一途
白詰えめ
想い
全部どうでもよかった。
ただ、後味が悪いのが嫌いなだけ。
「もう怒ってないよ」
だから、早く立ち上がりなよ。とまで言いかけて止めた。期待をかける言葉はもういらない。
私には恋人がいる。相手が熱心にアプローチしてきて、付き合った。恋人が欲しいわけじゃなかったけど、どんなものか知りたかった。
「かな!おはよ!」
大学に向かう道では必ず声をかけてくる。恋人はそういうものなのだろうと、私も返事をする。
「めいもおはよう。今日も元気だね」
「好きな人と一緒にいるんだもん、元気にならないわけないよね〜!」
「そういうもんなんだ」
「うん!」
私の恋人のめいは暇さえあれば話しかけてくる。いや、暇じゃなくても話しかけてくる。どうも理解はできないが、どうしようもなく私に恋をしているらしい。
「ねえ〜今日デートしない?」
「いつも急だよね」
「え〜。だって、かなを見てたら。あ!今日デートしたい!!ってなるんだもん」
「そうなんだ」
「そうだよ!かな大好き」
私はほとんどの日をめいとのデートの時間に使った。嫌という感情も嬉しいという感情もなかったが、楽しそうに笑ってるめいが羨ましくて、その理由を知りたくてデートしていたのかもしれない。
でも、12月になって、急にめいが話しかけてくる頻度もデートに誘ってくる頻度も減った。私があまりにも消極的だからじゃないかと思うかもしれないが、めいにはそういうのが無いのだ。上手く言葉で表現はできないが。
だが、距離が離れようと別にどうでもよかった。あっちがアプローチしてきたから付き合っているだけなのだし。そのつもりだった。
暇な時間が増えた。元は1人で勉強をしていた時間だったのだから、またそれに戻ればいいと思っていた。けど、気づかないうちにめいを目で追っていた。そうしているうちに、めいには仲のいい女の子が多い事に気がついた。
「今まで全く気にしていなかったのに。なんで」
わけのわからない感情だった。私と話すときとは違う表情のめい。違うことを言うめい。私が知らない言葉を使うめい。どれもこれも心に引っかかり続けた。浮気?一つの言葉が浮かんで消えてを繰り返した。「恋愛なんてどうでも良い」と今考えても、言い聞かせる言葉にしかならなかった。
めいを家に呼ぶ事にした。デートで何回も呼んでいるので、変なことでは無い。だけど、いつもと違う気がした。
「かなから呼んでくれるなんて珍しいね」
靴を脱ぎながら、長いまつ毛がついた可愛い目をぱちぱちしながらめいが言う。
「そうだね」
「なんだか嬉しいなー。今日はいい日だ!」
「そっか。よかった」
リビングに向かい、いつも通り2人でソファに腰をかける。
「ねえ、めい。浮気してる?」
躊躇いも無く口から出てしまった。
「え?何?もしかして嫉妬?」
めいは少し嬉しそうな目で何もわからないという顔をしている。
「最近、なんかそんな気がして」
「えーじゃあさ。そうって言ったらどうする?」
その言葉を聞いた途端、感情が抑えきれなかった。気がつくとめいの頬を叩いていた。めいはびっくりしたようにソファから立ち上がり離れる。
「かな?どうしたの?」
「ずっとずっと考えてた」
「、、、。え?」
驚いたのか、めいはその場で座り込んでしまった。あまりの、情けなさに呆れが出てきた。なんのためにここまで悩んでいたのだろう。やっぱ、どうでもいいか。でも、後味が悪いのは嫌いだ。
「もう怒ってないよ」
だから、早く立ち上がりなよ。とまで言いかけて止めた。期待をかける言葉はもういらない。
それにこれが自分から出てきた言葉なんて信じたくなかった。
自分が怖くなった。今度は私が唖然としてさっきめいを叩いた手を眺めた。すると、いつのまに立ち上がったのか、めいが目の前に立っていた。
「あぁ。よかった。これで両思いだね」
めいは、これまで聞いた中で1番幸せそうな声で言った。
「やっぱり、私の目は正しかったな」
状況が理解できなかった。そうしてるうちに、めいが抱きついてきていた。
「浮気って思わせてごめんね。あの子達が、勝手に私はかなと付き合いたくて付き合ってるんじゃ無いとか言い出してね」
めいは私の短い髪をパラパラと触りながら、話を続ける。
「あの子達、私の事何にも知らないのにね」
少し寂しそうな、でもとても嬉しそうな声でめいは言った。
「私が本当を見せるのは、かな、たった1人だけだよ」
私は、ずっと話しかけられるうちに自分の感情がますますわからなくなった。今私はどんな顔をしているのだろうか。
「あぁ、よかった。ねえ、かな大好きだよ。愛してる」
「私も大好き。愛してる」
自然と口から紡がれた。私は、めいを愛してる。
一途 白詰えめ @Rion_ame
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