竜王様は生贄系ダンジョン配信者に愛でられたい

黒崎ちか

第一章

序章

第1話 真白とダンジョン配信


 百五十年くらい前。突然魔物が住む異世界、通称ダンジョンへの入り口が生まれた。


 それと同時に魔物と対峙する特異な力が一部の人に発現した。その人たちはその力でダンジョンから出てきた魔物たちを退け、冒険者と呼ばれるようになった。


 良く言えばヒーロー。悪く言えば異質。冒険者はそんな人たちの集まりだ。


 私、羊川真白ひつじかわましろ二十才はたち)もそんな冒険者のはしくれだ。と言いたいけど、まだ魔物の討伐だけでは食べていけないので、ダンジョン配信者も兼業している。


 もちろん今日もこれから配信だ。スマホを通してカメラの映像を見る。


 画質は問題ない。軽く動くと私について来るように羽がついた小さな球体カメラが動く。

 追尾も問題なさそうだ。後は配信を開始するだけ。そのまま配信サイトを開き、編集画面に移動する。すぐに配信開始のボタンを押した。


「こんにちは。羊川真白です。今日も来て下さりありがとうございます。今日はゴブリン三百体耐久です。よろしくお願いします」


 そう言いながら私はドローン型のカメラへ一礼し、すぐに手に持っているスマホを見る。


 スマホには私がスマホを見ている映像と右に『こんにちは』や『やぁ』など、この配信を視聴しているリスナーさんのコメントがたくさん流れていた。


「こんにちは。こんにちは。みなさん、今日もありがとうございます」


 コメントを見ながら、同接数も確認する。

 今日は二百四十二人。ゴブリン耐久だからいつもよりも減るかと思ったけど、いつもと変わらない数だ。


 思った以上に来てくれて急に不安になる。ならなんで配信したんだって言うのは言わないで欲しい。

 本当は配信外でやろうと思っていたけど、新人はどんな配信でもとりあえず配信した方が良いらしい。リスナーさんが教えてくれた。

 だからと言ってゴブリンはな。ゴブリンは全く画面映えしない。しかも耐久。終わるまで永遠と同じ映像が流れる。再放送どころじゃない。このまま流すのは不安だ。

 大丈夫かな。恐る恐る流れているコメントを見る。


『りょ!』

『頑張って』

『こんちわ。間に合った?』

『今、最初の挨拶』

『真白ちゃんを見に来たからどんな内容でもおk』

『ゴブリンは新人のずっ友だから』

『どちらかと言うと300体が心配』

『無理すんなよ!』

『命大事に』


 耐久の方を心配してくれているみたいだ。相変わらず私の所に来てくれるリスナーさんは優しい方が多い。それでもやっぱり不安だ。リスナーさんにもう一回言っておこう。


「ありがとうございます。今日はゴブリン耐久で同じ映像が続くので適宜休憩を取ってくださいね」


 再びカメラに向けて一礼する。それからゆっくりとコメントを見る。


『草』

『これはこっちの台詞!』

『表でやってくれてありがとう』

『配信助かる』

『300はさすがに多すぎる』

『300……』

『なんかあったの? 魔衛庁から禁止されてなかったら教えて』

『300はちょっとハードだしね』


 冒険者は魔衛庁…—―魔物防衛庁と呼ばれる省庁に所属している。だから普通の人よりも魔衛庁から聞いていることが多い。

 なのでもちろん配信では言ってはいけない事もある。場合によっては配信許諾が取り消されるので大事なルールだ。リスナーさんも知っているので、こうやっていつも聞いてくれる。

 本当にリスナーさんにはいつも助けてもらっている。私が新人なのにやらかしが少ないのはリスナーさんのおかげだと思う。


「話して問題ないです。日本橋ダンジョンにゴブリンが増えているらしいです。ゴブリンがたくさんいたら他の討伐に集中出来そうもないですし、早めに対処しようと思ったんです。後、報奨金を少し割り増しするみたいで臨時ボーナスでお寿司を食べようと思います」


『日本橋は真白ちゃんのホームだしな』

『相変わらず寿司www』

『300匹も倒して、寿司か』

『銀座で食べてくれ』

『報奨金って少ないですよね』

『ゴブリンだしな』

『よし、俺たちも微力ならば』

『財布の紐なら緩めているぜ』

『寿司をおごらせてくれ』


 あっ。まずい。収益化は良くない。

 私のチャンネル登録者数は一万五千人くらいで、実は収益化の条件はとっくに満たしている。だけど投げ銭が怖いので切っている。

 一回オンにしたことがある。収益化が出来たので報告を兼ねた雑談だ。その時の投げ銭は七十五万……。一時間そこらの雑談で七十五万。これは簡単に受け入れちゃいけない。ありがたいけど、恐れ多いし、そんな事を続けたら金銭感覚がおかしくなる。


 と言っても討伐収入と動画収益を足しても学生時代のアルバイトと同じくらいで、収益が全くないとそれはそれで生活が厳しいのも確か。

 なのでリスナーさんの好意に甘え月九十円のファンクラブを作っている。メンバーは五千人も入ってくれているので、かなり裕福な生活が出来ている。もう十分だ。


「支援は十分頂いております。今日も応援に応えられるように頑張ります」


 ごまかしながらスマホの配信画面で撮影がぶれていない事を確認。ちゃんと映像に映っていないと報奨金が貰えないし。

 よし、大丈夫。それから再びコメントに視線を移す。


『困ったときはいつでもお姉さんに相談するんだよ』

『通報しました』

『通報しました』

『先越されたw』

『様式美』

『もやし買う前に相談するんだぞ』


 通報しましたと言うコメントに最初はびっくりしたけど、段々といつものやりとりになっていた。リスナーさんは皆さんノリがいい。人を選ぶかもしれないけど、私はこの空気が好きだ。


「ふふっ。いつもありがとうございます。これからゴブリン退治に向かいますね」


『ノ』

『いってらー』

『いってらっしゃい』


「行ってきます! これからダンジョンに入りますので、いつも通り乗り物酔いに気をつけて下さい」


 コメントを見てから、私はダンジョンの入り口と呼ばれる目の前にある私の大きさくらいの石に触れる。すると頭の中に『地下1階』、『地下2階』、『地下3階』と頭に浮かぶ。

 頭の中に浮かんだ地下2階を選ぶと一瞬視界が暗くなり、目の前には森が広がっていた。


『森なう』

『ゲームの世界みたいだな』

『夢を見ているみたいですね』

『凄いよな。ダンジョンに選ばれるって』

『触るのはただの石なのにな』


 コメントを見るとリスナーさんが目の前の映像を見ながら感想を言い合っていた。


『真白ちゃん。ふぁいお』

『がんば』

『頑張って下さい』


 私の視線がコメントにいっているのに気付いたのか、すぐに頑張ってと言うコメントで染まった。

 これを見るといつも頑張ろうとテンションが上がる。


「いってきます」


 カメラに向かってそう言うと間違えてダンジョンに罠とか踏まないよう、息を吐いて落ち着かせるとそのまま森へ向かった。

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