自称ペットと封鎖ダンジョン攻略~新人ダンジョン配信者、竜に魅入られてバズる~

黒崎ちか

第一章

序章

第1話 真白とダンジョン配信

 羊川真白ひつじかわましろ。二十才。

ダンジョンで魔物討伐を始めて十ヶ月の新人冒険者だ。

 冒険者。凄く浪漫を追い求めているように聞こえるが、実はちゃんとした国家資格。この資格がないとダンジョンに入れないので、結構重要な資格だ。


 資格取得方法は単純明快。冒険者育成の専門学校を卒業する事だ。

 ただ入学条件が審査石と呼ばれる石を光らせると言う運ゲーなので、なりたいからと簡単になれるものではない。聞いた話だと一万人に一人くらいの確率らしい。


 事実私の年で入学資格があったのは全国で九十三人。そこから更に冒険者になるのは多いときで半分くらい。私の年は直近で魔物による大きな死傷事件があった事も影響したからか、私を含めて八人とかなり少なかった。


 冒険者はそれくらい限られた職業だが、国の予算も限られているため、全ての冒険者が食べていけるわけではない。

 その結果生まれたのはダンジョン配信。

 政府からダンジョンでの魔物討伐映像を動画サイトで配信するのが十年くらい前から許可され、今は新人冒険者の強い味方となっている。


 私も例に漏れず、ダンジョン配信にお世話になっている。今日もこれから討伐兼配信だ。カメラの最終確認をしてからスマホを開く。

 あっ、後二分で時間だ。急いで配信サイトの編集画面を開く、そして配信開始の時間になってから、配信開始のボタンを押した。


「こんにちは。羊川真白です。今日もありがとうございます。今日はゴブリン三百体耐久。よろしくお願いします」


 そう言いながら私はドローン型のカメラへ一礼し、すぐに手に持っているスマホを見る。


 スマホには私がスマホを見ている映像と右に『こんにちは』や『やぁ』など、この配信を視聴しているリスナーさんのコメントがたくさん流れていた。


「こんにちは。みなさん、今日もありがとうございます」


 コメントを見ながら、同接数も確認する。

 今日は二百四十二人。ゴブリン耐久だからいつもよりも減るかと思ったけど、いつもと変わらない数だ。


 思った以上に来てくれて急に不安になる。配信しているのは私なのはわかっている。

 実際配信外でやろうと思っていたけど、新人はどんな配信でもとりあえず配信した方が良いらしい。だからと言ってゴブリンはな……。

 ゴブリンは全く画面映えしない。しかも耐久。終わるまで永遠と同じ映像が流れる。再放送どころじゃない。このまま流すのは不安だ。リスナーさんにもう一回言っておこう。


「今日はゴブリン耐久です。よろしくお願いします」


 再びカメラに向けて一礼する。自分で面白みがないのはわかっているのに、スマホの画面を見るのが怖い。恐る恐る見ると同接は二百五十九人に増えていた。


『りょ!』

『頑張って』

『こんちわ。間に合った?』

『今、最初の挨拶』

『真白ちゃんを見に来たからどんな内容でもおk』

『ゴブリンは新人のずっ友だから』

『どちらかと言うと300体が心配』

『無理すんなよ!』

『命大事に』


 リスナーさんはどちらかと言うと耐久の方を心配してくれているみたいだ。優しいな。


「ありがとうございます。同じ映像が続くので適宜休憩を取ってくださいね」


『草』

『表でやってくれてありがとう』

『配信助かる』

『300はさすがに多すぎる』

『300……』

『なんかあったの? 魔衛庁から禁止されてなかったら教えて』

『300はちょっとハードだしね』


 冒険者は国の省庁……魔物防衛庁に管理されている。なのでダンジョンに関することは普通の人より知っている。だから配信で言ってはいけない事もある。

 場合によっては配信禁止になるので、大事なルールだ。それはリスナーさんも知っているので、こうやっていつも聞いてくれる。

 本当にすごく助かっている。私が新人なのに、やらかしが少ないのはリスナーさんのおかげだと思う。


「問題ないです。日本橋ダンジョンにゴブリンが増えているって連絡があったんですよ。ゴブリンがたくさんいたら他の討伐に集中出来そうもないですし、早めに対処しようと思ったんです。後、報奨金を少し割り増しするみたいで臨時ボーナスでお寿司を食べようと思います」


『日本橋は真白ちゃんのホームだしな』

『相変わらず寿司www』

『300匹も倒して、寿司か』

『銀座で食べてくれ』

『報奨金って少ないですよね』

『ゴブリンだしな』

『よし、俺たちも微力ならば』

『財布の紐なら緩めているぜ』

『寿司をおごらせてくれ』


 あっ収益化の話になっちゃった。

 私のチャンネル登録者数は一万五千人くらいで、収益化の条件はとっくに満たしている。だけど投げ銭が怖いので切っている。収益化記念配信の投げ銭が七十五万……。

 一時間そこらの雑談だよ。一時間。一時間で七十五万。これは簡単に受け入れちゃいけない。ありがたけど、恐れ多い。


 ただ、冒険者としての収入が学生時代のアルバイトと同じくらいの金額なので、全くないとそれはそれで生活が厳しいのも確か。

 リスナーさんの好意に甘え月九十円のファンクラブを作っている。メンバーは五千人も入ってくれているので、動画の広告収入と冒険者の収入とあわせて、それなりに裕福な生活が出来ている。と言うか十分だ。


「支援はおいおい。それよりもダンジョンに向かいます」


 ごまかしながらスマホの画面が撮影がぶれていない事を確認。ちゃんと映像に映っていないと報奨金が貰えないし。

 よし、大丈夫。それから再びコメントに視線を移す。


『困ったときはいつでもお姉さんに相談するんだよ』

『通報しました』

『通報しました』

『先越されたw』

『様式美』

『もやし買う前に相談するんだぞ』


 通報しましたと言うコメントに最初はびっくりしたけど、段々といつものやりとりになっていた。リスナーさんは皆さんノリがいい。人を選ぶかもしれないけど、私はこの空気が好きだ。


「ふふっ。ありがとうございます。充分に頂いております。これからゴブリン退治に向かいますね」


『いってらー』

『いってらっしゃい』


「行ってきます! これからダンジョンに入りますので、いつも通り乗り物酔いに気をつけて下さい」


『りょ』

『おけ』


 コメントを見てから、私はダンジョンの入り口と呼ばれる石に触れる。すると頭の中に『地下1階』、『地下2階』、『地下3階』と頭に浮かぶ。

 頭の中に浮かんだ地下2階を選ぶと一瞬視界が暗くなり、目の前には森が広がっていた。


『森なう』

『ゲームの世界みたいだな』

『夢見ているみたいですね』

『凄いよな。ダンジョンに選ばれるって』

『触るのはただの石なのにな』


 リスナーさんが目の前の映像を見ながら感想を言うようにコメントをしていた。


「今日もがんばりますね」


『がんば』

『ふぁいお!』

『頑張って下さい』


 私の言葉で応援するコメントが一気に流れる。これを見るといつも頑張ろうとテンションが上がる。それでもダンジョンに罠とか踏まないよう、息を吐いて落ち着かせるとそのまま森へ向かった。

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