波々涙について

防波堤の上で

死体が笑っている


ひどく恐ろしくなって

その場から離れようとするけど


波の音がうるさくて

動けない


そのうちその音は

声であることに気がついて


それもひどくやつれた叫び声

喉仏にひっかかった金切り声が

人間の粘膜を切り裂きながら

ぬっぽりと

それでいて、鋭利に突き出る


「わかったかい?」


「なにが!?」


叫び声に負けない声で私は死体と会話をする


「なにがだと!?何がって、キミ……」


死体はため息を吐いた

理解を得ることを諦めたかのように


死体はため息を吐き続けた

死体の口から息とともに、内臓が吐き出される


そのまま、足から順番に裏返り始める

目を伏せたくなるような毒々しい赤


防波堤はおびただしい量の血液で濡れ

やがて、瓦解した


さよならもなしに

死体は溺死体となった

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