第8話 強襲
休憩が終わり、完全に日没した事を確認するとフレドリック男爵の部隊は動き始める。
奇襲を受けた時に備えて、それぞれ距離を開けて歩く。
「シャッター式ランタンに光をともせ。音は立てるなよ」
フレドリック男爵は部隊にそう命じる。
部隊は粛々と進み部隊は盗賊が根城にしている村まで3000リーグまで近づいた。
フレドリック男爵は部隊の三方向が閉じられたシャッター付きランタンの合図で停止を伝えていく。後方の部隊にシャッター付きランタンを2回光らせる。それが続いていく。十分な間を取っていた後方の部隊は停止した。前方の兵士には肩を2回叩く事で停止の合図として伝えていく。部隊は完全に停止した。廃村に向けては丘が前に立っており部隊は見えない。アルベルトは男爵に作戦の実行部隊になる事を願うためにフレドリック男爵がいる部隊の中心部に向かう。
「私も行くわ。一応私も当事者だしね。それに命の刈り取り手としての仕事もあるから」
その声は少し震えている。実際の大地の巫女と命の刈り取り手を兼任しているのだがまだ16歳の少女が小規模とは言え軍事行動が怖くないはずが無いのだ。
小声で言う。
「アル?少しマントを掴んでいても良い?」
フレドリック男爵に見られたら厄介だけど、ファーナの気持ちは分かる。
「良いですよ。大司祭様」
小声高少しおどけた声で言う。
ファーナが戦場に来てくれると楽で良いだけのだが、それは言えないなと思う。
女性であり、16歳の子供であり、大司祭であり、大地の巫女であり、命の刈り取り手である。一般の感覚としても、アルベルトの持つ正義感と常識と騎士の誇りが付いて来る事を否定しようとしている。
「ヘンドリック男爵様、情報によりますと盗賊の数は少ないと思われます。部隊で動くと逃げだす可能性がありますので、私と兵数名で奇襲をかけたいと思います。ここでお待ちをいただけませんか?ヘンドリック男爵様の剣は騎士と戦うための剣、盗賊ごときに剣を汚す必要は無いと思います。そのために先任軍曹をお借りしても?」
熟練した野戦指揮官でもあるヘンドリック男爵は少し考えた。
数の少ない盗賊を討った所で誇れるものでもない。
しかし逃げられるのも困る。
盗賊などの雑魚はアルベルトに任せても良いと思った。
失敗すれば責任を取らせれば良いのだ。
もちろん完璧な指揮官を演じているヘンドリック男爵はそのような態度をおくびにも出さなかった。
「よかろう。好きにいたせ」
「有りがたき幸せにございます」
「先任軍曹、剣兵から2名兵を選んでください」
「分かりました」
先任軍曹は戦慣れしており、兵士を選ぶと屋内戦闘用の槍を構えてやってきた。
「ヘンドリック男爵様。男爵様の兵がいくら精兵でも数が少ないですわ。私もどうこうしてもよろしいですか?もちろん祈りの刈り取り手として、そして癒し手として」
「行ってくださるのならありがたい。任せましたぞ」
ヘンドリック男爵は大司祭を戦闘に行かせるのはまずいと一瞬思う。しかし、大きな力を持っているはずなので、簡単には死なないと思う。そしてもし怪我でもしたら、功績を挙げて疎ましいアルベルトのせいにして処断すれば良いと思っている。それに大司祭にして大地の巫女たるファーナを止める権限はフレドリック男爵には無かったのだ。
「グリムもお供するですだ」
「仕方ないな、槍とロープを持ってきてくれ」
「もう用意してるだ」
「じゃぁ、軍曹行こうか。軍曹を戦闘に警戒態勢で進む」
「了解です。左右に1リーグ、兵は別れよ」
ファーナはぎゅっとアルベルトのマントを掴んでいる。
アルベルトは小声で尋ねる。
「大丈夫ですか?ファーナ様」
「なんともありません」
「廃墟までもう少しです」
「戦闘になったら、グリムと私から離れられないでくださいね」
兵士が付いているので馴れ馴れしくでは無く、目上の者に対する口使いになっている。
「廃村まで、後少し、静かにしていましょう」
そして二人は無言となった。
でもファーナはアルベルトの気遣いと優しさに触れていた。
アルベルトは絶対にファーナを守ると決意している。
その決意を確かに表すためか、慎重に音を立てない様に行動をしている。
やっとの事で廃村の入り口にたどり着く。
アルベルトは廃村に灯りが無いか探している。
闇は人の恐れを与える。
だから闇の恐れを消し去るために盗賊達も灯りを使いたいし、温かい食事を取るために火の気は絶対にあるはずだった。
アルベルト達は灯りを探して、廃村の中に入って行く。
少し進むとアルベルトは不安に思う。
暗闇は人を恐れさせるし、襲撃に気づいて逃げたのかもしれないし、こちらの襲撃に気づいて灯りを消したのかもしれない。
物音を立てずに村の中心部までやって来た。
辺りをアルベルトは見回してみた。
こんこん
アルベルトの肩を軍曹が叩く。
軍曹が右斜めにある大き目の家を指さしていた。
アルベルトはそちらの方を見る。
大き目の民家から、灯りが漏れ出している。
経験を積んだ軍曹と言うのはとても頼りになる。指揮官を立ててくれるし、戦いと言うものに熟知している。その分、無能な指揮官に対してはとても厳しい。
有能かどうかは自信が無かったが、この時は軍曹に感謝している。
アルベルトは小声で言う。
「兵士を連れて、裏口に回って、騒ぎが起きたら突入して逃げる盗賊を制圧してください」
軍曹は兵士たちの肩を叩き、自分に付いてくるように指示を出す。
アルベルトは数分の間待つ。
裏口に回ったのが確実と思った時間が来てから、静かにゆっくりと民家の前に行く。
ドアノブに手をかける。鍵はかかっていない。
中には薄汚れた服を着た男たちが5人いる。盗賊に間違いないとアルベルトは確信する。
そこで叫ぶ。
「大司祭誘拐未遂で逮捕する」
「何者だてめー」
「死にたいのか、こら!」
「1人で来るなど、酔狂な奴、殺してしまえ」
リーダー格の男が叫ぶ。
男たちは口々に叫び、ロングソードを抜く。
アルベルトはまたもや入り口に立っている。家具やテーブルが散乱していて、1人しか攻めてこられない。そして、室内で使うには長すぎるロングソードを使っている。
「てめーが死ねや!」
ロングソードを振りかぶって盗賊が襲い掛かって来る。
「カウンターシールド」
アルベルトは一歩踏み出して、ロングソードを振り下ろしたタイミングで盾をロングソードに叩きつける。
ボキ
グシャ
ロングソードが折れて、その衝撃で手首が折れた嫌な音がする。
アルベルトは一歩下がる。
右側にあるテーブルの上からロングソードで突かれてきたら危険だからだ。
「変われ、俺が殺す」
次に出て来た男が言う。ロングソードを持っている。
少し戦闘訓練を受けた事があるのだろう。
両手でロングソードを持ち、アルベルトから見て右側にロングソードを構えて、突いてきた。
シールドに守られない右半身に対して有効な攻撃だった。
だがアルベルトにしてみれば、それも想定内だった。
シールドの剣技を発動させつつ、左半身になると、シールドで体が覆われる。
盗賊の次の攻撃をさせないために、盾で右側のテーブルに手首事、ロングソードを叩きつけてロングソードを折り、その衝撃で手首がにしびれが残っている盗賊を盾で吹き飛ばした。
ごきん、骨の砕ける嫌な音がする。
リーダー格の男が叫ぶ
「誰かテーブルの上に登れ、同時攻撃だ」
リーダー格の男の叫びは正しかったが、盗賊達は少し混乱する。
アルベルトは残った盗賊二人が行動を起こす前に行動を起こしていた。
走りこむと、シールドで左前側に立っている男に盾で体当たり攻撃をおこなう。
盗賊は簡単に吹き飛ばされた。
そして、その行動は同時に盗賊二人のロングソードの間合いを無視して、近距離、ちょうどウォーハンマーの間合いに入った事を意味する。そのまま、盗賊の右肩をウォーハンマーで叩きつける。やはり骨が砕ける音がする。
アルベルトはこんなに強いのに、自分を大きく誇ったり、出世に意欲を見せないだろう。先祖代々、フレドリック男爵の配下であるから仕方ないのかもしれないけど、これ以上の出世は見込めないし、もう四人も倒しちゃった。魔法の準備をしながらそう思った。
アルは正規の騎士に盗賊の遅れを取る事は無いと、盗賊達が弱すぎると言うのだろうけど、アルは確かに強かった。
不思議な人。ファーナは魔法の準備をしながら場違いな事を思う。
リーダー格の男は不敵に笑う。
「騎士殺しの異名を持つこの俺様にスティレットを抜かすとはな」
そう言い、ダガーに分類される先の尖った短剣を鞘から抜き左手に持った。
細長く頑丈で先の尖った短剣は簡単にチェーンメイルを貫く。
アルベルトは会話にも乗らず、そして降伏勧告を行わずに、ダッシュして盾ごと体当たりしていた。
盗賊が降伏しても死罪なのは変わらないからだ。無駄な抵抗を防ぐには制圧するしか無かった。
男はアルベルトの体重とチェーンメイルの重さと走った速度の質量の衝撃力に寄り、簡単に気絶するのだった。
裏口からやってきた軍曹たちが来た。
「相変わらずの手並みの良さですな」
「騎士が盗賊に帰り討ちになっていたら、生きている意味が無いよ。さっそくだが盗賊達を拘束して欲しい」
「了解です」
軍曹は尊敬の念を隠さずに、返答をした。
「男たちをロープで拘束しろ」
「はい」×3
兵士たちはそれぞれロープで盗賊達をくくっていくのだった。
続く
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