だれ
@Ruden28
だれ
「君は誰だ。」
「ボクはキミだ。見る限りではね、とても信じられないが。」
「僕は僕だよ。君は僕じゃない。」
「ボクだってボクさ。それと同時にキミでもあるんだ。多分ね。」
「突然に僕の目の前に現れてそんなことを言われたって、信じることは出来ないよ。」
「キミがボクの前に現れたんだ。突然ね。びっくりしたよ。」
「君は誰なんだ。」
「だからボクはキミだと言ったろう。そうとしか思えないじゃないか。少なくとも見た目はそうだ。もしかして生き別れの双子か何かなのかな。」
「名前はなんだ。」
「○○。」
「僕もそうだ。」
「小学校はどこだ。」
「○○市立○○小学校。」
「僕と一緒だ。」
「じゃあ逆に聞こう。キミが一番最初に飼ったペットの動物と名前はなんだ。」
奇妙な二人は道の真ん中で一目を気にせず、互いの記憶を確認した。二時間と少しが経った頃、彼らは互いが同じ人間であることを認め合った。
「どうやら僕と君は同じ人間であるようだね。」
「そうだな。キミとボクは一緒の人間だ。これからどうしようか。」
「まずは僕たちのことを家族にどう説明するかだね。あと、大学。彼女のこともある。」
「どうにか二人で誤魔化しながら生きて行く他ないだろう。同じ生活を二人で分けなければいけないんだ。良い感じに分配しないと不満が出る。ただ、優先権は本物のほうにあると思うんだ。」
「それは同感だ。なるべくバランスは取りたいけど、どうしてもという場合は本物に選択権を与えよう。」
「そうなると僕は講義よりも彼女を優先したいから、気の毒だけど今度の旅行は僕が行くから、君には単位のための出席をお願いする。」
「待て待て待て。なぜキミが本物になっているんだ。本物はボクなんだから旅行に行くのはボク、講義はキミの役目だろう。」
「君は何を言ってるんだ。本物は僕だ。」
「クローンで例えようじゃないか。オリジナルとクローン、奴らは同じ見た目で、同じ遺伝子情報で、同じ記憶を持っている。互いが互いを偽物と主張し、己を本物と言い張るところまで全く一緒だ。この場合どちらが本物かキミは分かるか。」
「そりゃあオリジナルと言ってるんだから、そっちが本物だろう。」
「鈍いな。オリジナルだからといって本物であるとは限らないだろう。じゃあなんだ、先に存在している方が本物だとでも言うのか。」
「そうだ。」
「じゃあそれをどうやって説明するんだ。遺伝子情報と記憶が一緒なんだ。どちらが先に存在していたかなんて証明しようがないだろ。」
「そりゃあ君、クローンはオリジナルを基に作られたんだ。何でクローンを製造したかなんて分からないけども、源流と末流があるだろう。源流の方にいるのが本物だよ。」
「シャッフルしたらどうなる。シャッフルしたら分からなくなるだろう。」
「まあ、確かに。」
「オリジナルとクローンは外面も内面も全く一緒なんだ。両者を区別することは出来ない。」
「じゃあ、僕が最初だったぞ。僕が歩いているところに突然君が現れたんだ。」
「それはボクも一緒だ。ボクが歩いているところにキミが来たんだ。」
「時の流れでは僕たちのどちらが本物か暴くことはできないということか。」
「キミとボクは一緒だ。同じ人間だ。等しい存在だ。」
「しかし違う。何かが違う。けどその違いでさえも、おそらく同じものになるだろう。」
「他者と自己、キミとボクを隔てるものはなんだろう。」
「エヴァで言うATフィールドだな。肉体の構成が全く一緒の人類、それが画一的になるのを防ぐのがATフィールドだ。」
「高度に情報化された世界では、人が見るものや聞くもの、知るもの。好みや思考は、どんどん均質化していく。でも、そのなかでボクたちと、そのほかの人間を分けるものはなんだ。」
「全く分からんな。」
だれ @Ruden28
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