【実録】シーカヤック遭難
蜂蜜ひみつ
第1話 陸にて
その夏、二年ちょい頑張ってきた会社勤めから私は足を洗った。
夏のボーナスを軍資金に、ダイビング器材とテントと寝袋を担いで、沖縄八島を巡る一人旅にいざ出発!
叔父さんの友達が別荘として持っている本島のマンションを皮切りに、三箇所が「キョウ
なんのことはない、「恐縮です」と
次の長期キョウシュク先は以前
まあ対価にガッツリ勤労しますが。
その次の南大東島はダイビングの先輩のバイト先で、潜ってみたかったのだが、台風で渡航を断念。
「そんなとこ行かないでここにいたらいいさぁ」と、そのまま慶良間に居候延長となった。
お次の移動先は八重山諸島で、
そしてゴールはこれまた昔拾ってもらって居候していた日本最西端の島、与那国で長期キョウシュク予定。
西表島では、後半に宿とダイビングショップへしっかり事前予約を入れており、前半はフリーにしてあった。
あんまりぎっちり予定を組んでも、天候次第で飛行機やフェリーが欠航して、その通りにはいかないからだ。
ただ昨日までの段階で、電話にて宿をちゃんと押さえてある。
なぜなら小さな離島には、港や空港周辺に宿はなく、集落までのバスが便利に来るとは全く限らない。
タクシーもレンタカーも数台しか存在せず、予約なしでは移動手段が徒歩のみ、だったりもする。
基本的に、予約した宿の人が迎えに来て、ピックアップするシステムが離島の暗黙の了解。
行き当たりばったりで島にやって来たものの、その場でぽつねん途方に暮れる、なんてのは大いにありうる。
実際、宿をやっている島民と漁業者のネットワークで「港に人が残ってるらしい、どうすっか? お前んとこどうだ?」なんて連絡しあってるのも知っている。
さて、石垣島よりフェリーから降り立った
うう、私のお迎えが来ない……待ちぼうけをくらう。
島には港が二つあるのだが、こちらのほうが宿が少ない。
八重山情報のみ載ってる、当時は沖縄でしか見たことがないガイドブックの、掲載情報の上から2宿目まで順に断られた。
三宿目電話をかけたとこは、爆安素泊まり宿で、金額と電話番号、住所以外の情報がゼロで何も書かれてない。
正直そんな宿は、ガイドブックにほぼ載っていない。
そして前日にも関わらず、あっけないほどすんなり予約がとれた。
名前とフェリー日時と宿泊数しか聞かれない気安さだったが、本当に大丈夫か?
そして港に誰もいなくなってしまい、不安がピークになった頃、やっと現れたのは徒歩のおっちゃん。
説明を聞くと、この島に船を持つ漁業者・船長さんで、港の目と鼻の先にある自宅離れを改築して素泊まり宿を始めたばっかり。
私が客二人目だそうだ。
遅れてすまないと荷物を持ってくれて、宿へと移動した。
素泊まり宿とは、ご飯なしで泊まるだけのところ。
お布団はなく、長いゴザみたいなので寝るらしい、なんとも沖縄的。
新築で綺麗で、さらに冷房もコイン式ではなくフリーでこの値段。
うん、大当たりだ、豪気な船長さんである。
翌朝は、『マングローブの森探索カヤックツアー』の集合場所まで船長が車で送ってくれた。
川西さんという人が一人でやっているガイドショップに、昨日電話で予約を入れていたのだ。
その日のツアー参加者の内訳は、私のような一人旅をしているのが二人、あとは二人連れが二組だった。
一人旅の、フリーターのミカちゃん(年上)、高校一年生の男の子シュウ、とはすぐに仲良くなった。
彼らはたまたま泊まっている宿が同じで、その民宿のおじさんに参加を勧められたとのこと。
他の二組、女子中学生とその母親のペア、OLさんぽい女性二人のペアとは、普通にちょこっと世間話をしたぐらい。
ガイドの川西さんが用意した昼食をツアー途中で食べ、午後の探索も終わって二時頃。
「今日はみんな上手で早めに終わったし、天気も良いからこのまま海に遊びに連れてってあげようか?」
と、川西さんがサービス提案をしてくれた。
私を含め、みんな大喜びである。
こんな風にお客さん同士が和気あいあいとし、レベルも揃っていて、なおかつガイドの自分を慕ってくれている日。
私はダイビングのアシスタントの経験があるので、川西さんの気持ちがよく分かる。
彼は今日に限らず、条件と気分が重なると極たまにそんな風にサービスすることもあるそうだ。
根っからこのお仕事が好きなんだなあ、と私は思った。
このツアーで使用しているのは一人
カヤック内部のシートに座るために重心は低くなり、水面と乗り手の位置が近いので、水鳥の視線と呼ばれたりするそうな。
直進性に優れ、船幅がやや狭く長さが結構ある。
長い棒の先端の左右にはブレードがついていて、このパドルで
また船内の足元にはペダルがあって、あらかじめ各々の脚の長さに合わせて調節しておく。
ペダルは、カヤックの進路を変更する際の舵である、船尾についているラダーと直結している。
実際やってみると初心者にとって、パドルのみでの舵取りは、左右利き腕の腕力差もあるのでなかなか難しかった。
ついつい進行方向が曲がっていく。
そして足で踏むだけのラダーはとても便利で、方向補正に大いに役に立った。
ということで、これは元々海で使われるカヤック。
みんなで協力して、軽トラック後ろの牽引トレラーに積み込み、海へと向かった。
私の滞在する港に戻るように進路を取り、港を通り過ぎて西へと向かう。
『日本最南端のバス停』がある小さな集落を超え、さらにその先。
ぽつりぽつりと民家があるようなないような、県道沿いの寂しい場所に川西さん家はあった。
川西さんは奥さんに海に向かうことを告げ、私たちもトラックの荷台から挨拶した。
すぐに県道が終わり、さらに海沿いの細い道を数キロ進んだところにある、島最西端の、ほとんど人の来ないビーチに到着。
遠浅で静かな場所、二キロにも渡り横に広がっているそうだ。
みんなでまた手分けをしてシーカヤックを砂浜に降ろした。
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