2.浅草ダンジョン(地下四階)

第6話 【オーガ】変異種に会うまで30体 1

 七時五十分。オーガ討伐の開始まで後十分。私と竜輝さんは浅草ダンジョンの転移ポイントで待機していた。


 私達のダンジョン探索が問題なく進んでいるからか、今日から柳井先生達は魔衛庁でサポートをすることになった。なので先生からの入室許可待ちだ。

 先生がここにいないのは少し寂しいけど、それだけ順調に進んでいると考えよう。


 今日も頑張らないと。そう考えながら近くに浮いているドローンを見上げる。


 許可が取れたらドローンから先生の声が聞こえるらしい。不思議な感じだな。許可を待つのはいつもと同じなのに、いつもと違うからかなんとなくソワソワする。


「真白」


 ドローンを見上げていると竜輝さんの声が聞こえた。そのまま視線を移すとふわりと笑う竜輝さんが視界に入る。


「竜輝さん。どうしましたか?」

「まだ八時まで時間もありますし、配信の最終確認をしましょうか」

「は、はい」


 緊張しているのがバレバレなんだろうな。竜輝さんはポケットからスマホを取り出すとそのまま操作し、私にスマホを見せた。


【オーガ】変異種にあうまで30体

 概要欄:変異種と青鬼は眷属が倒します。

 ※この配信は魔衛庁の許可を得ております。


 すぐに待機画面が目に入る。変異種にあうまで三十体。青鬼と変異種以外を三十体討伐するんだよな。やるしかないのはわかっているけど、正直自信がない。

 リスナーさんはどう思っているんだろう。待機画面に流れているコメントへ視線を移動する。


『泣いた青鬼』

『もうオーガか』

『時の流れは速いな。少し前までゴブリンだったのに』

『実はまだ一週間』

『本当に少し前』

『時よりも真白ちゃんの成長が早い』


 結構のんびりしているな。オーガだよ。もうオーガ。

 と言ったところでどうにかなる訳ではない。なんで本人だけが緊張しているんだろうな。


「私だけ焦っているみたいですね」

「オーガは真白より少し弱いですしですし、いつも通りで問題ないですよ」

「私とオーガはそこまで実力差はないんですよね」

「ええ。緑鬼に関してはミノタウロスと変わりないですよ」


 竜輝さんが言うのならそうなのかもしれないけど、急に強くなったからミノタウロスの時と同じで実感がわかない。


「羊川。おはよう」


 空中から先生の声が聞こえた。声の方向を見るとドローンが浮いていた。あっ。そうだ。ドローンを通して先生と話すんだった。


「先生。おはようございます」


 顔が見えないので、どこを見れば良いかわからないが、ドローンを見上げたまま挨拶をする。


「ああ。早速だが許可が取れた。ダンジョンに入っても問題ないよ」

「ありがとうございます」

「気にするな。私の仕事だ。君はオーガ討伐に専念してくれ。君が優勢なのかもしれないが、君はまだ経験が浅いのも確かだ。充分に気をつけて欲しい」

「はい! 先生。行ってきます」

「ああ。いってらっしゃい」


 ドローンに一礼してから竜輝さんを見る。竜輝さんは私の視線に気付くとすぐにスマホをポケットにしまい、私に手を差し出す。


「真白。準備が出来ましたら行きましょう」

「はい」


 差し出された竜輝さんの手を繋ぐと、私達はダンジョンの転移ポイントへと向かう。いつもなら私が移動するが、今日は違う。

 私はまだ地下四階に行ったことがないから竜輝さんに連れて行っても貰う必要がある。

 竜輝さんは大体のダンジョンに移動出来るらしい。住みやすい場所を探していたからと軽く言っていたけど、きっと規格外の事をしているんだろうな。


「僕の手をしっかり握っていて下さいね」

「はい」


 握っている手に力を込めてから返事をすると、すぐにいつもの浮遊感が出てきた。落ち着くと目の前には見慣れない風景が広がっている。


 どうやら浅草ダンジョン地下四階についたようだ。

 確信がもてないのは、地下四階は今までの上の階とは違う景色だから。木々は生えていなく、赤黒い岩石で覆われている不気味な場所。

 見慣れない場所に今さらだが心臓がバクバク言い始める。


 竜輝さんの手を離すと周りを見渡し、いつ襲ってきても戦えるように集中する。

 私は片手で戦える程強くはないし、何かある前に竜輝さんが魔物を討伐出来るから手を繋いでいなくても問題ないそうだ。


 人は討伐出来ない。今さらながら重い言葉だ。


「真白。そろそろ配信を始めますよ」

「はい」

「ふふっ。そんなに固くならなくても大丈夫ですよ。しばらくはオーガも来ません。それに万が一配信前に来たら僕が倒しますから」


 そう言いながら竜輝さんがスマホを取り出す。相変わらず緊張感がないな。

 竜輝さんはそう言っているが、周りの気配を気にしながらスマホを見る。


 画面には『羊川真白さんを待っています』と言う画面と『待機』のコメントで埋まっていた。もう時間だ。


「真白。始めますね」

「はい。お願いします」


 返事をすると竜輝さんが配信スタートのボタンを押す。待機画面が暗転するとすぐにカメラの映像が映り出された。配信スタートだ。


「今日もありがとうございます。羊川真白です。今日もよろしくお願いします」

「皆さん。こんにちは。羊川竜輝です。今日もよろしくお願いします」


『あれ、名前?』

『たつき?』


 竜輝さんの自己紹介で気付いたリスナーさん達がコメントをする。相変わらず竜輝さんは前触れがないな。

 ただコミュ限で話していたからか意外と『ああ』とか『やっぱり』と言うコメントが多かった。


「僕に名前がなかったので、真白から頂きました。竜に輝くと書いてたつきと言います。今日から僕の事は竜輝と呼んで下さいね」


 どことなく誇らしげに言った。気に入っているのは嬉しいけど、少しだけ恥ずかしい。


『どや竜』

『最初はどうでも良さそうだったのに』

『真白ちゃんから貰ったからな』

『貰った瞬間手のひら返し』

『名前きれい』


「名前が綺麗? そうですよね! 真白が僕の事を考えてつけてくれたんですよ」


『嬉しそう』

『ちゃんと考えたのが伝わってくる』

『ええやん』


「ええ。ふふっ。真白が僕のことを考えながらつけてくれたんですよ。ですので真白が僕だけのためにつけた名前と言うことを念頭に置いて竜輝と呼んで下さい」


 ん? なんか竜輝さんが気持ち悪いことを言っていない?

 名前の紹介、だよね?

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