第8話 【報告】家族が増えました 4
「解除出来ない?」
一番に視界に入ったのはアイビーの紋様だった。可愛らしい花の紋様だが、こめられた意味が重すぎるせいか、私の目には骸骨の紋様に見えてくる。
えっ? なんで? 解除出来ないの?
「もしかして僕の気持ちが奇跡をおこしたんですか」
魔物の呟くような声が聞こえた。そのまま見上げると目を細めて穏やかに微笑む。
これは至近距離でみちゃいけない。急いで視線をそらして考える。これは奇跡というよりも呪いだ。私の解除方法が違う? 他の冒険者さん達に聞こう。急いでガードマンさんの方向を見る。
「あの、もしかしたら私のやり方が悪いみたいで、解除方法をご存じの方がいらっしゃれば、教えて頂けないでしょうか」
ガードマンさん達と配信画面を交互に見る。
画面を見た瞬間、同接数が十五万人が目に入り、恥ずかしくなったが、なりふり構ってられない。
気付かなかったことにしてコメント欄へ視線を移すとコメント欄が止まっていた。どうしたんだろう。少ししてから茉莉さんのコメントが流れた。あっ、冒険者さんのコメントが目に入るようにリスナーさんがコメントを控えてくれているんだ。
『私は紋に触れて、“解除”と心の中で念じてます』
「紋に触れて解除。……一緒です」
『ですよね。役に立てなくてごめんなさい』
茉莉さんと解除方法は同じだ。やっぱり間違っていない。なのに解除が出来ない。ってそれよりも茉莉さんにお礼を言わなきゃ。
「いえ。茉莉さん、ありがとうございます。その、あり得ない事がおきていますし、あの、もし他に方法を知っている方がいれば教えて下さい」
ガードマンさん達が申し訳なさそうに頭を下げる。
冒険者の方々のコメントも『わからないです』、『ごめんなさい』と申し訳なさそうにポツポツと流れる。
やっぱり私以外の誰かが刻んだんじゃないだろうか。確かめるように魔物の紋に触れると呼応するように赤く光った。
「皆さん。ありがとうございます。そうです。よね」
『うわああああ』
『怖い』
『不穏過ぎん』
『呪いの装備だ』
私の言葉に再びコメント欄がリスナーさん達のコメントで埋まる。
「そもそも紋を刻んだ記憶はないのに」
「覚えていないだけですよ。あの時のあなたは僕をどうにかしようと必死でしたからね」
「どうにかしようと?」
「僕を使役してまで生き残ろうとしたんですよ」
寄生されかけていた時の事が頭に浮かぶ。記憶にない。と言うかそれどころじゃなくて記憶から抜けてしまっていたのか。
だからこんなわけのわからない事が起きてるのか。
「羊川さん」
それでもどうにか出来ないか考えていると私を呼ぶ声が聞こえた。声の方向を見ると後方の眼鏡をかけた細身のガードマンさんが私に声をかけた。
私に近づかないのは、この魔物を警戒しているからだろう。
「魔衛庁と確認がとれました。この魔物と一緒に帰還してくれませんか?」
「この魔物と? ダンジョンの外にですか?」
「ええ。他の眷属同様許可が出ました。この魔物は貴方の眷属である限りは貴方の命令からは背けない。アイビーなら尚更です」
「はい」
「ここで無理矢理追い返すよりもあなたの管理下に置いておいた方が良い。魔衛庁はそう判断しました」
魔物に鋭い視線を送りながら言う。魔物は私に微笑みかけるとすぐにガードマンさんの方へ視線を戻し、口を開いた。
「この紋が偽物の可能性は」
「それはないでしょう。人の姿になってから羊川さんの命令通りに動いているようですからね」
「はい。僕は真白のペットですからね」
ガードマンさんの言葉に魔物が答える。記憶にないがきっとどこかでこの魔物に命令していたようだ。
私の命令に従う眷属。そうかもしれないが、この魔物はキングゴブリンを瞬殺してダンジョンの入り口まで来た。
そんな危険な魔物をダンジョンの外に解き放って良いのか。リスナーさんの反応を確認するようにそっとコメントを見る。
『悲報:真白ちゃん呪いの装備を捨てられない』
『一番無難やな。キングゴブリンが逃げるの見ていただろうし』
『この魔物、真白ちゃんがいなくても普通に外に出れそうだよな』
『ある意味魔物の監視か』
『真白ちゃんが見張ってくれるのは助かるけど、そんなのってあるか』
『アイビーが決め手なのつら』
『この魔物。地獄までついて来そう』
確かに。そのコメントが流れた瞬間。一気にコメントが流れた。どうしたんだろう?
『は?』
『真白ちゃんは天国行きですけど』
『喧嘩なら買うぞ』
『天国一択。異論は認めん』
『は?』
『過激派多すぐるw俺も天国派だけどさ』
そこじゃないと思いつつもリスナーさんの優しさが嬉しい。
それに解き放つことに対して否定的なコメントは見当たらなかった。どちらかというと勝手に出てきそうだから見張っていて欲しい。
「わかりました」
どうなるかわからないけど、冒険者の端くれとしてこの魔物が人に害を及ぼさないようにしっかりと監視した方が良い。
覚悟を決めてから、ガードマンさん達に伝える。その言葉に魔物がふんわりと笑った。
「どうやら僕もお家に帰れそうですね。今日話せる話はもうないですし、そろそろ配信は終了しましょうか。僕の事は魔衛庁に確認を取り次第、配信でお話します。よろしければチャンネル登録。つぶったーのフォローよろしくお願いします」
魔物はカメラに向けて手を振ると配信を切り、スマホをズボンのポケットにしまった。本当にマイペースな魔物だ。そのまま様子を見ているとガードまんへ視線を送る。
「お待たせしました。僕達はどこに行けば良いですか」
険悪な雰囲気など気にしていないのか、ふんわりとした口調だった。
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