大きな猫になりたいと願ったらキマイラに転生しました。
花見だんご
第1話この度、転生します。
その黄金色が顕現したとき、人々は安堵した。
それが神にも匹敵する存在だと知っていたから。
魔物は怯えた。
それが自分達では決して、抗えぬ存在だと理解していたから。
そして、この場にいる全てのものの関心の的
《キマイラ》は、瞳に憂いを帯びて咆哮した。
おっきな猫になりたいとは言ったけど、
何も魔物じゃなくても良くない?
と…。
時は、このキマイラがまだ人間であった頃に遡る。
私は、今日珍しく定時で帰ることができたため、行きつけの猫カフェに来ていた。
にゃおーん。
足元を見ると何かを求めるような目でクリーム色の塊がこちらを見上げていた。
看板猫のマロンちゃん(♂)である。
手に持っていた猫用のおやつを渡すと嬉しそうに食べ始めた。
くぅ~、癒される。
昔から猫が大好きだった。
フワフワの毛、柔らかい身体
きゅるんきゅるんな愛らしい瞳、自由な気質
どれをとっても愛らしさしかない。
できれば、自宅で猫を飼いたいが、私の安月給ではペット可のマンションなど夢のまた夢…。
あれこれ考えているうちにマロンちゃんは、おやつを食べ終えたようで、もう興味は無いとばかりに、ゆったりとした足取りで行ってしまった。そんなところも愛らしい。
時刻を確認すると閉店時間が近づいていた。
そろそろ、帰ろう…。
ありがとうございました~。
またのご来店をお待ちしております。
チリン、チリン
夢の時間が終ってしまった。
とぼとぼと帰路につく。
あぁ、明日も会社か、働きたくないな。
宝くじでも当たらないかな、などと考えながら家へと歩く。
その時、女性の声が耳に入った。
ねぇ、あれ危なくない?
女性の視線の先を見ると丁度、猫が車道へ飛び出したところだった。猫に向かって車が迫っている。その時、身体が勝手に動いていた。
道へ飛び出し、体勢を崩しながら猫を抱える。
身体に衝撃がはしり、咄嗟の行動って頭より身体が先に動くって本当なんだなんて、考えていると意識が途切れた。
もし、もし…
その声に目を開けると20代前半くらいの綺麗な女性が顔を覗き込んでいた。何度か瞬きをして、辺りを見回してみる。地面に寝転んでいたようだ。不思議と身体は痛くない。先程のことは、もしかして夢だったのではとぼーっと考えていると再び声がかけられた。
あぁ、良かった!
気が付かれたのですね!
女性に視線を向ける。
…コスプレの人かな?
髪と目は藤色で、同じ色の猫耳としっぽを付けている。衣装?は白を基調としていて、薄いベールを全身に纏い、踊り子というか女神風というかなかなかに気合いが入っている。
もう一度、辺りを見回して確認するが先程いた帰り道ではない。助けた猫もいそうにない。
親切な方、わたくしは自由と癒しの女神メヴィーナと申します。
此度は猫、つまり、わたくしの眷属を助けて頂き、ありがとうございました。
申し訳ありません、明日も会社なのでお付き合いできません。
女は女神メヴィーナと名乗る人物の言葉を遮り、頭を下げて言い放った。
は?
あの、何か勘違いをなされているようですが、
わたくしは、ただ眷属を助けていただいたお礼を…
すみません、先ほど申し上げた通り明日も会社なので、女神(笑)、眷属(笑)とか
今は勘弁して頂きたいというか。
休みの前日とかならいいんですけど…。
女は申し訳なさそうにメヴィーナへ言った。
そこでメヴィーナは、女にまったく相手にされていないことを理解し、その白い肌を怒りで赤く染めた。怒りで身体もプルプル震えている。
メヴィーナは気分を落ち着けるように大きく息を吐いた。
はぁー、馬鹿らしい!
もう、猫を被るのはやめじゃ!やめじゃ!
あぁ、猫だけに…?
うるさーい!
最近の若いもんは、口ばっかり達者になってきておる!この前、転生させたやつもあーだ、こーだと屁理屈ばっかりこねよってからに!
あーあ、嘆かわしいことじゃ!
おぬしの世界の人間は、麗しい女神に誘われ異世界に転生することを夢見ていると聞いておったから、取り計らってやったにすぎぬ!
なのに、おぬしときたら、わしを馬鹿にしおってー!女神をなんだと思っておるのじゃ!
無礼じゃ!不敬じゃ!失礼じゃ!
女は思った。初対面の人間に対してあんまりな評価かもしれないが本当に面倒なやつに捕まったなと。
メヴィーナは一通り叫び終ると調子を整えるようにコホンと咳払いをした。
核心的な部分は今言ってしまったがの。
おぬしは、我が眷属を助けた際に死んでしまったのじゃ。それを不憫に思ったわしがの、眷属を助けた礼として異世界に転生させてやることにしたのじゃ。ちなみに、おぬしが助けた眷属は悠々自適に暮らしておる。
メヴィーナがどうだ、敬え、感謝しろとばかりに胸を張る。
そうですか、猫ちゃんは無事ですか。
良かったです。お教え頂いて、ありがとうございました。それでは、私は明日も早いので、そろそろお暇します。恐れ入りますが、駅方面の道をお教え頂いてもよろしいでしょうか?
おぬし、わしがこれだけ言うても信じぬのか!?ふん、ではこれでどうじゃ!
メヴィーナが手をかざすと、脳内に映像が映し出された。それは、女が死んだ後の様子だった。破れた服、血まみれの身体、あり得ない方向に曲がった手足、ボロボロではあったがそれは確かに女自身であった。
衝撃でか女の身体がふらつく。
どうじゃ?
これで、信じられたじゃ、ろ…?
満足そうにメヴィーナが女を見ると顔をうつむかせ、肩を震わせていた。
メヴィーナはギョッと目を見張る。
ど、どうした?
死んだのがそんなにショックだったのか?
悪かった!わしもムキになりすぎた!
しかし、生き物は遅かれ早かれ死ぬものじゃぞ?しかも、我が眷属を助けて死んだのだから、人間の誇りじゃぞ?
メヴィーナがオロオロと狼狽えていると、女は口を開いた。
転生って、記憶はそのままにできるんですか…?
あ、ああ、記憶や人格はおぬしのまま、身体はわしの眷属になるが、容姿や能力はある程度、お前の望むようにしてやれるぞ。
転生先の世界は…?
残念ながら、おぬしのもとの世界は、別の神が統治しているので転生することはできぬ。わしが治めている世界に転生することになる。まぁ、なに、そんなに心配することはない。おぬしたちの世界で言うところの「あーるぴーじー」のような剣と魔法の世界じゃ。
女は、さらに肩を震わせて答える。
そうですか、だったら猫…身体は猫がいいです。昔から生まれ変わるなら猫になりたいと思っていたので…。
メヴィーナは、それを聞いて気を良くした。
自ら眷属になりたいなど、なんて殊勝な心の持ち主だと。
わかった。その願い聞き入れようぞ。
他になにか要望はあるか?
女は、ばっと顔を上げメヴィーナの言葉をまたもや遮った。
そうですか、じゃあ…。
猫ちゃんの身体のサイズは大きめでお願いします。あと、毛色は薄めの茶の単一色で。三毛とかハチワレとか、どれも可愛いし、素晴らしいし、尊いので捨てがたいけど、やっぱり薄茶色でお願いします。お日様に照らされると金色の綿毛みたいでそのフワフワのお腹に顔を埋めて吸わして頂けたら、それだけでもう、
ありがとうございます、一週間がんばります、みたいな。ここは天国かな?天国だったわ、再確認したわ、みたいな。あぁ、神様、猫ちゃんをこの世に存在させてくれてありがとうございます、だけど、むしろ猫ちゃんが神様なのでは??みたいな。なので、大きめな薄茶色の猫ちゃんでお願いします。
女は一息で言い切った。
女は興味のあることについては、饒舌なタイプだった。
そ、そうか。大きな茶色の猫だな。
わかった。その通りにしようぞ。
その他、能力などはどのようにする?
能力は、人間と意思の疎通ができるようにしてください。あと、寿命とかはお任せしますが、死因は事故や病気ではなく天寿を全うしたいので、ある程度自衛できる能力と回復魔法を授けてください。
わかった。そのように取り計らおうぞ。
では、これからの生を楽しむにあたり、わし自らありがたーい《ちゅーとりある》を…
それと、飲み食いに苦労はしたくないのでお金持ちでお願いします。あと、先程の魔法の話ですが発動するための魔力は、無限かつ自動回復付きでお願いします。
そ、そうか、わかった。
それでは、わしの話を…
他には、空を飛べるようにしてもらいたいです。昔から猫ちゃんが空を飛ぶのを見るのが夢だったんですよー。だって、可愛くないですか?猫ちゃんが空を飛んでたら日がな一日、空を見ている自信があります。
わしの話を…
そういえば、小さい頃一番好きだったアニメも猫が空を飛んでたなー。正確には猫が空を飛んでいたんではなく、魔女と一緒にホウキに乗って空を飛んでいたんですけど。
わしの…
あぁ、懐かしいな。その猫が付けていた鈴が可愛くて誕生日にお母さんに買ってもらったっけ。とういわけで、鈴とか付けてもらえますか?やっぱり、猫に鈴は必要不可欠かなと。
女は存外ふてぶてしかった。
他には、そうですね。
生まれる場所は…
ええい!
いい加減にせい!とっとと転生せんか!
メヴィーナが大きく手をかざすと女がその場から消えた。メヴィーナの欠点は少々短気なところだ。
あ、しまった。
魔法やスキルの発動方法を伝えるのを忘れてしもうたな。まぁ、習うより慣れろ、というしな。問題なかろう。
女の波乱が確定した瞬間だった。
かくして、女は転生した。
女の要求を加味した結果と女神メヴィーナの猫の範囲が多少広かったゆえ、キマイラへと。
この後、女は自分の容姿を確認して疑問を持つことになる。
なんか、前足でかくない?…と。
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