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 結婚相手として記されていたのは裏稼業「挑文師(あやとりのし)」の同業者。名前は寧月融(ねいげつ とおる)というらしい。

年齢は二つ上だというが、挑文師のスクールを卒業した年度は同じため、挑文師においては同級生だ。

「私は困ります」

「なるほど、恋人と別れにくいですか?」

 図星を指されて、言葉につまる。片思い相手からようやくいい返事をもらって、念願のお付き合いをばかりだった。

「とりあえず、婚姻届けを出してから考えればいいと思います。重なる時期があっても、恋人関係においては、責められませんし。そもそも恋愛沙汰で責任を問われる筋合いはない」

 寧月はしれッと語る。合理的な物言いが少し冷たく聞こえた。

「良くありませんよ、どうして乗り気なんです?」

「仕事だからです。橘川さんだって、そうスクールで学んできていますよね。一度指令があれば、生活における優先順位は変わると」

 学んできてはいますよ、もちろん、と私は答えた。

「それに、橘川さんは元々担当地域の漠(ばく)の清浄に関わっていますよね?」

「それは日常の業務範囲です。ただ、今回の結婚の目的に関しては理解できません。なぜ結婚なんですか?」

「鵺が逃げたそうです。そして禁書の気配を補足した、と報告があがっています」

「監獄からの鵺の脱走については、聞いています。弟が黄昏の監獄に配属されているから。禁書に関しては、原因不明の事故と処理された案件が怪しいと睨んで個人的に調べていました」

「さすがですね、有能だ」

 寧月が口笛を吹く。茶化されたようには感じたが話を続ける。

「だとしても。結婚の必要性は感じません」

「本来ならば、そうですよね。けれど、罪の保護には夫婦関係は目くらましになります」

――――罪。


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