっくりそぅと握りしめている。水中で話してるような歪んだはっきりしない声が遠くで聞こえる。知っているような知らないような、誰の声だろうか。この声はもしかして…ぁ、そうだ。寝ている場合じゃない起きなければ。


「鹿太郎?お願い、こっち、こっち、話を聞いて。」

ぱちんと音がしていつもの顔が眼前いっぱいにあった。びっくりした。まただ、やっぱり今日もやってきた。

あっちこっちに散らばった思考がせっかく形を成して薄靄が晴れそうだったのに、イライラもどかしい。

その代わりにフワフワとした眠りから完全に目覚めてしまった。

『う、騒がしぃなぁ、また来たんか。』

見えない程度に眉間に皺が寄る。現実と夢を往来する至福の時間…それをいつも邪魔してくるこの声だが、なぜか不快感はない。

目尻で睨んでみるが、握られた左腕から暖かさとともにフニャッとした気持ちが全身に広がってきて反抗心が挫かれる。悔しいので精一杯の抗う気持ちを集めて声の主を一瞥する、当然返事はしない。

けれどもそんなことに気にも留めず、ニュースを伝えるアナウンサーのように一方的に耳元で喋り始めた。

「今日も、変なことがあった。聞いて。」

『嫌ぁー言うても、勝手に話すんやろ。でもまぁ、今日はええ天気で気分がいいし、暇潰しに聞いてやってもえぇわ。ほんましゃーないなぁ。』

少しだけ、ほんの少し気持ち程度に心を向ける。

「…というわけ」

『…何分喋り続けるんや……途中で飽きてもうて他のことを考えてたがな』

「で、どう思う?」

『悪いが今の話、耳には入ったんやけど、脳内が着信拒否。弾かれて出ていったわ。』

寝起き頭でぼんやりしてた。

実際のところ話の途中から、以前聞いた方の話の内容が気になって思い出していた。ぼんやり幾つかの単語だけが記憶の中を浮いたり沈んだりしている。

なんだっけ…"鯛焼き""赤い"とか、節分のような…。他はなんだったか、馴染みのある語句だったような気がする。頭の中で反芻をする。胸の奥がチリチリ疼く。なぜだ。

「なんか気になるでしょ。」

『あ、今の話、なんやったっけ。』

とは言えず、まずいなと思いながら上目遣いに視線を合わせた。今日はどんなネタを持ってきてくれたのかな。楽しみだ。














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