Episode 65 - 本心を話せる相手
「……ごれ、どうじゅうごとにゃの?」
「食べるか、しゃべるか、どちらかになさいな」
腹を空かせた野良猫よろしく、ボウルに山盛りにされたシリアルにがっついている若きレンジャー。その姿を、シャワーを済ませたばかりのカニンガムは呆れた顔で見やりながら、冷蔵庫から取り出した牛乳のビンを手渡す。
(ホント、救命以外では子どもなんだから)
案の定、喉を詰まらせたらしいリエリーは、牛乳をラッパ飲みすると、「ふー」と酒飲みのような吐息をもらしていた。
「こんなんばっかり食ってんの、カミカミ」
「華の独身生活には代償もあるんですの。……それで、いったい、何があったんです」
「……ロカが、倒れた」
「――え?」
予想の斜め上を行った回答に、さすがのカニンガムも訊き返してしまった。リエリーからすぐに返事はなく、うつむいて考え込んでいるようだった。
「着がえてきます。待ってて」
てっきり、今朝のことで文句を言いに来たものとばかり思っていた。実際、ダイニングテーブルにはリエリーが表示させたのだろう、文書が散らばっていたからだ。
チーフオペレーターとして、カニンガム自身もこの急転直下の事態には、納得がいかないものがあった。
だから“客人”が帰った後、
(説明になっていませんでしたけれど)
本部長の説明は、そのすぐあとに出された〈国際威師会〉の発表をなぞるようなもので、説明というにはあまりにあっさりしたものだった。本人も自覚はあったらしく、珍しく「一本とられてしまったよ」と悔しげにしていた。
(ですけれど、あの子の言ったことがホントなら……)
寝室で手早く軽装に袖を通してリビングへ戻ると、リエリーはまだ、うつむいたままだった。
「ジョイナー?」
「ロカは……あたしの独立に反対なんだってさ。覚悟が足りないって」
「……理解が追い付けませんわ。順を追って話してください」
自嘲するリエリーの姿は、明らかに普段と様子が違う。論理立てて話さないと苛立ちを見せるのが常にもかかわらず、今のリエリーの口から出る言葉は支離滅裂だ。
束の間、仕事柄の習慣でチラリとキッチンへ目をやった。目立たないようにしてあるが、そこには反転感情検知センサが設置してあり、インジケータによって室内の反転感情をいち早く検出できる。
「あたしが“落ちる”ことはないってば。たとえロカがいなくってもね」
「ごめんなさい。忘れて」
目敏くカニンガムの意図を察したリエリーの言葉は、やはり力が入っていない。
ただならぬことが起きたのだということは間違いない。
だが、ここで急かすような素振りを見せるのは厳禁だ。それは逆効果になってしまう。
熟練オペレーターとしての辛抱強さを発揮し、カニンガムはリエリーの向かいの椅子に腰掛けてただ待った。
「……あのあと、あたし、現場に行ったじゃん。そこでさ……」
そう時間を置くことなく、リエリーがポツリポツリと言葉を紡いでいく。
カニンガムは相づちを最小限に留め、若きレンジャーの声に耳を傾けた。
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