間章・村のNPC達⑤

君達がリゾート満喫したりシャケをしばいている時の話

これはただの読み物だ。暇なひとが暇なときに読むといい。



3日前、深夜、村の南側にて


スミロス(以下鍛)「おい、デカいの。いないか」

ドレイクバロン(以下将)「…随分気安く来るじゃあないか。慣れ合いはゴメンさね」

鍛「諦めろ。俺も人付き合いは苦手だが、水妖はそんなもん気にせんぞ。それにお前、村長と仲良く修練してたじゃねぇか」

将「チッ、面倒なことを…で、何用さね」

鍛「剣の調子を確認しろ。先に一つ言っておくが、俺は何の制限も掛けちゃいない。詳しくは見てからだ」

将「ん? 特に変わった点は見えんけど…んなっ、なんでっ!」

鍛「やはりか」

将「お前、ウチの剣に何を!!」

鍛「掴むな。だから、なにもしてない。明らかに魔晶の力が治まっていたんでな、確認しただけだ。外的要因だろう」

将「だろう、じゃないさね!今すぐ切り刻んで…!」

鍛「待て。恐らく、この村から出れば元に戻る。空ならばよりマシだろうな。心配なら今すぐ飛んでいけ」

将「!? この、ロシェに手ぇ出したらあかんよ!!」

(ドレイクバロン、反転し外へ駆けていく。数分後、普通に歩いて戻ってくる)

将「…言う通り、使えたわ。すこぶるチョーシも良かったさね、お前さんの仕掛けかい?」

鍛「当然だ、誰の調整だと思ってる。そしてやはり、原因はこの土地か」

将「土地、って。"チャージスポット"、魔力が異常に高い土地なら、逆に冴え渡りそうなもんやないか。…今もココ来たら魔剣の力、完全に塞がってるさね」

鍛「その剣はディアボロから直接受け取った魔晶を取り入れたんだな。であれば恐らく、影響を受けるのは"奈落"の力だ」

将「"奈落"…」

鍛「今、冒険者に頼まれてアビスシャードを用いた剣強化をやってんだが、何をやっても村の中じゃまるで機能しない。失敗したかと思って何度もシャード入れ直して、真っ黒な剣になってな、これが村の外じゃとんでもない呪を引き寄せるから封印せざるを得なくなっちまった。だがこの村じゃあ何も起きねぇ。これはと思って、お前のトコに来たわけだ。」

将「はっ、実験体かいな。けんど、これで納得したわ、ロシェがココに来てなんであんな温厚になったんかが。"奈落"の力、ごっそりそがれてもうたんやな。…可哀想に。」

鍛「…お前、思ってないな。あの幼子、やはりディアボロか。穢れの強いナイトメアとか言ってたな。」

将「とっくに気付いてたくせに。なんや、文句でもあんのかい?」

鍛「まぁ、普通に考えれば正気の沙汰じゃない。ドレイクはまだしも、人族と共に過ごすディアボロ族など聞いた事がない。あれらとの相互理解は不可能だと言われてる。」

将「ふん、そんな奴らを村に置いて、仲良く話しかけるあんたらの方が、ウチは理解できんさね。」

鍛「全くだ。俺も気が知れたか。とにかく、その剣は村ん中じゃただのボンクラだ。いや、俺が精錬した分切れ味は抜群だがな。それを覚えておけ、なにかあった時戸惑われても困る。」

将「はいはい、お前サマに感謝しておくさね。全く、そう何か起こる事もあるまいに…」



2日前、昼間、温泉前にて


ススム(以下進)「掘って~掘って~また掘って~っと、あれ、エッダさん。温泉かい?」

エッダ(以下エ)「あらススムさん、こんにちは。上にいるなんて珍しいねぇ。温泉に浸けといた卵を取りに来たのよ、そうすると凄く美味しくなるってアクシズちゃんから聞いて。」

進「へー、卵。そんな使い道もあるんだ。エッダさんの料理屋、大繁盛だもんね、色々考えてて凄い。」

エ「そうねぇ、本当に沢山の人が来るようになって。ウチなんてただの家庭料理みたいなもんだから、この年で学ぶのも大変よ。最近はまた南の森が物騒になってきて、お肉の確保も大変でねぇ。」

進「えー、そうなんだ。でも今なら、村に来ている冒険者に頼めばすぐに解決じゃない?」

エ「それもそうなんだけど、いつもの冒険者さんじゃない人達は、この村というよりギルドのクエストが目当てだからねぇ。"新天地"なんて言われてるせいで、みんな眼の色ギラギラさせて飛び出していくのよ。森の平和を守って、なんてなかなか聞いてくれないんだから。」

進「そんなもんかい? 逆に言えばいつもの人達はとってもお人よし、って事かな。危険を顧みずに、僕らの村も守ってくれたし。」

エ「ふふっ、そうかもねぇ。何もないこの村に、住んでくれるって冒険者はなかなかいないと思うわ。レントさんなんか、ご家族までお連れになって。留守の間も、女の子いっぱいよね。」

進「そこは突っ込まないでおこうかな。でもそしたら、やっぱりある程度は村の人達だけでなんとかできるようにした方がいいんだろうね。僕達の村も最近とっても訓練してるって手紙が来てたよ。」

エ「そうねぇ。セイルちゃんやスーホ君は訓練に勤しんでいるし、今はワークマンさんのお店で凄い魔動機もたくさん売ってるから、ある程度は安心してるんだけど。昔に比べたら、忙しいけど平和な毎日よぉ。」

進「そっか、それは良いや。何事も平和が一番。ロックウッドの反転攻勢、東の征伐が終わったらもっと平和になるかもね。」

エ「上手くいくといいけどねぇ、もう襲撃はこりごり。ところでススムさん、どうしてずっと動かずにいるんだい?」

進「いや、あはは、村の下掘りまくってたら、アクシズさんついに怒らせちゃって、『魔晶石の気持ちになってみなさい!!!』って身体中に土砂張り付けられちゃって動けないんだよねえ。そろそろ色々しびれてきて、喋ってないととっても辛くて。」

エ「あらまぁ。大変ねぇ。」



1日前、深夜、北の門手前


アクシズ(以下水)「あー、終わったわ! 点検終了! 流石私の作った石壁、全く問題なかったわ! 点検の必要すらなかったわね!」

白い猫(以下猫)「全くです。流石アクシズ様、制作物も本人もお美しい。」

水「や、やーね、本当の事言われても照れるじゃない。貴方も付き合ってくれてありがと。」

猫「お礼にゃど、恐悦至極です。僕はただくっついて喋ってただけですので。」

水「それが良いんじゃない、誰かが一緒に話してくれるだけでいいの。だから貴方、もう少し言葉を崩してもいいのよ? そんな堅苦しくなくとも気にしないわ。」

猫「えぇー! 嫌です、アクシズ様は僕をお救いいただいた女神様です、そんな対等にゃ立場に立つにゃど断じて!」

水「ちょ、ちょっと、わ私が悪かったから、本気で女神って言うのやめて!恥ずかしいから!…貴方と友達でいたいのよ。」

猫「女神様は女神様です。この世界に飛ばされ、右に蛮族左にタイガーの地獄渦中にいたあの日の僕。それを遥か遠方より『去れ!』の一言で者共を蹴散らし、お救いいただいた麗しき御方。その御身が初めてこの目に映った際、そう見えたのだから仕方のにゃい事です。友達でも女神様です。」

水「いや、あの時は、ただズッコケて変な声が出ただけで…まぁいいわ、全く変な子なんだから。」

猫「変で結構。しかしアクシズ様、どうして急に壁の点検にゃど?」

水「え、わ、分かんないわ。なんか、やらないといけない気がして。どうせ暇してるくらいなら、見ておこうかなって思ったのよ。」

猫「おおお、流石でございます。常日頃から民達の身を守る意識が高い! まさに統治者に相応しいお方!パーフェクトウーマン!!」

水「他人から言われるとこんなに痛い言葉だなんて…」



当日、夕刻、村の南側にて


スーホ(以下少)「今日は初めての南側当番だ、気合入れるぜ。…あんまりこっち側には来た事ないんだよな、蛇が出ると怖いし。でもウルフちゃん、毎日こっちに向かってくよな、いつも何処に帰ってるんだろ。一人じゃ危な」

???「ワッ!!!!」

少「うぎゃあああああああ!!!!!!」

ウルフ(ロシェ)(以下狼)「おお。最高だ。良い悲鳴だったぞ。」

少「ウ、ウルフちゃん!? もう、脅かさないでよ! てか後ろにいるって全然分からなかったな、ウルフちゃん気配消すの上手いね。」

狼「だろ。飛んだしな。」

少「飛んだ?」

狼「あ。違う。飛ぶくらい早かった。うん。そうだ。」

少「そうなんだ。やっぱり、ウルフちゃんもセイル先輩と同じくらい強いのかな。オレも頑張らないとな。」

狼「ふふ。お前。話の分かる奴だな。」

少「(あっ、笑った顔可愛い…って、違う違う!オレは先輩の事が…)」

狼「どうした? なんか。心臓うるさいぞ。」

少「えっ!あ、いや、ええ、き、聞こえるの!?てか待って、近い、近いよウルフちゃん!!」

狼「ふふふ。こんな真っ暗でも。オレはお前の事バッチリ見える。凄いだろ。」

少「ここここんだけ近けりゃオレにも見えるよ!!!は、鼻が、鼻が当たっちゃう…!!」

狼「…」

少「ウ、ウルフちゃん!?近い!!近いよ!!そんな真っ直ぐな目でオレを見ないで!!あー!!ごめんなさい先輩!!!」

狼「……」

少「ウ、ウルフちゃん?」

狼「…なんだ? なんか。いるぞ。」

少「え? あ、ヘビかな!この辺、ヘビが出るからあまり近づくなって」

狼「違う。…お前!すぐみんな起こせ!猛禽族だ!」

少「え?ウルフちゃん、何を言って…?」

狼「みんな死ぬぞ!早く!オレもママ呼んでくる!」

少「わ、分かった、すぐに村長んところ行く!」

狼「…なんだ。ゾワゾワする。ザガロが死んだ時と同じ。嫌な感じだ。」


同刻、道具屋ワークマンにて


トトロ(以下ト)「広がる~ん未来に~っとぉ、いやー、こんだけ魔動機揃えちまうと、夢が溢れるねぇ」

ワークマン(以下ワ)「まだまだ手狭で申し訳ないだ。こんだけの量があっても、飾る場所がなきゃ持ち腐れだべ。」

ト「最近お客さんも多いしねぇ~。倉庫も近くないし、品出しの為に毎日遅くまで仕事してんだったら、サクッとお店大きくしちゃおうよ!」

ワ「出来たらそうしたいべ。んども、素材が足りなくてなぁ。近くの木とか切ろうとするとセイルが怒るし、大棟梁は砂とか土で作れるもんしか無理だから道具屋の壁には難しいし。村の掲示板に出してるども、なかなかそうタダで持ってきてくれる人いないべ。まぁ荷運びくらい我慢できるだ、頑張るべよ。」

ト「う~~ん、そうは言ってもなぁ。あ、そうだ、確かこの辺に荷運び用の魔動機が~っと、あった! これ貸してあげるよ! 少しは楽になると思うぞ!」

(四次元ポケットからドスン、と出てくる大型魔動機。この世界の素敵な道具袋)

ワ「え、いや、悪いだよ、そんな高そうなの。うまく使いこなせる自信、ないべ。」

ト「そんなことないよ、簡単カンタン~♪ ここのボタンをポチッと押すだけさ、そーれ!………あれ?」

ワ「おお、光り出したな、どうやったら荷物認識するべか?」

ト「あれ、おかしいな、こんな反応見た事ない…というか、光ってるだけで動く気配がないぞ…?あれれ?」

ビー!!ビー!!ビー!!ビー!!ビー!!ビー!!(外から突然の機械音)

ワ「な、なんだぁ!?」

ト「い、異常を知らせる警報音、それも同時に!? ちょっと、見に行ってくる!」

ワ「き、気を付けるべ!」



襲撃開始、一刻後、村の中心広場にて


村長(以下村)「来よったな。久々に大襲撃じゃ。しかも、恐ろしく用意周到にな。」

トトロ(以下ト)「ごめんよ~、まさか、魔動機を全部機能停止にしてくるなんて。あんなもん、大破局時の遺物クラスじゃないかぁ。」

スミロス(以下鍛)「間違っちゃいないだろう。元々蛮族領だ、そういった遺物が残っててもおかしくない。あんたもそれ目当てでこの地に来てるだろうに。」

ト「そ、そうだけどさぁ。私だって、この村守る気持ちはあるんだわ。悔しいのなんのって。」

ワークマン(以下ワ)「し、仕方ないべ、トトロさんそんなしょげんと。逆に言えば、そんな遺物持って来させるほどトトロさんの魔動機怖がってるって事だべ。」

村「その通りじゃ。奴らは魔動機を止めた事で、いい気になっとると考えられる。その証拠に、予想外の抵抗で攻める事が出来ずにおるんじゃ。北側のアクシズ嬢ちゃん・ピット殿と、南のヴィルちゃん・スーホ少年はとても良い動きをしておる。今のうちに、反撃の糸口を見つけねばならん。」

ト「ヴィルちゃん?って知らない人だな、強いのか?」

鍛「南側は一人で問題ない、程度にはやるだろうな。俺の鍛えた剣も持っている。奴を飛べるようにしたのは、村長の仕込だな?」

村「ほっほっ、備えあればなんとやらじゃ。しかし、ヴィルちゃんは敵とにらめっこ状態になっておる。ワシらに一人も被害を出させんように、な。てっきり、犠牲は厭わんで動くと思っておったが、予想以上に優しい子じゃった。」

ト「す、すごいんだ。オッケーオッケー、じゃあヴィルちゃんを基準に動けばいいんじゃないか? その人が動けるように、まずは南を抑える感じで。他に、戦える人はいないのか?」

イスロード(以下イ)「仮設ギルドには現在、タイミング悪く冒険者はおりません。全員、出払ったタイミングです。それも全て、南の空から見通していたのでしょう。ワタクシも魔動機術は出来ますが、その、狙いを定められないターゲッティングがないもので。申し訳ありません。」

ワ「アラクルーデル1体なら何とかなるども、ああも空高く居座られちゃ手も足も出ないだ。」

鍛「弓使いのスーホを無理やり働かせているくらいだ。あの相手にはまだ戦える技量じゃない。無理しなきゃいいが…」

村「絶対にヴィルちゃんより前に出るなと伝えておる。ワシとワークマンは紛れ込んでくるレッサーオーガの駆除でここを動けん。なんとかして、ロックウッドに救援をだせれば…」

イ「適任はワタクシかと。包囲網を突破する実力と、最悪の事態も記憶を失うのみですので。日記も付けておりますし、気軽にお任せいただければ。」

村「う、うむ。流石ギルドの方は慣れておる。救援要請、お任せしたい。」

イ「承知しました。セイル様、ひと時お傍を離れますがお許しを…セイル様?」

セイル(以下帆)「私が、私が戦う!」

村「…っ!!セイル…!」

帆「私が南に行けばいいんだよね? スーホくんと連携の練習も何回かしてるし、私なら空も…」

村「セイル!駄目じゃ!!」

ト「うわっ、ビックリした。」

帆「っ!;そ、村長…?」

村「おぬしは戦ってはならん。今回の相手は駄目じゃ。分かったな。」

帆「な、なんで…スーホくんは戦ってるよ…?」

村「駄目じゃセイル。おぬしは家に帰っておれ。頼む。」

帆「う、うん…分かった…」

イ「…お気遣い、痛み入ります。ではワタクシはこれで。」

ワ「村長、気持ちは分かるだが…」

ト「セイルちゃん、強いと思うぜ? 駄目なのか?」

村「駄目じゃ。あの子の父親はオーガを討ち取ったところで不意を突かれた。どう考えても、不吉な予感しかせん。せめて後ろを守る存在がいなければ…」

ワ「冒険者さん達がいれば、なぁ。」

鍛「ふん、とりあえず俺と商人とで魔動機の再稼働を試みよう。やれるな?」

ト「そ、そうだな! そうでもしなきゃ商売あがったりだし! よーし、見てろよー」

村「ワシはここを守る。ワークマン、鍛冶屋周辺を頼むぞ。援軍が来るか、魔動機が再稼働すれば、良い方向に動くはず。各自、出来る事をしていくのじゃ。」

ワ「分かっただ。やれること、やってくべ。」



風雲急を告げるクレイ村。救援が間に合うかどうか、冒険者の行動次第。


※ウルフはヴィルの下、南側門で侵入者を監視してます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る