a=5 円

ドアが開いた。

私は開け方で彼だとわかる。

彼の靴の音はまるで

水面を歩いたらきれいな

整然とした同心円状の波紋になりそうな、

そんな法則じみた、

けれども美しい、

そんな音だった。

今日が土曜日であることへの驚き以上に

嬉しさが勝りなんの違和感もない、

法則に支配されたいつもの世界のように錯覚した。




俺はドアを開けた。

俺はいつもの足取りよりもなぜか慎重に

彼女の方へと向かう。

なにか壊してはならない領域な気がしたからだろうか。

そしてなんとなくそこにあったイスに座った。

彼女は太陽、

俺はその周りを小さくも懸命に回る水星かな、

なんて変な想像をしたりしてふと彼女の顔を見るとやっぱり彼女は宇宙の真理みたいな、

そんな顔をしていた。

そんな約束の土曜日だった。

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