第3話 俺はこの道を征く
ゴードンが慌てるのも無理はなかった。
後々自分でも調べてみたが、奇跡の最高適性を現すのは、本物と見間違う程の黄金色らしい。俺のはまさにそうだった。
1000前にいた聖女様がまさにそうだったらしい。ゴードンは歴史に長けており、なんなら俺の適性は、その聖女様以上らしい。
……うーんw
正直、反応に困った。
そりゃ、適性が凄いのは嬉しいよ?
でも魔法をビシバシ、どりゃ! 分かりやすく俺かっけえええ。俺つええええがしたかった。
それなのに、適性が奇跡にあった。
過去にこの適正から聖女様と呼ばれた人が出たと言われるように、奇跡の力は癒しの力とも言われている。
代々のカス一家にして、その集大成とも呼べるカス、レイヴン・ナイトメアの適性が奇跡にあるだと!?
そんなことがあっていいのか?
ドブネズミに華麗な衣装を着せるようなものだぞ。馬子にも衣裳を超える暴挙だ。
しかし、なんどか適正検査を行ってみるものの、検査にミスはなかった。
レイヴン・ナイトメアの適性は、間違いなく奇跡の力であり、しかも史上最高レベルかもしれないというお墨付き。
ここで一つ気になることがある。
ゲーム内のレイヴン・ナイトメアも奇跡に適性があったはずなのに、なぜ魔法の道を進んだのか。
その答えは、俺の記憶にある気がした。
レイヴンはこれまでの人生で、ことごとく奇跡の力を見下した発言がある。親の影響か、それとも環境のせいか。はやまたカスのせいか。レイヴンは奇跡の力を見くびっている。
だから、魔法の道に進んだのだろう。
そちらも適性はあるからな。それもずば抜けた才能だ。
しかし、俺はそんな簡単に決めることはできない。
悩みに悩んだ。
そして、決断を下す。
「俺は奇跡の道を進む」
そう。ゲームの世界とは違う分岐だ。
どの道俺がミクリアたんを殺さなければいいだけなのだが、せっかくならすんごい適性がある方に進んでみたい。
どんなことになるのか楽しみだからだ。ミクリアたんのために生きるとはいえ、自分の人生でもある。
俺はこの選択を後悔することはないだろう。
「さっそく、奇跡の力を操れるように、修行をつけてくれ!」
俺はゴードンに頼み込んだ。
「今一度理由を聞いても?」
「……守りたい人を守るため」
注釈をいれると、守りたい人に俺も入る。
これだけ恨まれているんだ。いつ襲撃があってもおかしくない。
力を付けるのは、自衛の意味もある。悲しいことにね。
「わかりました。では、私の知るカリキュラムから始めましょう。少し、きついですよ?」
「楽しみだ」
◇◇
私はナイトメア家に執事として使えるゴードン・セルスティア。もともとは王都にて働いていおり、王宮でも役職を得ていたほどだ。生まれは弱小貴族で、王家のあるお方の助けにより教育を受けられた。
だから、あの方の命令に従って、王宮を離れて、新しい土地にやってきた。
あの方からの命令は「ナイトメア家を監視しろ」というものだ。
ナイトメア家はカスの癖に豪運の持ち主で、エーテライトの鉱山が見つかって以来、金と権力が集まっている。
ナイトメアは伯爵位だが、今や王家の人間ですらナイトメア家に迎合する者がいる程。
その理由は単純明快、金があるからだ。
全ての贅沢は、ナイトメア家の収束すると謎の迷言を言っていた領主だが、なんとなく納得した自分が悔しい。
そのナイトメア家において、私は跡継ぎのレイヴン・ナイトメアのお目付け役の仕事も任されている。
カス一家に似つかわしく、この小僧もカスだ。
私に王家からの任務が与えられていなければ、このガキを殴り飛ばしてとっとと仕事を辞めているところである。
それほどまでに、これまでの行動がカス過ぎる。
どうしようもない人間っているのだなって人間にあきらめを感じたほどだ。
そんなカス小僧から、強くなりたいとの相談があった。
何やら決意を秘めた目は、妙に私の心を揺さぶった。不思議な感覚だった。
協力する気にはなれなかった。こんな小僧がどうなろうと、私には関係がないからだ。
しかし、仕事をしなくてはナイトメア家における私の立場が危うくなりかねない。
そうすれば、本来の仕事も果たせなくなる。
私はしぶしぶ、本来の道筋を教えてやることにした。
まずは適性を知ることからだ。やみくもに始めても、良いことにはならない。
己を知り、そして世界を知る。これが強くなる最短にして、最適な道だ。
そして、私はとんでもないものを見ることとなった。
かつて、聖女様がいた。
彼のものは、賢者の聖杯の水を黄金色に染め上げ、触れるだけで重病人を小躍りさせるまで回復させる力があったそうな。
子供の頃、私は過去の英雄たちのそういった話を読むのが好きだった。
絶対にあり得ないとは思いつつも、こんな人たちが今の時代にもいたらいいなと思っていた。どうせ伝記だ。脚色されているに違いない。
だって、これまで見て来た賢者の聖杯は、どれも少し色がつくだけで、黄金と見間違うほど染め上げるなぞ、まさに本の中でしか聞いたことがなかった。
どこか大人びて夢をあきらめていた自分がいた。
そんな自分が、おとぎ話の世界に舞い降りたかのような後継を見てしまった。まさに、聖女様……いいや、本で読んだものよりも凄まじい。
聖杯の中身が、本物の黄金に見えてしまったのだ。
なんなのだ。この才能は。悔しい。
なぜ悪人にこれほどまでの才能が授けられるのか。
悔しさと同時に、底知れないあこがれもあった。
あの聖女様と同等か、それ以上の才能をもったこの男が、本気で努力したら、一体どれほどの高みまで行けるのか。私は王家からの任務を始めて忘れて、自分の欲に従った。
この子を育ててみたい。
かつて、おとぎ話の世界にいた聖女様のような存在になるまで。
その為の犠牲なら、私が払ってもいい。
気づけば、私はこの子の才能に、惹きこまれてしまっていたのだ。
それでも、この子の悪行を見て来た身としては、なんとか反抗してやりたい気持ちもあった。
絶対に飽きる。
そうさ、すぐに飽きて特訓を辞めるに違いない。
絶対にそうなる。
この家には伝説級の宝をしまった宝物庫がある。あの宝たちのように、腐っていくんだ。世の中の役にも立たず……。
「えっ……!?」
その夜。
屋敷の戸締りを確認して回っているとき、私は信じられない光景をみた。
書庫に明かりがついており、鍵も開けられている。
こんな時間にあけられていることも以上だが、何よりランプを灯しっぱなしはいけない。ナイトメア家には希少な図書が多くあり、書物を愛する一人としては、火の不始末は絶対にあってはならないと思っている。
足早に書庫に近づくと、そこには人がいた。
「レイヴン・ナイトメア……」
聞こえない程度に声量を抑えたが、それでも言葉を漏らさずにいられなかった。
なんでこんな時間まで?
頭をひねり、初めて脳内に入れる知識に苦戦しながらも、その目は輝きに満ちて『奇跡』に関する図書を読んでいた。
誰が教えたのか、いいや数を読んでいくうちに最適なものを見つけたのだろう。
おそらくもっともふさわしい書物を手に取り、私が近づくのも気づかない程、夢中になって読み漁っている。
本の虫とはよく言ったものだ。
夢中になって紙を食べ続ける虫のごとく、レイヴンは本に噛り付いている。
天才。
こういう表現はあまり好きではないが、私はこの子にそれを感じた。
今までの行いを正当化してやることはできない。この子はカスだ。
しかし、この子の努力、奇跡の力を開花させる道を、誰にも邪魔させない。私は今日、そう誓ったのだった。
朝方、書庫に入ると、本に覆いかぶさって寝ているレイヴン様がいた。
毛布を掛けてやる。
気づけば、私はこの方に、敬意を払わねば気がすまなくなっていた。
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