第5話

理人と陽希は、警備スタッフの格好に着替えて、廊下を進んだ。壁に掛けられた絵画や彫刻が、高級感を醸し出している。絵画に閉じ込められた景色は、よく見るとどれも、この客船が航海中に遭遇した様々な出来事についてのようだ。例えば、嵐に巻き込まれた船が揺れるところや、港に停泊する様子などが描かれている。

「もう少しゆっくり、楽しみたかったんだけどなー。船旅」

「ふふ、陽希は、相変わらずですね。元々、仕事で来たのでしょうに」

理人に本気で笑われてしまった。

それから理人は、「美味しかったですね、ワニのタコス」などという雑談の後、「陽希は何か、水樹の様子を見て、疑っていますか?」と、いつもと変わらぬ優しい口調で言った。

こうやって油断させて、その隙に確信を突くのは理人の得意技だ。探偵としては良いが、同僚に出さないで欲しいと、陽希は思った。取り敢えず、「後でね」と返した。

そうして現場に着くと、事件当時のまま保存されていた。血の池は勿論そのまま、ピアノは大きく損壊し、足が僅かに残るばかりだ。改めて見ても、爆弾そのものが木っ端微塵になったようだったが、一応はそれらしい、破片を持ち帰ることにした。現在の「探偵社アネモネ」には誰も、爆弾の専門家はいないものの、何らかのヒントにはなるかもしれない。

――そう、理人は少なくとも思っていた。

「僕が見てみましょう」

と、水樹が前のめりだったのには驚いた。

「僕は、お前たちが思うよりも少し、こういう機械ものに明るいのですよ」

そんなに爆弾に詳しいのならば、最初に見に行った時に何故言わなかったのか。理人も陽希も目を見合わせて、恐らく同じことを思っていたに違いない。

ややあって、水樹が口を開いた。

「やはり、此処まで粉々になった爆弾から、細かいことまでは分かりませんね」

「そうですか……」

「しかし、構造上、時限爆弾ではないということだけは分かりました」

いつもどおりに、はきはきと。

理人は陽希に視線を送ったが、陽希は非常に難しい顔で、じっと水樹を見ているばかりだった。

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