最強ヒーラー誕生秘話。

存在もしない、少女。

暗くて、寒くて、臭くて、発砲の音がして、口は水分が足りなくて、全身かゆくて、五感すべてが震える。


「ハァ」


息すら苦しい。

泣きたくて目から涙は出ない。

動きたくても動かない。

何もかもが、うまくいかない。

腐っている。


私はダリア。ダリア・イレント。

実際に私はここにいて、名前だってある。覚えてる。

ただ、私は自分が自分を覚えているだけであって、私を知っている、覚えている人なんて、この世にはいない。きっともう死人扱いされている。もはや知っている人なんていないだろう。

実質、存在していない同然で。

怖くて怖くて怖くて怖くて。

寂しくて寂しくて寂しくて寂しくて。

私は本当に人なのか、何者なのか、わからない。


なぜこうなったのか、思い返してみる。




―――最初は、本当に興味本位だった。

大きな通りに時々、裏路地へと続く道がある。

昔から、一人で過ごしている私だが、そこに入ったことがない。

ただ、風の噂で、酷いところ、とだけ聞いていた。

そこに、たまたま昔飼っていたペットに似た猫がいたものだから、つい、追いかけてしまった。

そして、奥に行くと、複数名の声が聞こえてきた。


「……は、この……を焼け払う」

「ははっ、ずいぶ……と大きな犯罪……そう」


一瞬で、やばいと思った。

これは、ゲームなどの話ではなく、リアルの話をしているんだと。

引き返そうとしたが、遅かった。

振り向いた瞬間、視界には黒い影が映って、走りだそうとした私の足は、急に止まらなかった。


「いっ……⁉」


それにぶつかった私は、これまでにないほど目を見開き、恐怖を目の当たりにしていた。


「あ?なぁ、こいつ誰?」


突然、私がぶつかったその人が、先ほどの人たちに声をかけた。


「あっ、帰ってたんだー。その子?知らないな。もしかして、話、聞いてたりして?」

「まじかよ。こりゃ始末しないと」


始末。

その言葉に全身ブルっと震えた。


「あ、あの、わた、私、ほとんど何も聞いていません……っ!」

「ほとんど?」

「……………」


睨まれて、押し黙る。


「おい、こいつを処分しろ」

「まっ、待って……⁉」


その瞬間、私の意識は途絶え、気が付けばこの檻の中にいた。




そして、リーダーの気が変わったのだろうか。

一日、一回、パン0.5~2枚とコップに水を満タンにしてを置いていくことがある。今生きているだけでも奇跡だ。

それから1か月くらい経っただろうか。時々日光に当たれるくらいなものだから、よくわからない。

町では、私を知っている人など、ご近所さんくらいだろうか。マンションだから、余計にかかわりも少ない。なので、恐らく私が行方不明になっていることに気が付いているひとは今のところいないだろう。

そうして、その日は目を閉じた。



朝、目が覚めると、全身が包まれるような、懐かしいような、温かかった。


「あっ、起きたっ」

「……ぅ」


目を開くと、日光が眩しかった。

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