第20話 【雑談】緊急で動画をまわしています 2
配信はつつがなく進んでいる、のかな? リンドヴルムさんは楽しそうにたくさん話しているが、内容はちゃんと事前に確認した範囲。
杉村さん達も特に止めるそぶりはないし、きっと問題はないんだろうな。そっと視線を移すとため息をつきながらも真剣に聞いている先生達が視界に入った。
「次は僕が人を食べるかですね。食べませんよ。一般的な範囲では」
そう思った瞬間に爆弾を投げるのは止めて欲しい。その言葉で一気に緊張が走る。一般的な範囲ってなんだ。範囲って。そっと柳井先生の方向を見るとリンドヴルムさんを睨んでいた。
『一般的な範囲?』
『ざわざわ』
『配信大丈夫か?』
『配信切らないで下さい』
『せめて理由だけ聞かせてくれ』
一般的な範囲では人を食べない。突然と出てきた爆弾のような言葉にコメント欄が一気に流れる。
大半が配信が続くかのコメント。こんな中途半端に切れてしまったらまずいだろうな。先生達に確認するように視線を送ると、先生が真剣な表情で頷いた。よし。許可を貰った。リンドヴルムさんにちゃんと説明して貰おう。
「皆さん。驚かせてすみません。許可は出ています。リンドヴルムさん。変なことは付け加えずにちゃんと話して下さい」
「はい。僕は人を食べませんが、頑張れば食べれます。えーっと、人で言うカニバリズムに近い感覚ですね」
なんだろう? 聞いたことがない言葉だ。
「かに、りむ、って何ですか?」
「真白も人を食べられますよね。だけど食べない。それと同じ感覚です」
「ひひひ人を私が?」
ええ。と笑いながら言った。なんで私が人を食べる話になるんだろう。リスナーさんならわかるかな? コメント欄を見ながら聞こうとしたら『カニバリズムは人喰い』『食人の事』など普段だといつもならあり得ないコメントが一斉に流れていた。
「み、みなさん。ありがとうございます」
そっかカニバリズムって言葉があるんだ。知らなかった……って、なんでリンドヴルムさんが私の知らない言葉を知っているんだろう。
もしかしてリンドヴルムさんは私以外の記憶も持っているとか? あり得そうなんだよな。やっぱり信頼出来ない。
気にはなるけど、おいおいだな。今はそれよりも人を食べるかだ。
「まずは魔物の主食は人だと思われているみたいですが、そもそも誤っています。寧ろ人は知能があり、狩るのも厄介。しょうがなく食べる生き物です」
『じっくり味わえ』
『勝手に食べてケチつけないでくれませんか?』
『怒るところ違うwww』
『草』
リンドヴルムさんが軽く言うからか、コメントがいつもの調子に戻ってきたみたいだ。内容はともかく少し安心だ。少しほっとしながらリンドヴルムさんの続く言葉を聞く。
「種族的には食べられるけど、出来れば避けたい。感覚としては人と同じです。ですので一般的な範囲では食べないに入るでしょう」
少しまどろっこしい言い方だな。食べないで良いのに。リスナーさん達は納得してくれるのかな? 再びコメントを見る。
『わかった』
『おk』
『まわりくどい』
『なら何食べてるの?』
『好きな食べ物とかあるの?』
「僕が普段食べている物? 好物? 確かに普段の食生活がわからないと変に邪推されますね。僕の主食は木の実です。好きな物も木の実ですね。見た目がびわに似ている甘い物が好きです」
『甘い木の実』
『竜王の好物:びわ』
『草食竜』
『なんか人は食べなさそうって思ってきた』
『きっと人よりびわのがうまい。人は食べた事はないけど』
なんかわかってしまう自分が悔しい。スイーツとか似合いそうな外見だからな。
びわ食べている姿も綺麗だろうな。そんなに高いものじゃないし帰りにスーパーで買って行こう。って思うのがいけないのかもしれない。
気を引き締めて話の続きを聞く。
「伝わったようで何よりです。そうだ。こう言う話は切り抜かれると炎上するので、切り抜きは禁止でお願いしますね」
相変わらず心臓に悪い言い方だ。はっきり炎上するからと言っちゃうんだ。
ただ下手に誤魔化すよりは言いかもしれないとも思う。リスナーさんの反応だ。
『はっきり言うのか』
『切り抜かれたら炎上待ったなしだな』
『開き直ってて草』
『全部見れば問題ない』
『今まで通り』
今までも切り抜きがなくても問題はなかったし、必須の物でもない。リンドヴルムさんの炎上させやすい言動もあるからか意外と受け入れられているようだ。良かった。
「切り抜きも上げますよ。僕が真白のペットと全世界に知らしめる必要もありますからね」
そこは知らしめないでほしい。ただリンドヴルムさんが安全な魔物と思って貰うのは必要だし、難しいな。
『切り抜き乙』
『きっと伝わらないから、大丈夫だよ。真白ちゃん』
『ってか、リンドヴルムが切り抜き作るのか?』
『話す度に威厳が薄れる竜王』
『切り抜き作れる竜王凄いぞ』
『魔衛庁とも連携取れているっぽいしな』
『なんだかんだでこの竜王凄いぞ。言葉選び終わっているけど』
確かに会話に難はあるが、昨日の夜から配信関連の事はリンドヴルムさん一人でしているし、改めて考えると凄い。リンドヴルムさんってかなり頭良いよね。
「僕が凄い? どうなんでしょうね。僕の知識は大半が真白の記憶ですし」
『結論:真白ちゃんが凄い』
『確かに』
『ちょっと待て、そしたら真白ちゃんがカニバリズムを知っている事になる』
『それはアカン』
リスナーさんが鋭い指摘だ。触れたいけど質問リストにのっていない。ここはスルーしよう。
「真白は知らないですよ。カニバリズムは昨晩インターネットで人が人を食べるか調べていたら知ったんですよ。僕の質問をどのような温度感で話せば良いのかも気になりましたので」
「えっ? ネットサーフィンをしていたんですか?」
言っちゃうんだ。って今はそれよりもインターネットだ。
「ん? はい。真白。問題ありましたか?」
危険と言おうとしたら、リンドヴルムさんが私の方向を見て、首をかしげる。その表情は反則だ。
口から出てきそうになった危ないと言う言葉が消える。
あーもう。私は別にダメと言いたいわけではないけど、ただ検索している内容も内容だし、変なサイトにひっかったりしないかくらいは気になる。
「いえ、インターネットは危険なので気をつけて下さい。変な画面が出たら言って下さいね」
「はい」
リンドヴルムさんがちゃんと返事をしたことを確認してコメントを見る。
『勝手にインターネットを使ったのか』
『なんちゅーもん調べてるんだ』
『真白ちゃん。飼い主と言うよりも保護者』
『つペアレンタルコントロール』
『つセーフサーチ』
『フィッシング詐欺に気をつけて下さいね』
確かに。突然家に布団が届いたりしそう。リンドヴルムさんの様子を窺うように見ているが、特に気にせず微笑んでいた。
「詐欺にあいそうになったら、真白に相談します」
その言葉通り、リンドヴルムさんが何か起こる前に私に相談してくれる事を信じるしかなさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます