竜王様は生贄系ダンジョン配信者に愛でられたい
黒崎ちか
第一章
序章
第1話 真白とダンジョン配信
百五十年くらい前、突然魔物が住む異世界…ーーダンジョンが地球と繋がり、魔物が襲い掛かってきた。
それと同時に一部の人に魔物と対峙する特異な力が発現し、その力で魔物たちを退けた。それが冒険者の始まりだ。
時代に応じて形態が変わり、今は魔衛庁…——魔物防衛庁と言う国の専門省庁の元、魔物の討伐をしている。
私もそんな冒険者の一人。ただ私はそれだけじゃ生活出来ないのでその様子を配信している。なので冒険者兼配信者だ。
国の省庁が管理しているって言っても冒険者全員を賄える程予算は潤沢ではないからね。特に私のような専門学校を卒業して一年も経っていない新米になんてお金をかけられない。
ただそれで冒険者が減るのは困る。だから省庁はスポンサー、ダンジョン配信など冒険者と言う肩書きを営利目的に利用することを許可している。
それにもともと省庁に討伐映像を送らないといけないので、その映像を撮影しながら配信出来るダンジョン配信は駆け出し冒険者にとても重宝されている。
そして今日もこれから討伐兼配信! カメラの最終確認をしてからスマホを開く。
あっ、後二分で時間だ。急いで配信サイトの編集画面を開く、そして配信開始の時間になってから、配信開始のボタンを押した。
「こんにちは。羊川真白です。今日もありがとうございます。今日はゴブリン三百体耐久。よろしくお願いします」
そう言いながら私はドローン型のカメラへ一礼し、すぐに手に持っているスマホを見る。
スマホには私がスマホを見ている映像と右に『こんにちは』や『やぁ』など、この配信を視聴しているリスナーさんのコメントがたくさん流れていた。
「こんにちは。みなさん、今日もありがとうございます」
コメントを見ながら、同接数も確認する。
今日は二百四十二人。ゴブリン耐久だからいつもよりも減るかと思ったけど、いつもと変わらない数だ。
思った以上に来てくれて急に不安になる。配信しているのは私なのはわかっている。
実際配信外でやろうと思っていたけど、新人はどんな配信でもとりあえず配信した方が良いらしい。だからと言ってゴブリンはな……。
ゴブリンは全く画面映えしない。しかも耐久。終わるまで永遠と同じ映像が流れる。再放送どころじゃない。このまま流すのは不安だ。リスナーさんにもう一回言っておこう。
「今日はゴブリン耐久です。よろしくお願いします」
再びカメラに向けて一礼する。自分で面白みがないのはわかっているのに、スマホの画面を見るのが怖い。恐る恐る見ると同接は二百五十九人に増えていた。
『りょ!』
『頑張って』
『こんちわ。間に合った?』
『今、最初の挨拶』
『真白ちゃんを見に来たからどんな内容でもおk』
『ゴブリンは新人のずっ友だから』
『どちらかと言うと300体が心配』
『無理すんなよ!』
『命大事に』
リスナーさんはどちらかと言うと耐久の方を心配してくれているみたいだ。優しいな。
「ありがとうございます。同じ映像が続くので適宜休憩を取ってくださいね」
『草』
『表でやってくれてありがとう』
『配信助かる』
『300はさすがに多すぎる』
『300……』
『なんかあったの? 魔衛庁から禁止されてなかったら教えて』
『300はちょっとハードだしね』
冒険者にダンジョンに関することは普通の人より知っている。だから配信で言ってはいけない事もある。
場合によっては配信が削除されるので大事なルールだ。リスナーさんも知っているので、こうやっていつも聞いてくれる。
本当にリスナーさんにはいつも助けてもらっている。私が新人なのにやらかしが少ないのはリスナーさんのおかげだと思う。
「問題ないです。日本橋ダンジョンにゴブリンが増えているって連絡があったんですよ。ゴブリンがたくさんいたら他の討伐に集中出来そうもないですし、早めに対処しようと思ったんです。後、報奨金を少し割り増しするみたいで臨時ボーナスでお寿司を食べようと思います」
『日本橋は真白ちゃんのホームだしな』
『相変わらず寿司www』
『300匹も倒して、寿司か』
『銀座で食べてくれ』
『報奨金って少ないですよね』
『ゴブリンだしな』
『よし、俺たちも微力ならば』
『財布の紐なら緩めているぜ』
『寿司をおごらせてくれ』
あっ収益化の話になっちゃった。
私のチャンネル登録者数は一万五千人くらいで、収益化の条件はとっくに満たしている。だけど投げ銭が怖いので切っている。収益化記念配信の投げ銭が七十五万……。
一時間そこらの雑談だよ。一時間。一時間で七十五万! これは簡単に受け入れちゃいけない。ありがたけど、恐れ多いし金銭感覚がおかしくなる。
けど討伐収入と動画収益を足しても学生時代のアルバイトと同じくらいで、収益が全くないとそれはそれで生活が厳しいのも確か。
リスナーさんの好意に甘え月九十円のファンクラブを作っている。メンバーは五千人も入ってくれているので、それなりに裕福な生活が出来ている。と言うか十分だ。
「支援はおいおい。それよりもダンジョンに向かいます」
ごまかしながらスマホの画面が撮影がぶれていない事を確認。ちゃんと映像に映っていないと報奨金が貰えないし。
よし、大丈夫。それから再びコメントに視線を移す。
『困ったときはいつでもお姉さんに相談するんだよ』
『通報しました』
『通報しました』
『先越されたw』
『様式美』
『もやし買う前に相談するんだぞ』
通報しましたと言うコメントに最初はびっくりしたけど、段々といつものやりとりになっていた。リスナーさんは皆さんノリがいい。人を選ぶかもしれないけど、私はこの空気が好きだ。
「ふふっ。ありがとうございます。充分に頂いております。これからゴブリン退治に向かいますね」
『いってらー』
『いってらっしゃい』
「行ってきます! これからダンジョンに入りますので、いつも通り乗り物酔いに気をつけて下さい」
『りょ』
『おけ』
コメントを見てから、私はダンジョンの入り口と呼ばれる石に触れる。すると頭の中に『地下1階』、『地下2階』、『地下3階』と頭に浮かぶ。
頭の中に浮かんだ地下2階を選ぶと一瞬視界が暗くなり、目の前には森が広がっていた。
『森なう』
『ゲームの世界みたいだな』
『夢見ているみたいですね』
『凄いよな。ダンジョンに選ばれるって』
『触るのはただの石なのにな』
リスナーさんが目の前の映像を見ながら感想を言うようにコメントをしていた。
「今日もがんばりますね」
『がんば』
『ふぁいお!』
『頑張って下さい』
私の言葉で応援するコメントが一気に流れる。これを見るといつも頑張ろうとテンションが上がる。それでもダンジョンに罠とか踏まないよう、息を吐いて落ち着かせるとそのまま森へ向かった。
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