第二章

1.これまでの振り返り

第1話 【こみゅ限定】今月の雑談 1

【こみゅ限定】今月の雑談

概要欄:雑談でわかるリンドヴルム。ネタバレも含むかもしれません。

※この雑談は魔衛庁の許可を得ておりますが、余計な事を話すと消されます。


『リマインドありがとう』

『二回行動嬉しい!』

『後、5分』

『相変わらず情報が多い概要欄』

『消されます草』

『そもそもネタバレしたら消されない?』

『確かに』

『今日はチキンレースか』

『俺達が試されている』


 今日は月に一回のファンコミュニティ限定の雑談配信だ。

 いつもは中旬くらいにしているが、リンドヴルムさんが来てから慌ただしかったので、もうそろそろ月末となってしまった。

 朝にミノタウロス、ケンタウロスのランダム討伐配信を行っていたが、もう三回目だったから問題なく倒せるようになった事とこれからの討伐は難易度があがると言う事で今日無理矢理行う事になった。


 もう少しで配信が始めるので概要欄と待機画面のコメントを見る。

 コメントはいつもよりも沢山流れていて、思わず全体公開してしまったんじゃないかと確認してしまったほどだ。

 設定は問題なし、コメントもファンコミュニティのオレンジ色で統一されている。と言うことはと言うことなんだろう。


「真白。カフェラテです」

「ありがとうございます」


 リンドヴルムさんの声がきこえたので、振り向くとカップを持ったリンドヴルムさんが私の隣に座る。

 リンドヴルムさんは座ると私にカップを渡したので、そのまま受け取る。

 受け取った時にしたコーヒーの良い香りで、少し気分が落ち着いた気がする。


「何を話そうか迷いますね」


 前回が中旬くらいだったので、一月半振りの雑談。雑談は好きだけど、コメントの多さに不安の方が強くなる。ダンジョンで魔物討伐している時はあまり気にならなかったが、家だと少し気持ちに余裕があるせいか勢いよく流れるコメント量に圧倒されそうだ。

 誤魔化すように軽い口調でリンドヴルムさんに言うとリンドヴルムさんは穏やかな表情をした。


「いつも通りで良いんですよ」

「わかっていますが、改めて見ると緊張するんです」

「いつも通りの真白が一番素敵ですよ」


 リンドヴルムさんはふわりと笑いながら言うとコップを持つ。そしてそのままカフェラテを飲み始めた。

 いつも通りが一番素敵。聞こえの良い言葉だが、それは変化を許さないと言う意味もある。本当に厄介な竜だ。


「知ってますよ」

「ふふっ。僕の気持ちを知って頂いているのは嬉しいですね」


 リンドヴルムさんは自分の事を好きになるなと言うなら、そう口説くのはやめて欲しい。って言ってもわからないんだろうな。諦めるようにため息をつくとコメントを見た。

 コメントは止まることなく活発に動いている。ちょっと変わったのは所々『待機』と言う言葉が出てきた事くらいだ。見ていると『待機』が更に増えて来る。そのまま時計に視線を移すと残り二分。そろそろ配信時間か。


「後、少しですね」


 リンドヴルムさんの方向を向きながら伝えると、リンドヴルムさんが飲んでいたカフェラテを机の上に置き、時計を見始める。そして時計が二十一時になると配信開始のボタンを押した。


「こんばんは。今日もありがとうございます。羊川真白です」

「こんばんは。リンドヴルムです」

「雑談は久しぶりな感じがしますね。今日もよろしくお願いします」


 カメラに向かってお辞儀をすると。『こんばんは』とたくさんのコメントが流れた。よし。まずはいつものように注意事項だ。


「始める前に一つお話があります。今日はではなく今日もですね。魔衛庁に確認していない事は答えられません。リンドヴルムさんに関する質問はNGです。予めご了承下さい」


 特に今日は雑談配信。何時もよりも気を付けなきゃいけない。

 私がうっかり聞くとリンドヴルムさんは答えないといけないらしいから。

 嘘をつかなければ誤魔化しても良いらしいけど、話すのが苦手なので誤魔化すのは大変らしい。

 誤魔化して良いって苦笑いしながら言っていたのは相変わらずだ。その言葉で本当に私に誠実なのかなんとも言えない気持ちになったのはいつも通り。

 ただそれでリスナーさんに知られちゃまずいことは隠せるので少し複雑だ。


『説明サンクス』

『了解』

『おk』

『余計な事話すと消されるからね』

『大丈夫だ。問題ない』

『そもそも雑談しに来た』


 ぼんやりと考えながらコメントを見ているとすぐにたくさんのコメントが流れる。

 リンドヴルムさんがそれなりに受け入れてくれているからか、肯定的なコメントが多く安心する。

 問題は無さそうだし、そろそろ開始しよう。そう思いながらリンドヴルムさんへ視線を移すとリンドヴルムさんが口を開いた。


「前置きは終わりましたので、そろそろ始めましょうか。まずはゴブリン三百体からですかね」


『200体乙』

『おつ』

『実は凄かった。ゴブリン300体耐久』

『耐久配信って大変らしいね』


「耐久配信が大変ですか? 確かに集中力が必要ですからね」


 ゴブリンとは言え、三百体も相手にするのは骨が折れる。やっぱり強い人は強い魔物を討伐する方が楽だし、好まれないだろうな。


『集中力以前の問題らしいよ』

『普通はそこまでスタミナがもたないらしい』

『真白ちゃんのつよつよコントロールはレアらしい』

『ゴブリン300体倒せるのに、なんでキングゴブリンを倒せないのか話題になっていた』


 なんでキングゴブリンを倒せないのか。リスナーさんのコメントが気にかかる。あの時はレベルも全然足りなかったし、あり得ない話だ。


「キングゴブリンはまだまだ先ですよ。あの時の私はまだ推奨レベルにすら届いていませんでしたし」


『私何かやっちゃいましたか(ゴブリン200体)』

『わかりにくい強さだな』

『他のダンジョン配信者が理解不能って言ってた』

『新人がゴブリン200体倒している途中ってパワーワードらしいwww』

『その後のリンドヴルムに出会ったも理解不能』

『草』

『謎の実力』

『謎すぎて考察されているしなwww』


「考察?」


 私が? ただゴブリンの耐久をしていただけなのに。予期せぬ言葉に驚きながらも流れているコメントを読むと。考察についてリスナーさん達が話し始めていた。

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