超期待された超人気ゲーム新作の公開生配信に招待された超人気Vtuberの俺。実はそのゲーム、世紀末級の超クソゲーでした

kayako

第1話 断頭台という名の公式生配信


 俺はチャンネル登録者数約50万人超の人気Vtuber、里見ギンタ。

 大手事務所「ごじライブっ!」に所属しつつ、毎日毎日ゲームやらダンスやら歌やら料理やら、様々な配信で身体を張りまくって頑張っている。

 おかげさまで今日も順調に、チャンネル登録者数もスパチャも伸びている。ありがたいことだ。


 ちなみに俺のVtuberとしてのモデル、いわゆる「ガワ」は、イケメン長身リーマンが眼鏡をかけたような感じ。眼はクール系の切れ長で瞳は灰色だが、時々可愛らしく見開いたりも出来る。

 ただ他と若干違うのは、頭にペンギンの被り物をしている点だ。そしてコスチュームも黒い執事服。両袖に翼的な黒いヒラヒラもついてるし、全体的にペンギンぽく見える。

 そう、何を隠そう俺は元々、ペンギン執事。勤め先がブラック過ぎて過労が祟った結果、人間もといVtuberに転生した(という設定だ)。

 ペンギン執事って何だとは聞くな。そういう設定だ。



 そしてこの俺は――超が複数ついてもいいレベルのゲーム好きである。

 そもそもゲーム配信メインで活動するVtuberは、相当のゲーム好きでなきゃ絶対に務まらんが、俺はその中でも無類のゲーム好き!という自負がある。

 深夜から早朝まで、ぶっ続けの10時間配信なんか当たり前。

 ゲーム自体も隅から隅まで攻略するなんて当然。

 マルチエンディングのゲームなら全ルート制覇は当然。

 ハードモードがあればそちらを優先してやりこむのは日常茶飯事。

 中には「××縛り」「××使用禁止」などのプレイ制限を課しながらの配信を敢行したことも結構あるし、RTAに挑戦したことさえある。

 実際、ゲーム愛を滅茶苦茶感じる!とファンからも評判で、同性たる男子からのウケもなかなか良い。男女分け隔てなくファンが集まっているというのはありがたい。


 中でも、俺が特に好きなゲームシリーズがある。

 超大手ゲーム会社・スエ天ゲームズが生み出した「ファイナルキングダム」という、かれこれ30年近く続く超人気RPGシリーズだ。

 ナンバリングは既に10作を超え、派生作品となるとどれだけあるやら数えきれない。

 当然俺はナンバリングも派生作品も全作プレイし、全てじっくり堪能しながらクリアした。


 そのシリーズの新作が、つい先日発売された。

 新作発表から数年。待たされに待たされた挙句、ようやく発売された待望の新作。

 そして俺にはさらに、願ってもない吉報が舞い込んできた。

 この超人気ゲームシリーズ最新作「ファイナルキングダム13」。その発売1週間後の公式生配信に、なんとこの俺、里見ギンタがゲストとして招待されたのである!!



《……というわけで、里見さんには生配信中、他のゲストの方々とちょっとしたミニゲームをやっていただきます。

 なので事前に、ある程度ゲームをプレイしておいていただきたく……》


 そんなスエ天ゲームズ担当者の言葉に、俺は一にも二にもなく回答していた。


「はいっ!

 はいはい、勿論!! 俺で良ければ、是非ともやらせていただきます!

 なんなら案件とか関係なく、全ルートをエンディングまでプレイしてバッチリ配信させていただきますよ~!!」

《あ~……

 あぁ、そうですか。それは是非に……》


 何故か若干淀む、担当者の声。


「あぁ、さすがにエンディングまでの配信はやめてほしいとかですかね?」

《そ、そうですね。配信禁止ゾーンも設定されていますので、その部分の配信はご遠慮いただいて……

 それから公式生放送の日まで、出来ればこのゲームの配信もご遠慮いただけると……》


 相手の歯切れが妙に悪いのが気になったが、逆に俺の期待は猛然と高まった。

 発売直後から配信出来ないのは残念だが、こればかりは仕方がない。

 絶対面白いストーリーだろうし、早いうちのネタバレはやめてほしいということなんだろう。絶対そうだ、間違いない! 


「わっかりました!

 またあの壮大なストーリーと魅力的なキャラクターと刺激的なバトル、たっぷり楽しませていただきますよ~!!」




 そしていよいよ、運命の発売日。

 俺は当然、日付が変わると同時にゲームをダウンロード。ウッキウキのウキでゲームを開始し




 ――数時間後。

 俺は奈落の底も底、この世のどん底まで叩き落とされていた。




 壮大なストーリー? 魅力的なキャラクター? 刺激的なバトル?

 何をほざいていたんだ俺は。そんなものは――

 この「ファイナルクソゲーキングダム」には、一切合切存在しなかった!!



「な……何故だ……

 何故、俺の大好きだったあの『ファイナルキングダム』が……

 こんなクソゲーになっちまったぁあぁああぁあ!!!???」



 澄み切った空にお日様が昇る朝、響き渡った俺の絶叫。

 これはクソゲーだ。数時間プレイしただけでも分かる、こいつは紛れもなく世紀末級のクソゲーだ。

 グラフィック以外褒めるところがない凡ゲーだとか、声優が芸能人で棒読みとか、そんなチャチなもんじゃねぇ。


 俺は衝撃のあまり、気が付いたらこのクソゲー要素を箇条書きにしてしまっていた。



 ・これまではアクション要素もちょっとあるコマンドRPG、だったはずが完全にアクションRPGに。

 それだけならまだしも、当たり判定がこちらに厳しすぎて敵に甘すぎる最悪の難易度。難易度設定? ねーよ。

 ・UIが非常に悪い。一つのボタンに役割を集中させすぎて操作ミスが多くなる

 ・カメラがかなり悪く、ゲーム慣れしているはずの俺でさえ酔う。多分ライト層はメッチャ酔う!

 ・背景技術が悪すぎて、歩ける地面と崖との境目が分かりにくい。結果、何度も落下死

 ・せっかくレベルが上がっても、次のステージになると容赦なくレベルリセット。マニュアルによれば、プレイヤー自身のレベルを上げていこう!だそうで

 ・武器や装備が全員固定。剣や鎧を買ったり集めたり改造したりする楽しみがゼロ。装備の強化は殆ど固定イベントで行われますので初心者も安心♪

 ・散策できる町や村がない。勿論宿屋もない。フィールドを適当に歩いたらイベントが始まるだけ

 ・そもそも歩き回れるフィールド自体が少ない。ちょっと歩くとすぐイベントが始まり、そのイベントもムービーは滅多になく、だいたい立ち絵のキャラが出たり入ったりして口パクするだけ

 ・適度に寄り道♪レベル上げ♪的な行動も殆ど出来ず、ストーリーのみならず行動自体もほぼ全て一本道になってしまう。このシリーズ、マルチエンディングの作品もあったはずだよな……?

 ・長めのムービーに入ると高確率でフリーズ。大き目のギミックが存在するステージだと歩いてるだけでフリーズすることもあったし、特定の武器を特定の仲間が使うとそれだけで何故かフリーズなど、結構な氷結地獄


 などなど、操作面システム面でのクソさだけでも枚挙にいとまがない。

 美麗なグラフィックにムービー、表情豊かなキャラ、バラエティに富んだ育成が魅力的なシリーズだったはずなのに……

 その殆どが立ち絵口パクになったのは衝撃すぎた。ゲーム性をあげる為というならまだしも、そのゲーム性さえ上記の通り終わってるのだから酷すぎる。

 しかしさらに問題なのはストーリーだ。



 ・ぽっと出の、しかも容姿微妙なサブの女術師が聖女ヒロインの出番を奪っていき、中盤までもたずに聖女ヒロインはパーティから脱落。主人公と並んでパッケージのド真ん中にいたの聖女ヒロインだろ!!

 ・実は女術師は主人公と同じく勇者の血を引いていました(伏線ゼロ)

 ・その女術師はパーティ内でのステータスは最弱

 ・なのに強制的に連れ歩かなければいけない場面が多すぎて、足を引っ張りまくる。女術師の術が弱すぎて反撃喰らって全滅なんて当たり前

 ・にも関わらずストーリー上では何故か「女術師様最強!」「女術師様カワイイ! カッコイイ! 神!!」などともてはやされる



 要するに、かなりの高確率でいわゆる萌えダメ案件。プロデューサーか何かのお偉方に、中の人推しがいたのか。

 ……って、そんなことはどうでもいい。



 こいつはクソゲーだ!と叫ぶだけで済むなら、まだ良かった。まだずっと良かった。

 だが、俺は――

 発売数日後の、公式生配信に、呼ばれちまってるんだぞ!!?

 誰がどう見ても間違いなくクソゲーと呼ぶであろうこのクソゲーの、生放送に!!



 俺はコントローラーを放り投げると。

 同じVtuberで友人のユキナオ・ファシリティースに電話していた。

 事務所の同期で、同じくゲーム好き。しかも同じような眼鏡イケメン。

 デビュー当時は俺とキャラ被りが心配されたが、俺が多少ガサツでオタクな面が目立つ執事であるのに対し、ユキナオは可愛らしい狐耳と尻尾が売り。そして常に柔らかで丁寧な敬語、だがたまに毒舌も吐く英国紳士風キャラとして、順調に女性ファンを増やしている。

 ちなみに設定は「英国紳士に憧れた狐が転生した」らしい。


 当然、俺と一緒にゲーム配信することも多く、気の置けない友達。

 そんなユキナオの反応は。


「……というわけでさ。

 どうしたらいいと思う?」

《とっととマネージャー呼びましょうよ》

「とっくにLIMEしたけど、今からじゃさすがにもう断れないって」

《ご愁傷様です》

「き、切るなぁ! 切らないでくれぇ~!!」

《じゃあもう当日、お腹痛めたと言って欠席しません?》

「小学生か」

《というかそれぐらいやっても、みんな許してくれるでしょ。この出来は》


 どうやらユキナオも、俺とほぼ同時にこのクソゲーをプレイしたらしい。

 当然このクソゲーぶりも分かっている。俺以上に。


「何でこうなった……何であの、世界に誇るゲームシリーズが……

 どうしてここまで堕ちた……ッ!?」

《全く同感です。

 最近のスエ天ゲームズは地雷が多いから、気にはなっていたんですが》


 そんなユキナオの冷静なイケボを耳にしながら、俺は改めてこの現実超クソゲーに向き直る。

 一体どうしてくれようか……


「というかさ~

 宝箱が目の前にあるのに、何やってもウンともスンとも言わないの、どう思う?」

《あぁ、それなら右スティック押し込みで開けられますよ》

「は? んなこと、チュートリアルのどこにも書いてないけど」

《開いた瞬間ルーレットが出てきて、目押し成功すればいいアイテムもらえます》

「何でルーレット?」

《気を付けてくださいね、失敗すると爆発しますから。僕それで10回は死にました》

「マジ何なんだこのクソゲー!!」


 絶望のあまり、通話しながら台パンかます俺。

 どうする。どうすりゃいいんだ。

 あと数日もすれば、俺はこのクソゲーの生放送に呼ばれる。断ることも出来やしない。

 断頭台に立たされるも同然なんですけど!!?

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