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 冬の剪定が終わると、新芽の季節となる。

 そしてブドウの木が芽吹く頃になると、侯爵家の庭にも春が訪れる。

 温かい日が多くなり、昼間はその陽気に誘われて庭の四阿へ行くことも多くなった。

 この日もマリは料理人にせがんでピクニック用の料理を用意させ、ロジェを連れ出していた。


「春休みに宿題はないの?」

「大丈夫です。もう終わらせました」


 大きなバスケットを片手にマリは大仰に驚いた。


「本当? ロジェって本当に賢いね」


 勉強のことを褒めてくれても、マリはバスケットをロジェには持たせてくれなかった。ロジェにはまだ重いからと言って、マリがメイド長に持たされた日傘しか持たせなかったのだ。


「三週間も学校が休みだったら、わたしなら絶対さぼってる」

「毎日ブドウ畑に通っているのは、勉強ではないのですか?」

「あれはわたしの好きなこと!」


 好きなことなら毎日やれるというのは、なんだかマリらしい。

 マリと話す内容は他愛のないことばかりだ。花壇で咲いていた花のこと、雨上がりに見た虹のこと、午後のお茶の時間に出たおやつを隠し持っていて、夜に食べていてところをベッドメイクに来たメイド長に叱られたこと。

 メイド長は先代の頃から仕えている古参の使用人だ。ロジェも彼女から未だに坊ちゃんと呼ばれて頭が上がらない。


「夜中にお腹が空いたのなら、それこそメイドに言えばいいのでは?」


 多少の小言はもらうかもしれないが、隠れて食べるよりは叱られないはずだ。


 ロジェの提案にマリは「分かってないなぁ」と笑う。


「隠れて食べるのが美味しいんだよ」


 マリを護衛していた騎士はさぞ手を焼いていたに違いない。



 

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