コールドスリープ勇者

大隅 スミヲ

第1話 よみがえりし、魔王

 さかのぼること300年前。この地には魔族という種族がはびこっていました。

 その魔族を束ねていた魔族の王サタナ、すなわち魔王は自分たちの土地だけでは飽き足らず、人々が治める土地を奪おうと侵略をしてきたのです。


 時の王であったモナルカは、魔族たちから人間の土地を守るために戦うことを決意し、魔王討伐軍を立ち上げました。そして、その討伐軍の中でも、もっとも勇気のある者であったチェーロという青年に、モナルカ王は勇者としての称号と王家に伝わる剣を与え、魔王を倒すように命じたのです。


 勇者チェーロは、魔法使いであるエルフ族、戦士であるドワーフ族、賢者と名高い宮廷魔術師と共に魔王を打ち破るための旅に出ました。

 各地で暴れまわっている魔族たちを次々と破った勇者チェーロ一行は、ついに魔王を追い詰めます。最終決戦の場所となったのは、魔王の城と呼ばれる古城でした。この城は、かなり昔から存在している城であり、古い歴史はよくわかってはいません。

 そんな古城で勇者チェーロ一行を迎え撃つ魔王サタナ。勇者たちと魔王はかなり激しい戦いを繰り広げました。


 魔族というものには、死という概念がありません。魔族はその力が尽きると、身体が崩壊して消えていくのです。ただ、魔王は不死の力を手に入れていました。なので、魔王の身体は崩壊することは無かったのです。

 勇者チェーロは魔王との戦いで、魔王を三度殺しましたが、そのたびに魔王は蘇りました。そのため、勇者チェーロは魔王を封印することにしたのです。魔王を封印するための力、それは王より与えられた伝説の剣に秘められていました。


 そして、勇者チェーロは仲間たちと力を合わせ、魔王サタナを封印したのです。

 封印された魔王サタナは、誰も知らない場所にそっと閉じ込められました。魔王が封印された場所については、チェーロたち以外に誰も知らないのです――――。



「これがいまから300年前の話。これは物語の前日譚です」

「え、いまので終わりじゃないのか」

「いえ。ここからが本題です。しっかりと聞いてください、陛下」


 若い女官は銀色の長い髪をかき上げるようにしながらいうと、じっと若き王の目を見た。

 女官はエルフ族であった。髪の間から横に伸びた長い耳が特徴的である。

 彼女のことを見た目で若いと判断するが、実際の年齢は400歳を超えているとの話だった。400歳は人間からすれば、驚くべき年齢ではあるが、エルフ族からすれば若いともいえるそうだ。


 この世界でのエルフ族の寿命は1000年以上と言われているが、若き王はこの女官以外にエルフ族の者を見たことが無かった。それもそのはずである、エルフ族は現在、数えるほどしかいない希少人種族なのである。エルフ族は長く生きる代わりに生殖活動がとても低い種族であった。


「あと、どのくらい続くんだ、この話は」

「そうですね……なるべく、手短に終わらせます」

「エルフ族の手短というのは、どのくらい短いんだ。10年かかる話だったら、困るぞ」


 若き王は笑って見せたが、エルフの女官は無表情のまま王のことをみつめていた。



「伝令、伝令っ!」


 城内をひとりの男が走っていた。通常であれば、城内で走ることは禁止事項になっており、これに触れるとそれなりの懲罰を与えられる。

 しかし、男は場内を走ることを許されていた。彼は通信兵と呼ばれる職務に就く兵士であり、伝令がある時はいかなる場合であっても、城内を走ることを許されているのだ。


「伝令、伝令っ!」


 通信兵は自分が走ることを許された通信兵であるということを周りに知らせるために「伝令」という言葉を発しながら走るのである。この声を聞いた者は、通信兵のことをみだりに立ち止まらせることなどをしてはならないという法も定められていた。


「伝令、伝令っ!」

「何事じゃ。申せ」


 通信兵が駆けこんだ部屋にいた年老いた文官が通信兵を抱きとめるようにすると、そう告げて、水を与えた。

 水をひと口飲んだ通信兵は、文官に伝令の内容を伝える。


「西の峠にて、魔族が複数目撃されたとのこと。略奪の対象となった村もあるようです」

「なんと……。すぐに陛下に伝えなければ」


 文官はそう言うと、通信兵を連れて、王の執務室へと向かった。

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